3-13 小さな転生貴族は獣の王女と友達になる?
※3月5日に更新しました。
リオンさんとルシフェルさんがエリザベスに連れて行かれ、部下の女性たちもついていく。
この場には子供たちが残ったていた。
「ねぇ……」
「ん? なに?」
ティリスが話しかけてきた。
申し訳なさそうな表情を浮かべ、話しづらそうにしている。
先ほどまで俺のことをお前呼ばわりしていた女の子と同一人物とは思えない。
やりすぎてしまったのだろうか、そんなことを思ってしまう。
「ティリス、しっかりしなさい。元々はあんたが原因なんだから……」
「わかってるわ」
そんな彼女の様子にリオナさんが後押しする。
姉の言葉にティリスは覚悟を決めた表情を浮かべてこちらに向き直った。
「さっきは悪かったわ。アレン様のことを知らなかっただけで、馬鹿にしてしまって……」
「いや、それは別に構わないよ。たぶんだけど、父さんは僕たちに知られたくなかったみたいだしね?」
「そうなの?」
「うん。父さんは自分が英雄であることを自慢するような人間じゃないしね」
「なるほど……たしかに、それっぽいわ」
ティリスが納得する。
自分が英雄であることを吹聴するより、謙虚な方が好ましいと思ったのだろう。
「とりあえず、気にしなくていいよ。僕も別に気にしていないし」
「でも……」
「どうしたの?」
「うぅ……」
ティリスは何か言いたそうにしたが、言葉にできないのかそのまま黙ってしまう。
一体、どうしたのだろうか?
戦う前までは言いたいことをズバズバと言っていたのに……
「仕方がないわね、ティリス。私が言うわよ?」
「ちょ、ちょっと待って」
「だったら、しっかりしなさい。それでも獣王の娘なの?」
「それぐらいわかってる」
リオナさんがティリスに発破をかけている。
その様子から姉妹仲はいいのだと感じる。
しかし、はっきり言うのに獣王の娘とか関係があるのだろうか?
いや、まあ、リオンさんは言いたいことをすべて口にするタイプだとは思うが……
「一つお願いしていい?」
「ん? 別に良いよ」
一体、何をお願いするつもりなのだろうか?
別に断る理由もないので、あっさりと返事をする。
流石に無理なら断るけど……
「これからは仲良くして欲しい」
「それぐらい良いけど、いったいどうして?」
いきなり漠然とした頼みをされ、思わず疑問に思ってしまう。
別に仲良くすることは良いのだが、どうしていきなりそんなことを言ってきたのかわからない。
そんな俺の疑問にリオナさんが答えてくれる。
「ごめんなさいね、グレイン君。実は友達がいないのよ、ティリスは」
「そうなんですか?」
俺は少し驚いてしまう。
友達が少ないのであれば、こんなことを言うのもわからないでもない。
しかし、友達ぐらい周囲に同年代がいればできそうなものだが……
「ティリスは獣王の娘で、しかも実力主義の考えに染まっているじゃない? だから、周囲がそれについていけないの」
「……なるほど。ティリスに見合う実力を持った同年代の子たちがいないというわけですね」
「ええ、そういうこと。ティリスはなまじ天才だから、同年代どころか少し上の世代ですら圧倒できる力を持っているの。だから、誰もついて来れなくて……」
「ティリスを打ち負かした僕ならば問題はない、と?」
「そうなの。お願いできるかしら?」
リオナさんが真剣な表情で頼み込んでくる。
妹のために年下の俺にここまで頭を下げるか……
本当に心配しているのだろうな。
「別に良いですよ」
「本当?」
「ええ、もちろんです。僕も気兼ねなく会話できる友人ができるわけですから」
「それならありがたいわ」
俺が彼女の提案を受け入れると、リオナさんは安心したようにため息をつく。
ティリスの方もどことなく嬉しそうな表情である。
そんな彼女の表情を見ると、やはり女の子なんだと思ってしまう。
戦う前は男勝りな雰囲気だと思ったが、こうやって見せる女の子っぽい雰囲気も彼女の魅力を高める要因だろう。
ギャップという奴である。
そういう点でも、可愛らしい女の子とお近づきになれるわけだが、案外いい事なのかもしれない。
そんなことを思っていると、リオナさんが追加してくる。
「あと、本気で好きになってくれたら応援するわよ? 私としては、強い義弟ができるのも悪く無いし……」
「いや、何を言ってるんですか?」
「あら、駄目かしら? ティリスは男勝りかもしれないけど、見た目は可愛らしいと思うんだけど……」
「いや、そんなことを言っているわけじゃ……」
「それに胸も大きくなると思うわよ? 私も母もかなり大きいし」
「ぶほっ!?」
いきなり告げられた内容に思わず吹き出してしまう。
たしかにその部分は女性の魅力を表す部分なのかもしれないが、そこまであけすけに言うようなものではないと思う。
事実なのかもしれないが、女性なんだから少しは言うのをためらってほしい。
それに俺は別にその部分の大小で判断はしない。
そして、そんな姉の言葉にティリスが文句を言う。
「ちょっと、何言ってるのよ、お姉ちゃん」
「いや、せっかくだからティリスの後押しをしてあげようと思って……」
「そんな必要はないわ。ようやく友達になったばかりなんだから」
「でも、気になるんでしょ?」
「そ、それは……」
リオナの指摘にティリスが視線をさまよわせる。
その様子から、リオナの言っていることが事実なのだろう。
流石に俺も鈍感ではないので、それがどういう意味なのかを理解できる。
まあ、可愛らしい女の子から好意を向けられるのは、別に嫌ではない。
だが、ここまでわかりやすく向けられると、何となく気恥ずかしく感じる。
「というわけで、お願いね?」
「……はい、わかりました」
リオナが笑顔でウィンクをしてきたので、俺はため息をつき受け入れる。
一度断らないと言ってしまったので、いまさらそんなことも言えないわけだが……
友達ができたと思ったら、また面倒なことに……
俺はスローライフから遠ざかっている気がすると思っていた。
だからこそ、気付かなかった。
(バッ)
「え?」
「「「えっ!?」」」
なぜかいきなり女の子に駆け寄られ、抱きつかれていた。
もちろん、ティリスではない。
魔王の次女、レヴィアだった。
彼女はいつの間にか俺に接近して、真正面からいきなり俺に抱きついてきたのだ。
その場にいた全員──いや、姉のリリム以外が彼女の行動に驚愕の表情を浮かべていた。
また面倒なことになりそうだ、そんな予感がした。
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