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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第七章 成長した転生貴族は冒険者になる 【学院編2】
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閑話9-5 助けられた少女は高校生になった

夏休み企画「毎日投稿」始めます。

まあ、作者に夏休みはないのですけど……世間的には夏休みの時期なので、やってみようかと……

8月いっぱいは頑張ろうかな。


(ガンッ)

「っ!?」


 大きな音が耳元でなり、私は思わず体を震わせてしまった。

 もちろん、驚いたのはそれだけが理由ではなかった。


「あんた、調子乗ってるわよね?」

「えっ……」


 目の前にいるギャルらしい女性の言葉の意味が理解できず、私は呆けた声を出してしまう。

 彼女のことは知っている。

 たしか、須藤さんという名前だったはずだ。

 直接話したことはないが、同じクラスに所属しているので名前は知っていた。

 ギャルのような風貌で私のようなタイプとは対極に位置している人なので、話をすることはなかった。

 まあ、こちらから近づくこともなかったが……

 私が変わる前だったとしても、話すことはなかった人種のはずだ。

 さて、そんな須藤さんに話しかけられている状況になっているのだろうか?

 もちろん、いい意味ではない。

 それはこの状況──彼女に睨みつけられている状況から理解できる。


「勉強もできて、人当たりも良い。委員長を任されるほど周りから信頼されている──自信が付くのも理解できるわ」

「え、えっと……」

「運動はあまり得意じゃないようだけど、その完璧じゃないところが人間味を出して、周囲に人が寄ってくるんでしょうね?」

「そ、そうですか?」


 須藤さんの言葉に私はどう返事をすればいいのかわからなかった。

 内容的には褒められているのだろう。

 しかし、こんな状態で言われるようなことではないと思う。

 普通、褒めるときには笑顔を向けてくれるものではないだろうか?

 そんな疑問を感じていると、須藤さんはキッと私を睨みつけてきた。


「だからこそ、あの馬鹿みたいなやつが出てくるのよっ!」

「えっと……どういうことですか?」


 須藤さんの叫ぶような声に私は首を傾げた。

 まったく意味が分からない。

 あの馬鹿、とはいったい誰の事だろうか?


「あんたみたいな女が周囲に優しくするせいで、勘違いする奴がでてくるんだよっ!」

「い、いや……そんなことを言われても……」


 須藤さんの言葉に私は怯えながら反論をする。

 いや、反論にすらなっていない気がするけど……

 しかし、そんな私の様子を見て、須藤さんの視線がさらに鋭くなる。

 どうやらイラつかせてしまったようだ。

 と、この状況で新たな人物が会話に入ってきた。


「灯、怖がらせすぎじゃない?」

「怖がらせているつもりはないわ」


 文句を言われた須藤さんは怒ったように怒鳴り返す。

 どの口がそんなことを言っているのだろうか?

 明らかに怖がらせるつもりで怒鳴っているようにしか思えないのだけど……

 あくまで被害者側の感想ではあるが……

 ちなみに会話に入ってきたのは、須藤さんといつもつるんでいる仁川さんである。

 クールで大人っぽい須藤さんとは対照的にどこか子供っぽい雰囲気の可愛らしい女性である。

 そういう意味では真逆の二人ではあるが、同じギャルという共通項があったりする。

 ちなみに、仁川さんはその幼い雰囲気とは裏腹にとても立派な果物をお持ちである。

 幼い雰囲気とのギャップにクラスメートどころか、学校中の男性陣の視線をくぎ付けにしていると噂になっているぐらいだ。

 まだ入学して2ヶ月しか経っていないのに……


「でも、委員長は明らかに怖がっているよ?」

「この程度でなんで怖がるのよ」


 陣川さんの言葉に須藤さんは反論する。

 いや、それを判断するのは貴女ではないでしょう?

 加害者側が言っていい事ではないと思う。

 そんな須藤さんの言葉に仁川さんが呆れたような表情を浮かべる。


「(助けて)」


 私はとりあえず、まだ良心のありそうな仁川さんに視線で助けを求める。

 この状況をどうにかしてくれるのは彼女しかいないだろう。

 加害者側の友人ではあるが、その加害者の行動に呆れているようだし、助けてくれる可能性はあるはずだ。


「(ごめん、無理)」

「っ!?」


 しかし、彼女から返ってきたのは無常なお断りだった。

 申し訳そうな表情で手を合わせ、左目でウィンクしていた。

 その姿は可愛らしいが、この状況では私にイラつきしか与えない。

 いや、絶望も与えてくれているな。

 まったくいらないが……

 とりあえず、この状況は自分でどうにかするしかないようだ。

 私は気持を切り替え、須藤さんに話しかけることにする。


「あ、あの……」

「なに?」

「……すみません」


 話しかけようとしたが、須藤さんの凄みに言葉を引っ込めてしまう。

 いくら変わったとはいえ、元々私は根暗の陰キャなのだ。

 ギャルのような陽キャに凄まれれば、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまうのだ。


「(よわっ)」


 そんな私の様子に仁川さんが再び呆れたような視線を向けてくる。

 今度は私に対してである。

 助けてくれないくせに私にそんな視線を向けるなんて、酷い人である。

 だが、本当にどうしよう。

 このままでは何が起こるかわからない。

 しかし、私には解決する手段がないのだが……


「謝罪が聞きたいわけじゃないわ。一つ、聞きたいことがあるわ」

「え?」


 イラっとしながらも、須藤さんが私に問いかけてきた。

 まさかの言葉に私は驚きの声を漏らす。

 てっきり私を締めるつもりだと思っていたのに、質問をしようとしていたとは……

 まあ、それでこの状況もおかしいけど……

 先ほどの言葉でようやく私は落ち着くことができた。

 これならきちんと彼女の話を聞くことができるだろう。

 怖いけど……

 とりあえず、彼女の次の言葉を待つ。


「あんた、あの馬鹿と……(ガンッ)いたっ!?」


 しかし、須藤さんは最後まで質問を口にすることはできなかった。

 なぜなら、彼女の後頭部に何かがぶつかったからだ。


「(鞄?)」


 須藤さんの後ろに落ちた物体──鞄を見て、私は首を傾げる。

 そこにあったのは、この学校指定の鞄だった。

 2か月も使っていれば、見間違えることはない。

 しかし、だからこそ疑問に思ってしまった。

 鞄とは物を入れて運ぶためのものであって、どこからか飛んでくるものではないからだ。

 そんなことを考えていると、新たな気配を感じた。


「委員長を放しなさい、ヤンキー女っ!」


 そこにいたのは吉田さんだった。

 彼女は右手の人差し指でこちらを指しながら、現れたのだった。

 その姿はまるでヒロインのピンチにさっそうと現れるヒーローのようだった。







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