閑話8-6 第二王女と公爵令嬢の会話
「ドレスに細工をするのよ」
「ドレスに細工?」
イリアから出てきた言葉にシャルロットは首を傾げる。
天才の発想は凡人には到底理解できない。
今回もその類であろう。
「ドレスの裏側に魔石を入れておくポケットを作っておくのよ。そこに入れておけば、落としたり、失くしたり──正妃様にバレることもないでしょう?」
「……なるほど。でも、そんなことはできるのかしら?」
イリアの言葉にシャルロットは納得しつつも、どうすべきか悩んでしまう。
彼女の言っていることは十分に理解できる。
彼女の言う通りにすれば、今までの懸念をすべて解決することはできるだろう。
しかし、新たな問題も現れる。
「何か問題があるかしら?」
「そもそもそんなドレスを作ってくれる人がいるの?」
イリアの質問にシャルロットはそう聞き返した。
ドレスを作る職人は基本的に自分に自信を持っている。
高位貴族や王家の御用達ともなれば、その傾向は顕著となってくる。
もちろん、それ相応の仕事はきちんとしてくれる。
だからこそ、今回は問題になってくるわけだが……
「お金を払えば、作ってくれるんじゃないの?」
「……私はそう思わないけど?」
「なんで?」
今度はイリアが質問をする番であった。
珍しい事である。
しかし、シャルロットはそんなことを気にせず、話を進める。
「職人の方は自分の実力に自信があるからこそ、自分の作品に対して愛情に近い感情を持っていると思うわ。そんな人が素人の提案を受け入れてくれるかしら?」
「お金をもらっているんだから、お客さんの頼みは聞くべきじゃないかしら? お客さんの意向を無視するのは、商売としては不適格だわ」
「職人は商売人じゃないわよ? 商売することは二の次──ということはないけど、一番に考えるのは作品を作ることよ。むしろ、お金に走ることこそ二流以下の証じゃないかしら?」
「むぅ……それはたしかに」
シャルロットの言葉にイリアが納得する。
自分の考え方が狭かったことを感じさせられたのだろう。
別にイリアの考え方が間違いというわけではない。
職人にも生活がある。
生活をするためにはある程度の収入を得る必要があり、そのためには客の意向に沿うことにより稼ぐことも必要になってくるのだ。
しかし、それをすることが一流ではない証明となることも事実であった。
一見すると、客の意向に従わないのはあまりよろしくはない。
だが、そこには自分の信念のようなものがあり、それを曲げることを良しとしないことがより良い作品を作ることにつながるわけだ。
この点でシャルロットの言い分の方がこの場合は正しいわけである。
「いい考えだと思ったんだけどね」
「服装に頓着しなければ、そこまで問題はなかったと思うわ。でも、私の場合は服装を大事にしないといけないから、受け入れられないわ」
イリアの言葉にシャルロットは申し訳なさそうに答える。
これはシャルロット側の事情のせいである。
シャルロットが下手なドレスを着ることができないせいで、この方法が使えないのだ。
しっかりとしたドレスを着るために、それ相応の職人に注文をする。
そんな職人はイリアの提案を受け入れてくれるとは到底思えないわけである。
「どうしようかしら? 流石にこれ以上は思いつかないわ」
イリアが首を振り、そう呟く。
そういう彼女の頭の中では、他にもいくつかの案があった。
しかし、どれも実現できるものではなかった。
先ほどの提案ができない時点で、それ以下の提案が通るわけがなかったのだ。
そんなイリアの言葉を聞き、シャルロットは口を開く。
「とりあえず、そのままつけるしかないでしょうね」
「でも、それは危ないわよ?」
「仕方がないでしょう? できる限り、外に出ないように注意するしかないわ」
シャルロットはそういう結論に辿り着いた。
ドレスに細工が難しい以上、自分でネックレスをつけるしかないのだ。
見られるのがまずいのであれば、ドレスの下に隠すしかない。
それ以外の方法はないのだ。
「でも、万が一出てしまったら?」
「……それの対策は考えておくべきね。でも、何かあるかしら……」
イリアの言葉にシャルロットは考え込む。
しかし、一向に思いつかなかった。
イリアにも思いつかなかったことが、シャルロットに思いつくはずがなかったのだ。
そして、一分ほど考えた後──
「これは時間をかけて考えましょう。何か見つかるかもしれないし」
「ええ、そうね」
問題は持ち越すことに決まった。
果たして、解決策は見つかるのだろうか?
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