閑話9-2 助けられた少女は高校生になった
「ここが私のクラスか……」
私はドアの上についているプレートを見て、草呟いた。
そこには【1-1】と書かれていた。
今日から私が所属するクラスである。
私は扉を開く。
(((((じっ)))))
「うっ!?」
扉を開け、中に入った瞬間に教室中の視線がこちらを向いた。
私は思わず驚いてしまう。
やはり、こういう風に視線を向けられるのは慣れない。
別に彼らに害意があるわけではないのだが、それでも一気に視線を向けられたら昔のことを思い出してしまう。
「(ううん……だめ。もう昔の私じゃないんだから)」
だが、私はすぐに心を落ち着かせる。
視線を向けられたからなんだ。
それだけでいじめられるわけではないのだ。
私は気にせず、黒板の前に行く。
そこには座席表が貼ってあるからである。
「えっと……ここか」
私は自分の席を見つけた。
教室の後ろから二番目、廊下側から二列目の位置であった。
割といい席かもしれない。
教室の前の方だと、自然と視線が集まってしまう。
慣れることができたとはいえ、あまり気持ちがいいモノではない。
だからこそ、この場所は私に最適といえるだろう。
そして、自分の席へと向かった。
その間も周囲の視線が私に向かっていた。
扉の前に来るまでがやがやと騒がしかったはずなのに、今はしんとしている。
なぜだろうか?
「あら?」
私は自分の席に到着すると、あることに気が付いた。
私の右隣──一番廊下側の席の女子がすでに来ていたからである。
いや、別にそれ自体はおかしくはない。
私が学校に来たのは、集合時間の30分前。
初日なのだから、それぐらいの時間に来ていてもおかしくはない。
現に教室には半分ぐらい来ているのだから。
私が気になったのはそこではない。
彼女だけが私に視線を向けていなかったからである。
まるで興味などないように、視線を手元の本に落としていた。
なぜだかわからないが、周囲の視線は私に向いていた。
しかし、彼女だけは私を見ていなかった。
それがとても気になった。
だからこそ、私は話しかけた。
「初めまして。私は宮本聖。今日からお隣みたいだから、よろしくね」
「……」
私の言葉にその娘の視線がこちらを向いた。
「っ!?」
私は驚いてしまった。
なぜなら、その娘の目は到底女子高生がするような視線ではなかったからである。
普通、人と話すときには相手に何らかの興味を抱くだろう。
それが好意であろうが、害意であろうが……
その両方を向けられたことのある聖だからこそ、それは理解していた。
しかし、目の前の娘からはそれは全く感じられない。
だからこそ、驚いているのだ。
いや、納得できたと言うべきか?
私に興味がないからこそ、先ほど視線を向けなかったのだろう。
それが私に興味を抱かせる結果になったわけだが……
「貴女の名前は?」
名前を告げない相手に私はそう質問した。
もしかすると、彼女はあまり話をするのが得意ではないのかもしれない。
そういう相手に話しかけるのはあまりよい事ではないが、それでも一度話しかけた以上はある一定の会話をしておいた方が良い。
今回の場合は、名前を聞いておくことだ。
これからお隣で過ごしていくのだから、今のうちに名前を知っておいた方が良いだろう。
しかし、それが聖を後悔させるとは思わなかった。
「私は吉田摩理。初めまして?」
「っ!?」
私はその名前で気付いた。
私が気になったのは、彼女が私に視線を向けなかったからではない。
彼女の姿にどこか既視感があったからである。
もちろん、彼女と直接会話するのは初めてである。
しかし、彼女とは一度会ったことがある。
それは……
「(まさか……あの人の妹さん?)」
私を助けてくれた吉田歩さんの妹さんと再会することになってしまった。
これは何という運命だろうか。
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