閑話9-7 助けられた少女は高校生になった
とりあえず、まずは誤解を解いておかないといけないな。
「えっと……とりあえず、私は別に付き合っている人はいませんよ?」
「えっ!? 昨日、告白されたのに?」
私の言葉に須藤さんが驚いたような表情を浮かべる。
いや、なんでそんなに驚くのだろうか?
別に告白されたからといって、断らないという選択肢ぐらいあるだろう。
私と同じことを思ったのか、仁川さんが話に入ってくる。
「委員長にだって選ぶ権利はあると思うよ?」
いや、どうやら同じことは思っていなかったようだ。
流石に私はそこまでのことは思っていない。
そもそも、私が断った理由は相手への評価は関係ない事だからだ。
「だったら、棗のことを受け入れてもおかしくはないでしょっ!」
「それは灯だけの感覚だと思うけど……」
須藤さんの言葉に仁川さんは呆れた声を上げる。
まあ、これは呆れても仕方がないな。
ここまで恋心を露わにしているのに、どうして本人にまだそれが伝わっていないのだろうか?
ここまであからさまならば、絶対に相手にばれているはずだろう。
しかし、仲が悪いといった風にも聞こえないので、まだ交流はある……つまり、伝わっていないと思われる。
一体、何をどうやったらそんなことになるのだろうか?
「まあ、私は誰とも付き合うつもりはないから、断らせてもらったわ」
「え、どうして? 委員長だったら、引く手あまただと思うのに……」
私の言葉に仁川さんが問いかけてくる。
須藤さんと吉田さんもこちらに視線を向けてくる。
気になって仕方がないのだろう。
「私、憧れている人がいるの」
「「「憧れている人?」」」
私の言葉に三人が口をそろえて言葉に出す。
そんなに合わさるほど同じように驚くことだろうか?
別に憧れている人ぐらい、誰にだっているだろう。
といっても、私と同じような風に思っている人はいないだろうけど……
「実は私、中学生のころいじめられていたの」
「「「っ!?」」」
「今の姿からは想像つかないかもしれないけど、根暗で陰キャ──いつも教室の隅にいるような暗い人間だったわ。そんな人間がクラスの中心にいるような女子に目をつけられれば、どうなるかわかるでしょう?」
「「「……」」」
私の言葉に三人は黙り込む。
私の中学時代を聞き、実際の状況を想像したのだろう。
だが、いじめられたことがないような三人が考えているのは、おそらく生ぬるいと思われる。
現実は小説より奇なり──とは違う気がするが、中学時代のいじめは普通の人間が想像できるようなことをはるかに超えていた。
よく私は自殺をしなかったな、と自分を褒めたいぐらいである。
まあ、時間の問題だったかもしれないが……
「ある朝、憂鬱な気持ちで学校に行く途中、私は交通事故にあったの。いえ、正確に言うと……遭いかけた、と言うべきかしら?」
「どういうこと?」
私の話の続きが気になったのか、仁川さんがそう聞いてくる。
須藤さんと吉田さんも気になって仕方がないようだ。
「私がトラックにはねられる直前、一人の男性が私を助けてくれたのよ」
「「おおっ!?」」
私の言葉に仁川さんと須藤さんが驚く。
おそらく、その男性が私の憧れている人だと思ったのだろう。
その考えは正しい。
だが、残念ながら二人が喜ぶような感動的なストーリーではない。
「私の代わりに男性がトラックにはねられ、命を落としてしまったけど」
「「っ!?」」
私の言葉に二人は驚く。
感動的なストーリー化と思ったのに、いきなり重苦しい話になったのだ。
その落差では仕方がないかもしれない。
「っ!?」
吉田さんが体を震わせる。
何かに気が付いたようだ。
だが、今はそれに触れないようにしておく。
いずれ、しっかりと話さないといけないことだから、流石に関係ない人が二人もいる状況で話すことではない。
「助けられた私は悩んだわ。いじめられているような私の代わりに別の人が命を落としてしまった。それだけでかなり罪悪感があったの」
「まあ、わからないでもないけど……別にいじめられるような人間の命が軽いわけじゃないだろ?」
「それぐらいわかっていることよ。でも、その当時の私は自分を必要以上に過小評価していたわ。交通事故に遭いかけなくても、いずれは命を絶っていたかもしれないほどね」
「……」
私の言葉に須藤さんが黙り込む。
実体験に基づく言葉だからこそ、否定できないと思ったのだろう。
私は話を続ける。
「でも、後悔し続けたら、せっかく助けてくれた人に申し訳ないと気付いたの。私がこの後もしっかり生きないと、あの人も浮かばれない、ってね」
「「……」」
「だからこそ、私はあの人に助けてもらった命を大事にするべく、生まれ変わったというわけよ」
私は自分の胸に手を当て、そう告げた。
これは私の本心である。
「まあ、これはフラれるわね」
「流石にそんな人が相手なら、流石の棗も分が悪いわ」
私の話を聞き、須藤さんと仁川さんが納得してくれた。
信じやすすぎではないだろうか?
私はすべて本当のことを話しているが、普通はもう少し疑うものではないだろうか?
まあ、信じてくれたのならそれに越したことはないが……
「とりあえず、私は誰とも付き合うことはないわ。だから、須藤さんのことも応援してるわ」
「なっ!? 別にそんなことしなくても……」
私が右手の親指を上に立て告げると、須藤さんが顔を真っ赤にして慌てる。
あれほど好きだと表現しているのに、どうしてそこでヘタレるのだろうか?
見た目のわりに心が弱いな、この人……
しかし、これで彼女との問題はなかった。
「……」
別の問題が現れたが……
だが、これは私が吉田さんと出会った以上、避けることはできないことだったのだ。
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