閑話9-6 助けられた少女は高校生になった
「本当にすみませんでしたっ!」
5分後、そこには頭を下げる吉田さんの姿があった。
それは一片の曇りもない見事な謝罪であった。
彼女の申し訳ない気持ちが伝わってくる、そんな謝罪だった。
「いや……こっちも勘違いされるようなことをしていたわけだし、私も悪かったよ」
吉田さんの謝罪を受け、須藤さんも申し訳なさそうに呟く。
彼女自身も悪いと思っているようだ。
まあ、自分のしたことのせいでこのような状況になってしまったのだから、申し訳ないと思っても仕方がないだろう。
「まあ、傍から見れば、明らかにいじめか恐喝の現場だったからねぇ……灯の人相が悪いのがいけなかったね」
「うるさい、杏」
仁川さんの茶化すような言葉に須藤さんが怒鳴る。
言っていることはもっともかもしれないけど、それを仁川さんが言うのはどうかと思う。
唯一助けることができる立ち位置だったのに、あっさりと私を見捨てたのだ。
ちなみに、先ほどの状況を説明すると、どうやら須藤さんは私に聞きたいことがあったようだ。
口下手と凄みのある雰囲気から私は怖がってしまい、結果として須藤さんをイラつかせてしまったのだ。
そして、そのイラつきのせいでさらに凄みがまし、私がさらに怖がるという悪循環に陥ってしまったわけだ。
そんな状況を見かけ、解決するべく吉田さんが現れた。
一刻の猶予もないと思ったのか、彼女は自分の鞄を放り投げ、それが須藤さんの後頭部に直撃したわけだ。
そのあと、一触即発の状況になったが、ようやく落ち着くことができた私がその場を仕切ることにより、状況を整理することができたわけだ。
とりあえず、謝罪はこれで終わりにして、本題に戻るとしよう。
「それで、私に聞きたいことって、なんですか?」
「ああ、それは……」
私の言葉に須藤さんは口ごもる。
あれ、須藤さんから聞きたかったんだよね?
どうして口ごもるのだろうか?
なぜか顔を赤らめ、もじもじしている。
普段のクールな雰囲気とのギャップに少しかわいく見えてしまう。
「なんか、告白しようとしている女の子みたいだね」
「「っ!?」」
「なっ、杏っ!?」
茶化すような仁川さんの言葉に私と吉田さんは驚き、須藤さんは怒鳴る。
まあ、これは怒鳴られても仕方がないか。
だが、また話が逸れてしまいそうである。
どうするべきか、私が悩んでいると仁川さんが私に話しかける。
「委員長、昨日告白されたでしょ?」
「え?」
いきなりの内容に私は驚いてしまう。
一体、なぜその話が出てくるのだろうか?
疑問に思う私に仁川さんは話を進める。
「昨日、委員長に告白した男のことを灯は好きなのよ」
「ちょっ、杏っ!?」
仁川さんの暴露に須藤さんは驚く。
まさかあっさりと口にされるとは思っていなかったのだろう。
なるほど、須藤さんが口ごもっていた理由はわかった。
好きな人のことを質問するのは照れる──恋する乙女のような悩みだったようだ。
クールな雰囲気のわりにかわいいところが多いな、この人。
「で、そんな好きな人が委員長に告白したもんだから、気になって突撃したわけよ。もしかしたら、すでに付き合っている可能性もあるから、緊張のあまり思わず凄みが出てしまったわけよ」
「……緊張していたんですか」
仁川さんの説明に私はため息をつく。
あの凄みがまさか緊張だとは思わなかった。
安心したと同時に人騒がせだと思ってしまった。
「灯は見た目のわりに小心者だからね」
「そうなんですか?」
予想外の言葉に私は少し驚く。
こんな見た目なのに須藤さんは小心者なのか?
かなり意外である。
「私の知る限り、最低三年以上は片思いを続けているからね。中学一年の時に出会ってから、ずっと一途に思い続けているもの。一度もその気持ちを本人に伝えることなく、ね」
「「えっと……」」
「ちなみに、二人は小学校どころか幼稚園から一緒みたいよ? 恋心が芽生えたのがいつかは知らないけど、かなり長い事片思いを続けているみたいよ」
「「……」」
仁川さんの言葉に私と吉田さんは何とも言えない表情を須藤さんに向ける。
恋をすることは良い事だと思うが、それだけ長い付き合いで気持ちの一つも伝えられないのはどうかと思う。
「何か文句ある?」
「「……別にないです」」
そんな私たちの視線を受け、須藤さんが睨みつけてくる。
その視線を受け、私たちは視線を逸らす。
もちろん、恐怖を感じたからではない。
どんな視線を向ければいいのか、わからないからだ。
最初は恐怖を感じていたのに、今では微塵もそんな気持ちが沸いてこない。
どうしてくれるんだ、この空気。
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