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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第三章 小さな転生貴族は怪物たちと出会う【少年編2】
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3-11 小さな転生貴族は獣の王女様と戦う

※3月2日に更新しました。


「ルールは相手より先に一本先取、もしくは降参を宣言させる。基本的には何でもありだけど、相手に大怪我をさせるような攻撃はなし。これでいいわね?」

「はい」

「うん、わかったよ」


 エリザベスのルール説明にティリスと俺は返事する。

 どちらに有利とかはなく、純粋にどちらが強いか決めるルールとなっている。

これならば、大怪我を負ったりして、遺恨が残ることもないだろう。

 そんなことを思っていると、ティリスがこちらに何か告げてくる。


「降参するなら今のうちよ。私より小さいんだから、無理をしない方が良いと思うわ?」


 どうやら挑発のようだ。

 おそらく自分の方が年上のため、有利だと思っているのだろう。

 彼女の実年齢は知らないが、おそらく3,4歳は年上──つまり、俺が小学校に入る前後ぐらいだとすると、彼女は小学校の中学年から高学年ぐらいに相当するわけだ。

 この年齢でそれぐらい差があると、確実に彼女の方が体格も大きくなる。

 だからこそ、自分が有利だと思っているのだろうが……


「それはこちらのセリフだね? 自分が強いと思っているみたいだけど、君が一番強いというわけじゃないんだよ?」

「……一番強いのが自分だと?」

「流石にそれはないですね。ただ僕は君に負けるつもりは毛頭ないよ」

「……言ってなさい」


 俺の言葉に若干彼女はイラつき始めている。

 見た目だけは年下の弱そうな少年に挑発されれば、怒りもするか?

 俺は事実を言っただけだが……

 そんな俺たちの様子を確認し、エリザベスが手を上げて高らかに宣言する。


「はじめっ!」


(ダッ)


 開始した瞬間、ティリスが地面を蹴る。

 おそらく速攻で決めるつもりなのだろう。

 てっきり俺のことを下に見て舐めてかかってくると思っていたのだが、そういうわけではないようだ。

 流石は他種族に比べて身体能力に秀でている獣人──駆けてくるスピードが尋常ではない。

 戦闘スタイルだけならアリスと似たような感じだが、ティリスの方が身体能力は優れているように感じる。

 これが種族の差だろう。

 まあ、身体能力で勝敗が決まるわけではないので、一概にどちらが優れているかは言えないが……

 彼女は一撃で決めようとしているのか、木剣を高く振り上げる。


「これでおわ……(ボコッ)えっ……きゃあっ!?」


「えっ!?」


 ティリスが攻撃を決めて終わり──そう思っていたのだろうか、レヴィアが驚きの声を上げる。

 なぜならば、攻撃を加えようとしたティリスがいきなりバランスを崩し、悲鳴を上げながら地面に転がったからだ。

 男勝りな口調の彼女からは想像できない可愛らしい悲鳴だった。

 だが、驚いているのは彼女たちだけだ。

 他の人たちは全員、俺が何をやったのか気付いているようだ。

 俺は地面に転がった彼女に近づき、木剣を突きつける。


「はい……降参してくれるかな? 流石に木剣とはいえ、当たったら怪我をするかもしれないからね」

「まだよっ!」

「(ブウンッ)おっと!?」


 降参を促したのだが、残念ながら受け入れられなかった。

 というか、近づいた俺の首元あたりに向けて木剣を振るうのは酷くないだろか?

 勢いからして避けていなかったら確実に骨をやっていただろう。

 先ほどの上段に振り上げたときにもだが、まさかここまで本気でやってくるとは思わなかった。

 俺が攻撃を食らえば、確実に怪我するはずだ。

 これは当たることができない。


「魔法が使えるみたいだけど、それでアタシより強いと思っているの?」

「いや、別に」

「……ふざけるなっ!」


 彼女の質問を俺は否定したつもりなのだが、なぜか彼女は怒ってしまった。

 何が気に食わないのだろうか?

 魔法が使えることで彼女よりも強いとは思っていないので否定したのだが、どうやら彼女はそう取ってくれなかったようだ。

 先ほどよりも激しく攻撃が振るわれる。


「なんであんな小さな子があの距離であんなスピードで振るわれる木剣を避けられるのかしら?」


 離れたところからリリムさんの声が聞こえてくる。

 俺が攻撃を回避し続けていることに驚いているようだ。

 たしかにティリスの木剣を振るうスピードは速い。

 彼女の身体能力と合わせれば、これを見切ることができる者はそうはいないだろう。


「ふむ……完全に攻撃を見切られているな。まさかこんな子供がいるとは……」


 俺の動きを見て、リオナさんがそんな感想を漏らす。

 俺には女神から与えられた力があり、その中には近接戦闘の適性もある。

 もちろん、訓練をしなければ開花しないものではあるが、あいにくカルヴァドス家は武勲で叙爵された貴族なのだ。

 恐ろしいレベルの訓練が日常的に行われているので、嫌でも才能が開花してしまうだろう。

 魔法については前世にはなかったものなので率先して練習していたが、そこまでするつもりのなかった近接戦闘がここまで強くなるとは思ってもみなかった。


「はぁ……」


 俺は思わずため息をついてしまう。

 せっかくスローライフをするためにこの異世界に転生したのに、まさかこんな風に戦いがあるなんて……そう思ってしまったのだ。

 何の力も持たない状態で剣と魔法のある世界に行けばすぐに命を落とすかもしれないと思って手に入れたのに、まさかこんな弊害があるとは……


「馬鹿にしているのっ!」


 俺がため息をついたのを見て、馬鹿にされたと思ったのかティリスが激高する。

 攻撃をされている最中にため息をつかれたら、そう思っても仕方がないかもれしれない。


「はあっ」


 彼女の攻撃のスピードがさらに上がる。

 どうやら先ほどまでの攻撃が最高速度ではなく、まだまだ上があったようだ。

 いや、正確に言うならば、怒りで攻撃に集中しているのだろう。

 ただただ俺に対する敵意で行動しているので、それ以外に考えていないようだ。

 元々、見切ることすら難しい速度で振るわれていた木剣がさらに早くなったのだ。


「あれも避けるのかっ!?」


俺が木剣をあっさりと回避する様子にリオナが驚愕する。

魔王の娘姉妹もそれは同様で、まるで化け物を見るような目を向けていた。

いや、流石にその目は酷くない?

俺は特別なことをしているわけではない。

たしかにティリスの攻撃は速くなったが、あくまで怒りによって速くなっているので、攻撃自体は単調になってしまっている。

この速度でなら単調になってもほとんどの人には大差ないのかもしれないが、俺にとっては先ほどの攻撃よりも格段に避けやすい。


「なんでっ、あたらっ、ないのよっ」


 攻撃を回避し続けていると、ティリスは徐々に息を切らしていく。

 これだけの攻撃をし続けているので当然の結果だ。

 俺はその隙を突く。


(カンッ)

「うっ……あっ!?」


 俺はティリスの木剣を叩き落とす。

 そして、痛みで動きが止まった彼女の喉元に木剣を突きつけた。


「降参、してくれるよね?」

「……降参よ」


 今度は流石に負けを認めてくれた。

 こうして決闘は俺の勝利で終わった。







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