閑話8-9 第二王女と公爵令嬢の会話
「とりあえず、【正妃派】としては【国王派】のその三つの家と戦うことは避けたいのよ。戦うことになった時点で負けることは確定しているんだから……」
「なるほど……だから、お父様が狙われる可能性は低いわけね。お父様の命を奪ったのなら、確実にその三つの家が敵に回ることはわかっているということね」
イリアの説明にシャルロットは納得する。
といっても、正確に納得しているわけではないようだ。
イリアはそれに気づき、指摘する。
「【正妃派】とその三つの家はすでに敵よ?」
「え?」
シャルロットは呆けた声を出す。
予想外の言葉だったからだろう。
しかし、そんなシャルロットを放って、イリアは説明を続ける。
「現政権の中心的な立ち位置の【国王派】とその権力を奪いたい【正妃派】──この二つがどうして敵じゃないと思ったの?」
「だって、同じ国の人間なんだし……」
「同じところに住んでいるというだけで敵じゃないと言えるなら、どれだけ楽だったでしょうね。でも、国も一枚岩じゃないのよ」
「まあ、そうなんだけど……でも、敵ならどうして戦っていないの?」
イリアの説明を聞き、シャルロットは気になったことを質問する。
敵であるなら、戦いが起こっていてもおかしくはない。
しかし、シャルロットの知る限り、そのような戦いが起こったような記憶はない。
単純にシャルロットが世間知らずなだけかもしれないが、それでも何らかの情報が耳に入ってくるはずだ。
流石に何も入ってこないのはおかしい。
そんなシャルロットの言葉にイリアは呆れたように告げる。
「小競り合いなら起きているわよ?」
「え? 私、聞いたことないんだけど……」
「そりゃそうよ。政治的な戦いなんだから、知っているのはその戦いに近しい人間だけよ。人が死んだりしたなら、シャルロットの耳にも入っているでしょうけどね」
「ああ、そういうこと」
シャルロットの疑問は解決された。
戦争のような戦いや暗殺のようなひどい事件が起これば、シャルロットの耳に入ってくるだろう。
しかし、そのようなことが起こっておらず、政治のような水面下での情報戦がメインの戦いならば、当事者でないシャルロットが知る由もないだろう。
これはイリアの指摘が正しい。
「とりあえず、敵だからという理由だけで戦争のような戦いが起こるわけじゃないのよ。そんなことをしていれば、簡単に国は亡びるからね」
「それもそうね」
イリアの言葉にシャルロットは頷く。
戦争のような戦いが起これば、少なくない人々が命を落としてしまう。
そんなことも何度も国内で起こってしまえば、どんどん人口が減っていく。
そして、他国に責められることもなく、滅びてしまうこともあり得るだろう。
まあ、完全に滅びる前に他国から攻め入られることの方が早そうではあるけど……
「とりあえず、【国王派】と分の悪い戦いをしないために、【正妃派】はキース王子を狙っているわけよ」
「でも、それもおかしくない?」
「何がかしら?」
シャルロットが反論する。
イリアは何がおかしいのかわからなかった。
そんなイリアにシャルロットは真剣な表情で説明をする。
「お父様が亡くなった場合、一番疑われるのが【正妃派】だからやっていないだけでしょう? それなら、お兄様だって同じだと思うけど?」
「ああ、そういうことね。でも、その二つは全く違うわよ」
「そうなの?」
「ええ。国王様の場合、もっとも得をするのが【正妃派】であることから、犯人であることを決めつけられるわ。でも、キース王子の場合は違うのよ」
「でも、お兄様が亡くなられた場合、一番得をするのは【正妃派】でしょう?」
イリアの説明を聞き、シャルロットが反論をする。
シャルロットにとって父親である国王と兄である第一王子は同じぐらい大事に思っている。
だからこそ、同じような状況に陥った場合、同じ対応になると思っているのだ。
しかし、それはあくまで家族としての反応である。
政治となってくると、話が変わってくる。
「ええ、そうね。でも、直接的な利益を得ているわけじゃないから、黒幕と断定するのは難しいわ。せいぜい次期国王候補のライバルがいなくなった、程度なんだから」
「それでも十分に動機となると思うんだけど……」
「私たちから見れば、そうかもしれないわね。でも、だからといって断定することは難しいのよ」
「証拠とかあったら、どうかしら?」
「証拠があれば、断定はできるわね。でも、【正妃派】の連中が証拠を残すようなへまをするわけがないわ。大金を使って、優秀な暗殺者を雇ったりするでしょうしね」
「ああ、そうか」
シャルロットは打開策を見つけたと思ったが、残念ながら意味はなかった。
まだまだ子供のシャルロットに打開策を見つけることの方が難しいのだ。
これは仕方がない。
頭のいいイリアにだって、解決策は見つけられないのだから……
「【正妃派】が狙うのなら、キース王子。つまり、キース王子にこのネックレスが必要になってくるわけね」
「グレイン君がお兄様にネックレスを送る理由がわかったわ。でも、どうしてお父様に会いたいの?」
イリアの結論を聞き、シャルロットは納得した。
けれど、そこで新たな疑問が出てきた。
どうして、シャルロットは国王に会いたいと思ったのだろうか?
「だって、キース王子の居場所を知っているのは、国王様だけでしょう?」
「え? 私も知っているよ」
イリアの言葉にシャルロットは反論する。
現在、キース王子は留学をしている。
その行き先をシャルロットはキース王子自身に教えられていた。
しかし、シャルロットは首を振る。
「命を狙われているのに、行き先を教えるわけがないでしょう。それがたとえ妹だったとしても、ね」
「ええ……」
イリアの指摘にシャルロットはショックを受ける。
兄であるキース王子のことを大好きだと思っていたのに、自分を信じてもらえなかったという理由で嫌いになりそうだった。
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