閑話9-14 助けられた少女は高校生になった
「はぁ……参ったな。まさか、言い当てられるとは……」
「え? 本当のことなの?」
高田くんの言葉に私は驚いた。
吉田さんの言ったことは理解はできたが、だからといって合っていない可能性もあると思っていたのだ。
不良の情報に詳しいとはいえ、野球一筋の高田くんが不良とつながりがあるとは思いたかったのかもしれない。
しかし、まさか吉田さんの言っていたことが当たっていたとは……
「俺自身は不良じゃねえぞ? ただ、目の敵にされていただけだからな」
「それも結構なことだと思うけど……」
私は何とも言えない反応をしてしまう。
高田くんが不良でないことは信じることはできた。
だが、不良から目の敵にされるというのも、なかなかな経歴ではないだろうか?
そうそう出会う状況でない気がするんだけど……
そんな私の反応を見てか、高田くんが説明を始める。
「中学時代の同級生──いや、元チームメイトが不良になっちまったんだよ。一年生の夏休み明け──いや、夏休みの間にはなっていたのかもな」
「え? どうして?」
「理由は簡単だよ。練習についてこれなかった、周囲と自分との差、今まで自分が受けてきた称賛とのギャップ──そういう理由でドロップアウトする、どの世界にもあることだろう?」
「……」
高田くんの説明を聞き、私は少し考え込む。
野球で考えるから難しいのかもしれない。
私の比較的得意な分野──勉強で考えれば、わかりやすいのかもしれない。
小学生、中学生のときに賢いと言われていた子が進学をきっかけに勉強についていけなくなるなんて話を聞いたことがある。
それの野球版なのかしら?
「とりあえず、自分はドロップアウトしたのに、俺が活躍しているのが気に入らなかったようだ。その当時はクラスも一緒だったしな」
「……でも、気に入らないからといって、それは逆恨みじゃないかしら? 辞めたのは結局、その人の責任でしょ?」
「その通りではあるが、中学生の少年にその正論は酷だと思うぜ? まだまだガキなんだから……」
「高校生も十分に子供だと思うけどね」
「世間一般的には、だろう? 高校生である俺たちが高校生をガキだとは思わんだろ」
「まあ、そうね」
高田くんの言葉に納得する。
たしかにその通りである。
自分の高校生なのに、高校生をガキ扱いするのはおかしいかもしれない。
「とりあえず、そいつは二年になってから、つるんでいる奴らと一緒に俺を襲撃してきたよ」
「え? 大丈夫だったの?」
いきなり聞かされたとんでもない情報に私は驚いてしまった。
少し大きな声が出てしまったので、周囲から視線を向けられた。
恥ずかしかったので、声を小さくすることにした。
「今の俺がいるんだから、大丈夫だったに決まっているだろ?」
「あ、そうね」
たしかに高田くんが元気そうなら、大丈夫だったようだ。
心配は杞憂だったようだ。
しかし、そんな私に吉田さんが告げる。
「まあ、スポーツをしている学生が喧嘩なんてしたら、大問題だけどね」
「あ」
吉田さんの指摘に私は呆けた声を出してしまった。
たしかに、彼女の言う通りだ。
ニュースで何度か、問題を起こして休部や廃部になった部活があると聞いたことがある。
理由は様々ではあるが、その理由の一つに暴力事件などもあったはずだ。
当然、喧嘩もその一つになるはずだ。
たとえ、高田くんが無事だったとしても、それを盾に脅される可能性もあるはずだ。
しかし、そんな私の懸念も高田くんが解消してくれ──
「安心してくれ」
「あ、大丈夫だったんだ──」
「返り討ちにした連中を脅して、黙ってもらっているから」
「全然大丈夫じゃないっ!?」
──くれなかった。
むしろ、何をもって「安心してくれ」と言ったのだろうか?
明らかに問題しかないと思うのだが……
これは私がおかしいのだろうか?
スポーツをしている人間にはこれが当たり前なのだろうか?
そんな疑問を持ちながら、私は吉田さんに視線を向ける。
彼女が言うのなら、安心できる。
「それ、大丈夫じゃないでしょ」
「やっぱり」
吉田さんはバッサリと切り捨てた。
そんな彼女の言葉に私も自分の考えがおかしくないことを納得することができた。
まあ、そのせいで新たな懸念ができたわけだが……
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