閑話9-13 助けられた少女は高校生になった
「それで、もう一人は?」
私は高田くんに続きを促す。
彼が言うには、注意すべき人物はもう一人いるはずだ。
西園寺くんほど危険な人間はいないと思うけど……
「もう一人は東郷だ」
「東郷くん? それこそ、どうして?」
高田くんから返ってきた答えに私は本気で理解できなかった。
なぜなら、その名前は西園寺君よりある意味で有名だったからである。
東郷くん──所謂、不良という存在である。
といっても、表立って問題を起こしているわけではない。
だが、何か問題を起こせば、周囲から最も怪しまれるのが東郷くんなのだ。
もちろん、証拠がないために誰も彼を罰することはできない。
しかし、誰もが怪しんでしまうほどの不良──それが東郷くんという人物なのだ。
なぜ、私が信じられないのかと言うと、それは彼が不良という存在だからだ。
別に私は彼が不良であることに嫌悪感を抱いているわけではない。
彼の人生なのだから、どんなことをしようと自分で責任を取れば、問題はないと思っている。
だが、不良であるがゆえに、優等生側にいる私とは相性はすこぶる悪いのだ。
だからこそ、向こうから近づいてくることもないし、私から近寄ることもないのだ。
「まあ、東郷が狙っているのは須川と仁川の方だな」
「あっ!?」
高田くんの言葉に私はようやく理解することができた。
そういえば、須川さんと仁川さんはそちら側の人間である──といっても、見た目だけではあるが……
私にはあまりそういう良さはわからないが、不良側にいる東郷くんにとって二人はかなり魅力的な人間なのかもしれない。
「噂によると、蝮のようにしつこい男だそうだ。狙った獲物は逃さない、とも言われているな」
「それは……しつこい男は嫌われる、ってことを知らないのかしら?」
「欲しいものは力づくでも手に入れよう、という考えなんだろう。まあ、力がすべての不良の世界なら、そういう考えになっても仕方がないな」
「ふぅん、そういう世界なんだ」
高田くんの言葉に私は納得する。
私にとって、まったく真逆の世界の話なのだ。
まったく知らない情報なので、高田くんの情報だけが頼りなのだ。
しかし、すぐにあることに気が付く。
「あれ? どうして、高田くんがそんなことを知っているの?」
「っ!?」
私の指摘に高田くんが体を震わせる。
痛いところをつかれた、といった表情を浮かべている。
その表情を見て、私はある結論に辿り着いた。
「もしかして、高田くんって……不良なの?」
「ち、違うぞ?」
「本当に?」
私の指摘に慌てて否定する高田くん。
そのあまりの慌てっぷりに、嘘をついているのではないかと疑ってしまう。
なぜなら、人はまずい状況になるほど慌てるものなのだから……
「俺は今までずっと野球に身を捧げてきた人間だぞ? そんな不良なんて、やっている暇なんてあると思うか?」
「う~ん……そう言われれば、そうかもしれないけど……」
高田くんの言葉に私は反論できなかった。
たしかに、彼の言う通り、彼は今までの人生を野球に捧げてきたのだろう。
だからこそ、一年生にしてベンチ入りを果たし、次期レギュラー候補と言われているのだ。
そんな彼が不良なんてやっている暇はないのかもしれない。
だが、どうしてあれほど慌てていたのだろうか?
悩む私に吉田さんが話しかけてきた。
「野球で有名になったから、狙われたんじゃないの?」
「え?」
「なっ!?」
吉田さんの言葉に私と高田くんは驚いた。
といっても、二人の驚きには大分差があったが……
そんな私たちの反応を気にせず、吉田さんは話を進める。
「不良ってのは、基本的に普通の生活を送ることができず、ドロップアウトした存在でしょう?」
「まあ、言い方はあれかもしれないけど、その通りかもね」
「対して、高田くんは野球で成功をしている人間──不良にとって、自分達がドロップした世界で圧倒的な成功を収めている存在なんだから、疎ましく思って当然よね」
「ああ、なるほど」
吉田さんの説明に彼女の言いたいことが理解できた気がした。
自分達が失敗したのに、成功した人間がいる。
それは不良たちにとって、妬ましい気持ちになるのかもしれない。
だが、ここで疑問が出てくる。
「でも、それだけの理由で高田くんを狙うのかしら? 高田くんが凄い選手だったとしても、不良たちが襲い掛かるほど有名とは思えないんだけど……」
「別にものすごく有名じゃなくとも、同じ学校なんだったら嫌でも噂ぐらいなら耳にしたんじゃないかしら? 同じ学校という身近な存在だから、すぐにでも狙えるしね」
「あぁ、なるほど」
吉田さんの言う通りである。
私は高田くんが広い範囲で有名であるため、狙われるのだと思っていた。
だが、学校内であるならば、もっと話は簡単だったわけだ。
「でも、そんなことが本当にあるの?」
吉田さんの言っていることは理解できた。
だが、実際にそんなことが起こるのかと、私は疑問に思ったのだ。
今まで全く関わりのない世界だからこそ、想像がつかないのだ。
そんな私を見て、吉田さんは告げた。
「それは本人から聞けばいいんじゃないかしら?」
「そういえば、そうね」
吉田さんの言葉に私は高田くんの方を向いた。
たしかに、吉田さんの推測ではなく、本人から聞いた方が正確かもしれない。
間違っているのであれば、高田くんは否定してくれるだろうし……
どっちなのだろうか、気になった私は高田くんをじっと見つめた。
そんな私の視線を受けてか、高田くんは大きくため息をついた。
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不良像は作者の偏見です。
不良の境遇を「こんな感じかな?」と推測しただけです。
実際とは異なる可能性もあるので、悪しからず。
ちなみに、作者の不良情報は某「番長」シリーズです。
作者は3しかしていませんが、それ以外は作者の好きなゲーム実況者さんの動画で爆笑しながら見ていました。
一番好きなのは、5作目の老け顔の番長さんですねw




