閑話8-10 第二王女と公爵令嬢の会話
「流石に父親には伝えているとは思うわ。おそらく、国王様は側近である私のお父様にも伝えていないはずだわ」
「宰相のキュラソー公爵にも?」
「ええ。留学をしていることは知っていたけど、どこかは聞いていないみたい。国王様から「行き先は転々としているので、教えることはできない」と言われたそうよ」
「いろんなところを見て回っているんだ……」
イリアの言葉にシャルロットはそう呟く。
そもそも、シャルロットは父親に兄の居場所を聞くことをしていなかった。
留学もそんな長期間ではなく、すぐ帰ってくるものだと思っていたからである。
しかし、今までの話を総合すると、かなり長期間になると思われる。
少なくとも、【正妃派】が何らかの行動を起こすまでは……
「次期国王としていろんな場所の風習を勉強することが一番の目的でしょうけど、一ヶ所にとどまって刺客を送られることも避けているのでしょうね」
「そうだね。留学先を転々としているのなら、その情報の場所からすでに移動している可能性もあるだろうし……」
「流石に国王様には伝えておかないといけなかったんでしょうね。次期国王が消息不明になるのは流石にますいからね。生存報告もかねて」
「転々とするのはそういう弊害もあるのね。そんなことをしたことがなかったから、全く思いつかなかった」
イリアの説明にシャルロットは素直に感心した。
いかに自分の考えが甘いかを痛感させられたからである。
キース王子の留学の件しかり、グレインからの贈り物の件しかり。
「といっても、完全に安全というわけではないわ。あくまでも、刺客を避けることができる可能性があると言うだけで、刺客に襲われる可能性もあるのよ」
「お兄様だったら、撃退できそうだけどね」
「それはそうなんだけど、何らかの事情があるかもしれないでしょ? 例えば、武器を抜くことができない場所だったら?」
「……それって、刺客も抜けない気がするけど?」
イリアの説明にシャルロットはツッコミを入れる。
キース王子が武器を抜くことができないのであれば、刺客も同様ではないだろうか?
それは魔法もしかりである。
しかし、そんなシャルロットの反応にイリアは説明する。
「刺客がそんなことを気にすると思う? 今から人を殺すという犯罪の中でも最大のタブーを犯そうとしているのに、今さらそんなルールを守るとは思えないけど?」
「たしかにそうね……でも、それだったらキースお兄様も対抗するために剣を抜くかも……」
「いいえ、それはないと思うわ」
「え? どうして?」
否定をされたシャルロットは驚く。
どうしてキース王子が武器を抜かないと思っているのだろうか?
むざむざと殺されると思っているのだろうか?
「キース王子の性格上、ルールをきちんと守るタイプだからよ。私の知る限り、キース王子はそういう潔癖なところがあるからね」
「ああ、なるほど……確かにお兄様なら、そうかもしれないわ」
イリアの説明にシャルロットは納得する。
たしかに、キース王子はルールには厳格なタイプの人間であった。
自分が身分の低い側妃の子供と言うことで、周囲から舐められないためにもそのようにしていると聞いたことがある。
シャルロットに対して、周囲に対しては優しい人ではあったが、自分には厳格な人であったと思う。
だからこそ、キース王子が次期国王にふさわしいという人間が後を絶たないのだ。
今の国王がちゃらんぽらんなせいで……別に悪王ではないのだが……
「とりあえず、キース王子の命を守るため……魔法攻撃が通用しない、このネックレスの効果で時間を稼いでもらうのよ」
「時間を稼ぐ?」
「相手が魔法攻撃を使ってくる場合、知らなかったら魔法を吸収されることを驚くでしょう?」
「そうだね」
「そうなったとき、キース王子は隙を突いて逃げるか、自分で対処するか……その場所の騎士団が来るのを待つか──いろんなことができるわけよ」
「そういう使い方があるのね。といっても、キースお兄様が強いからできることだろうけど……」
「まあ、そうね。どれもキース王子様のスペックだからこそ、できることよ。普通の人なら、襲われた時点でショックを受けて動けなくなると思うし……最低限、襲われたあとも動くことができるという条件がいるわね」
「あと、気になったんだけど……」
「なに?」
シャルロットが真剣な顔をして、質問をする。
イリアはシャルロットに聞き返す。
「もし、刺客が純粋に武器だけで戦おうとしたら、どうするの? このネックレスは多少の効果はあるかもしれないけど、あんまり意味はないよね?」
今までの対処は、あくまで相手が魔法を使うことを前提に話されていた。
しかし、今までの話にも合った通り、刺客は武器を使うこともあるのだ。
そんな場合、【魔力吸収効果】はあまり意味をなさない。
この効果は相手が魔法を使うからこそ、意味があるのだ。
そして、その質問に対してイリアは……
「そこはキース王子にどうにか対処してもらうしかないわね」
「何の対策もなしっ!?」
「仕方がないじゃない。ネックレスはあくまでも【魔法】に対してのものなんだから……それ以外はどうにもできないわ」
「それはそうだけど……」
「キース王子は強いんでしょう? だったら、どうにかしてくれるわ」
「……」
イリアの言葉に釈然としないシャルロット。
しかし、反論できることもないので、何も言わなかった。
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