閑話9-19 助けられた少女は高校生になった
(ガラッ)
「HRを始めるわよ」
教室の前方のドアが開き、担任の雨宮先生が入ってきた。
現在、29歳独身──もうすぐ30歳という大台に到達するということで焦り始めたと思いきや、自分には結婚は合っていないと早々に諦めている猛者である。
ルックスは綺麗なお姉さん系で姉御肌な性格のため、生徒からの信頼もかなり厚い。
いや、生徒だけではなく、他の教員や保護者からも信頼されているようである。
しかし、なぜか男性との浮いた話はなかったりする。
さばさばした性格のせいか、恋愛対象として見られないのだろうか?
そんな感じで数年過ごし、今の状態に落ち着いたようだ。
普通のアラサーの独身女性って、もっと焦ったりするものじゃなかろうか?
まあ、私の周りにはそんな女性がいなかったので、普通が分からないのだが……
とりあえず、先生が来たということで、私は席に戻ろうとするのだが……
「あれ? チャイム、なった?」
「え?」
不意に呟いた吉田さんの言葉に私は気づく。
そういえば、たしかにチャイムの音が聞こえてこなかった。
時計を見ると、八時半──毎朝のHRが始まる時間である。
雨宮先生が時間を間違えているわけではない。
なら、チャイムを私たちが聞き逃した?
いや、それはありえない。
チャイムの音は学校中でかなりの音量で鳴っている。
この教室のスピーカーが壊れていたとしても、他の教室で鳴っていれば聞こえてくるはずである。
しかし、私たちはそれを聞いていない。
これは明らかにおかしい事である。
「早く席に着きなさい……って、あら? 宮本さん、珍しいわね」
クラスメートに席に着くように促す雨宮先生が少し驚いたような表情を浮かべる。
真面目な委員長である私が席についていないことに驚いているようだ。
たしかに、いつもの私であれば、すでに席についているはずだ。
いつもなら、雨宮先生が教室に入ってくるまでに席についているぐらいだ。
だが、それもいつも鳴っているチャイムを聞いてから、席についているのだ。
「先生」
「何かしら?」
「チャイム、鳴りました?」
私は先生に質問する。
周囲からも少しざわざわとした雰囲気を感じる。
おそらく、私と同じような疑問を感じた者がいるのだろう。
「何を言っているの? さっき、鳴ったはずよ」
「そうなんですか?」
「ええ、もちろん。確実に教室に来る途中の廊下で聞いたわ」
私のおかしな質問に雨宮先生は普通に答える。
どうやら、彼女は廊下でチャイムを聞いていたようだ。
なら、チャイムが壊れている可能性はない、ということだ。
しかし、それならおかしい。
廊下で聞こえてくるのであれば、確実に教室の中にいる私たちにも聞こえているはずだからだ。
一体、何が……
「え? なんだこれ?」
不意に誰かの慌てた声が聞こえてきた。
いきなりだったので、誰の声かはわからない。
しかし、声の主が慌てていることだけは伝わった。
私は声の主の方──教室の真ん中のあたりに視線を向けた。
そこには……
「なに、これ?」
教室の中心に見たことのないものがあった。
正確に言うと、床に描かれているというべきか?
いや、それもおかしいな。
普通、床に描かれているものが光るなんておかしい。
そして、これは……
「魔法陣?」
私はそこに描かれているものを見て、思わずそう呟いた。
別に実物を知っているわけではない。
そこにあるのは、まさしくそうとしか思えなかったからだ。
ある程度、漫画やラノベを呼んだことがある者であれば、目の前のものを魔法陣だと思うだろう。
しかし、なぜそんなものが教室の真ん中に?
「どうしたの、みんな? あら、何かしら……」
クラスメートたちのざわざわとした様子に雨宮先生が気付く。
そして、彼女も中心の魔法陣に気づいたようだ。
不用心にも近づいていく。
普通、こういう得体のしれないものには近づかないのが当たり前だろう。
だが、彼女は物怖じもせず、どんどん近づいていった。
「誰? こんなことをしたの……」
クラスメートの誰かがいたずらをしたと思ったのだろう、雨宮先生が少し怒気を含ませた声で問いかけようとする。
だが、その言葉が最後まで続くことはなかった。
(ブワッ……カッ)
「「「「「えっ!?」」」」」
直径1mほどしかなかったはずの魔法陣が教室全体に広がり、そこから光が溢れ出したのだ。
教室中が白い光に包まれた。
いきなりの出来事に私を含め、教室にいた全員が呆けたような声を出すことしかできなかった。
ブックマーク・評価・レビュー等は作者のやる気につながるので、是非お願いします。
勝手にランキングの方もよろしくお願いします。
閑話9はここで終了です。
次回からは閑話10、この話の続きです。




