閑話9-10 助けられた少女は高校生になった
一人は丸山 棗くん──須藤さんの好きな人である。
低めの身長と中性的な顔立ちから、男女問わず人気が出そうである。
須藤さんは可愛いもの好きであると思わせる一因でもある。
そして、もう一人は丸山くんとは対照的にガタイの良い男子生徒──高田 虎太郎くんである。
丸山くんと同じ野球部であり、一年生でベンチ入りするほど期待の新人らしい。
レギュラーになるのも時間の問題だ、と噂になっていたはずだ。
同じ野球部ではあるが、対照的な二人が並んでいるのは違和感がある。
まあ、そんなことを馬鹿正直には言わないが……
「ちぐはぐグループはどんな話題で話しているんだ?」
「おい、トラ。失礼だろ」
いきなりの高田くんの質問に丸山君が怒ったように告げる。
そこまで交流がないのに、いきなりそんなことを聞くべきではないと思ったのだろう。
たしかにその通りである。
といっても、私は気にしないが……
「須藤さんが作ったお弁当を見せてもらったんですよ。写真ですが……」
「ちょ……委員長っ!?」
私の言葉に須藤さんが驚く。
あっさりと言われたことにだろうか?
いや、これは丸山くんがいるのに、こんなことを言ったことだろう。
片思いをこじらせてしまっているため、彼女からすれば恥ずかしい事なのかもしれない。
だが、私としては、これはチャンスだと思っている。
現に仁川さんからは笑顔のサムズアップ(ウィンク付き)を頂いている。
「へぇ……見せてくれよ」
「はい、どうぞ」
「ちょっ!?」
慌てる須藤さんをよそに私は高田君にスマホを渡す。
須藤さんのスマホではあるのだが、ここは我慢してもらおう。
これも彼女の恋を叶えるため……
「ほう……これはすごいな」
お弁当の写真を見た高田くんが素直な感想を漏らす。
やはり男子から見ても、相当すごい弁当に思えるようだ。
運動部の男子など「質より量」という考えだから、弁当の見た目など気にしない者が多いだろう。
そんな運動部の男子をここまで驚かせるのだから、須藤さんのお弁当がどれほど素晴らしいかわかるだろう。
「棗も見てみろよ」
「え?」
「っ!?」
高田くんにスマホの画面を見せられ、驚く丸山くん。
好きな人に自分の弁当を見せられそうに驚く須藤さん。
見るのを止めたいが、話しかけることが恥ずかしいのか、須藤さんはその場でもじもじとしているだけだった。
これは完全に恋をこじらせてしまっているのではないだろうか?
このまま私たちが何もしなければ、一生成就することはないような気がする。
「へぇ……」
「……」
お弁当の写真を見て、丸山くんが声を漏らす。
それは素直に感心しているような雰囲気であった。
しかし、そんな丸山くんの反応を須藤さんは気が気でないのか、見る余裕もなかった。
「これ、灯が作ったの?」
「……うん」
少しして、丸山くんが須藤さんに問いかける。
その質問に須藤さんは小さく頷いた。
「とてもおいしそうじゃん。これだったら、いつでも嫁にいけるな」
「っ!?」
丸山くんの言葉に須藤さんの顔がぱっと明るくなる。
褒められたと思ったのだろう。
いや、確かに褒めてはいるのだろう。
しかし……
「「「(自分の嫁にする、とは言っていないな……)」」」
女性陣は冷ややかな目を二人に向ける。
流石に「嫁にする」とは言わないと思っていたが、それでもここまで何の進展もない言葉が来るとは思っていなかった。
もう少し、良い感じの言葉を言ってくれると思っていたのに……
しかも、その言葉に須藤さんは心底嬉しそうにしている。
いや、どれだけ喜びの沸点が低いのだろうか?
安すぎるぞ、須藤さん。
ここは周囲が手助けをした方が良いのかもしれない。
「丸山くん、須藤さんに弁当を作ってもらえば?」
「「え?」」
私の言葉に二人が驚く。
いきなり私にそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。
私だって、本当はこんなことを言いたくはなかった。
だが、二人のために仕方なく、である。
こうしないと、本当に進展しなさそうなんだもの……
「運動部って、食事も大事でしょう? だったら、栄養管理とかもしっかりしていて、おいしいだろう須藤さんの料理なんてぴったりだと思うけど?」
「ちょ、宮本さ……」
私の提案に須藤さんが慌て始める。
止めたいのだろう。
しかし、好きな人の前であまり激しく止めることはできない。
幻滅されたくないだろうから……
そんな状況だからこそ、私は言葉を続ける。
「須藤さんだって、さらに料理の腕を上げることができるから、win-winの関係だと思うな」
「……たしかに」
私の言葉に丸山くんが納得したような反応をする。
どれだけちょろいのだろうか?
結構がばがばな提案だと思うのに、なぜ納得したのだろうか?
まあ、納得してくれたのなら、それでいいか。
とりあえず、このまま二人の仲が進展するように……
「ああ、それはやめた方がいいんじゃないのか?」
しかし、そんな私の考えはあっさりと中断させられた。
それをしたのは、高田くんだった。
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