閑話8-3 第二王女と公爵令嬢の会話
「でも、身だしなみより命の方が大事でしょう」
「それはそうだけど……」
イリアの言葉にシャルロットは納得しつつも、言葉を詰まらせる。
心配をしてくれていることは嬉しい、言っていることはもっともではあるのだが、だからといってシャルロットは自分の考えを曲げることはできない。
これは彼女が幼いころからし続けた習慣でもあった。
側妃の中でも最も身分の低い母親から生まれた王女──しかも、父親から最も愛情を受けていた側妃の娘というだけで、正妃派の人間からは蛇蝎のごとく嫌われたのだ。
当然であるとはシャルロットも理解している。
だが、それでも嫌がらせをされることは避けたかった。
だからこそ、少しでもその可能性を減らすために、攻撃をされる場所を減らしていたのだ。
「そもそもシャルは勘違いしていないかしら?」
「勘違い?」
イリアの言葉に首を傾げる。
彼女は一体何を言っているのだろうか?
疑問に思うシャルロットにイリアは質問をする。
「グレイン君がどうして魔石をネックレスにしたと思う?」
「え?」
「魔石の効果を発揮するためだったら、別にネックレスという形にこだわらなくてもよかったはずよ。なんなら、小さな石ころのような形でも、ね」
「……なんでだろう?」
イリアの説明にシャルロットは首を傾げる。
たしかにイリアの言う通りであった。
魔石自体に効果があるのだから、別にネックレスにする必要はなかった。
冒険者としての装備品として扱うのであれば、ポケットなどに小さい欠片を入れようものなら、戦闘の激しい動きのせいで無くしてしまう可能性がある。
そういう意味では、ネックレスは肌身離さず持っておくことができる。
しかし、シャルロットにはそんな激しい戦闘を行う可能性は低い。
恐らくそういう理由ではないだろう。
「あっ……胸元を狙った魔法を重点的に防ぐためかな?」
シャルロットは思いついたことを口にした。
ネックレスの魔石は基本的にちょうど胸元にくる。
つまり、その辺りを中心に魔法を防ぐことになる。
もちろん、他の場所への魔法を吸収しないわけではない。
しかし、魔石に近ければ近いほど、その効果は高くなるはずである。
そして、胸元──心臓に最も近い場所を守るということは、即死攻撃を防ぐということになるのではないだろうか?
「まあ、そういう意味もあるとは思うけど……」
「違うの?」
しかし、シャルロットの考えにイリアは何とも言えない表情をする。
どうやら、彼女の思っていた答えではなかったようだ。
だったら、イリアは一体どのように考えているのだろうか?
「グレイン君はシャルロットがドレスを着ることを考えて、このネックレスの形にしたんだと思うわ」
「え?」
「合わないものもあるでしょうけど、ネックレスであればドレスを着ているときの装飾品としても問題はないでしょう? しかも、こんなに綺麗な宝石だったら、ある程度のドレスには不釣り合いじゃないでしょうし」
「まあ、そうだね」
イリアの言葉にシャルロットはネックレスについている魔石を見る。
キラリと光を反射し、魔石は銀色に光る。
宝石としてはかなり珍しい色ではある。
それだけで目を引きそうではあるが……
「珍しさで正妃派から狙われそうだね」
シャルロットは思わず呟いていた。
この魔石は宝石として見たとしても、かなり珍しい気がする。
そして、そういう意味で正妃が奪おうとしてくる可能性も捨てきれない。
今までドレスと一緒につけていくことを考えていたが、わかりやすくつけることは避けた方が良いのかもしれない。
シャルロットがそんなことを考えていると、イリアが告げる。
「それもネックレスにした理由じゃないかしら?」
「どういうこと?」
イリアの言葉に再びシャルロットは首を傾げる。
今度は本気で意味が分からない。
どうしてそれがネックレスにした理由となるのだろうか?
逆に狙われる理由となっている気がするのだけど……
しかし、イリアは予想外の言葉を告げた。
「だって、胸元に隠せるじゃない」
「え?」
「その二つの大きな果物の間に隠せば、魔石を隠すことができるでしょっ!」
「なんで怒ってるのっ!?」
突然怒り始めたイリアにシャルロットは慌ててしまう。
時折、彼女はこのように怒り始める。
シャルロットにはその理由が理解できない。
持っている者には持たざる者の気持ちなど理解できないのだ。
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