閑話7-15 聖氷と闇炎の姉妹たちの会話
「とりあえず、母親がそんな立場だから、第二王女様は王家の中でも立場はかなり低いわね」
「……それなら逆に狙われないんじゃないの?」
「それがそうもいかないのよ。私と同じ理由でね」
「それって……」
私の説明にクロネは気付いた。
彼女の思っている通りである。
私と第二王女様の共通点は……
「【聖属性】ということ?」
「ええ、そうよ。第二王女はその属性のせいで、王位継承権が上がってしまっているのよ。正妃の息子たちを脅かすほどに、ね」
「……それは命を狙われるね」
私の説明にクロネがそう呟いた。
本当にその通りなのだ。
本来は身分の低い側妃の子供と言うことで、王位継承権は最下位となるために命を狙われることはなかった。
しかし、【聖属性】の魔力があるためにその前提が崩れてしまったわけだ。
だが、この王位継承権については必要なことだったのだ。
リクール王国にとって、必要な人材として示しておかなければ、他国から付け入られる隙となり得るのだ。
【聖属性】という魔力はそれほどに貴重の存在なのだ。
他国の人間はその【聖属性】を身内として取り込もうと、縁談話を送り込んで来る。
聖教国については、無理矢理にでも【聖女】として祭り上げようとしている。
私にも経験のあることである。
【聖属性】の魔力を持つ人あるある、と言う奴である。
こんなことで共感はしたくないのだが……
「国王様からすれば、大事な娘で【聖属性】を持っている第二王女様を他国へやるようなことはしたくないわけなの」
「それは理解できるね」
「でも、それはあくまでも国王様とその派閥だけの考えなの」
「……正妃様とその子供からすれば、邪魔者以外の何者でもない、ってことだね?」
「ええ、そういうことよ。いくら国王様の派閥が最大だとしても、正妃様の派閥を軽視はできないの」
「それは国王様の次に偉いから?」
「それもあるけど……正妃様の出身がラスター公爵家であることも問題の一因なの」
「それって……」
私の説明にクロネが反応する。
どうやら、この名前は彼女でも知っているようだ。
この国でこの名前を知らない貴族はもぐりである、と言われてもおかしくはない名前なのだ。
「この国の貴族の一、二を争う公爵家ね。規模だけで言えば、最大派閥と言っても良いわ」
「正妃様の実家なら、おかしくはないね」
クロネも頷く。
ちなみに、このラスター公爵家とトップを争っているのが、キュラソー公爵家である。
家の規模としては、ほぼ同格と言っていいほどである。
正妃様の出身であるということで、若干ラスター公爵家が優勢と言ったところだろうか?
まあ、人徳と言う意味では、キュラソー公爵家の圧勝なのだが……
「とりあえず、正妃様の派閥にはラスター公爵家がついている。そうすると、必然的にその派閥の貴族が集まってくるわけね」
「そうなると、自然と大きくなってくるわね。でも、よくそれで国王様はそれより大きな派閥を作れたね」
「国王様にはキュラソー公爵家が付いているからね」
「……たしかに派閥は大きくなりそうだね」
クロネが納得する。
人徳がある方により人が集まるのは必然である。
そうなると、ラスター公爵家よりもキュラソー公爵家の方に人が集まるだろう。
それでもラスター公爵家なのだから、人は集まるのだが……
「今は何とか国王様派閥が第二王女様を守ることができているけど……」
「国王様に何かあれば、途端に状況が悪くなるのね?」
「ええ、そういうことよ。しかも、次の国王が正妃様の子供になれば……」
「確実に第二王女様に被害が出るわね」
私の説明を聞き、クロネがそう締めくくる。
理解できたようだが、満足はしていないようだ。
まあ、こんな話を聞かされて、満足ができるはずもないか。
「どうにかできないの?」
クロネが聞いてくる。
しかし、私はそれを答えることは難しい。
私たちにどうこうできる力はないのだ。
たかが、一男爵家の令嬢程度には……
しかし、それはグレインお兄様も同様である。
だからこそ……
「そのためにグレインお兄様は魔石を渡したのよ」
「え?」
「グレインお兄様はこの魔石の効果を何だと思っている?」
「【魔力吸収効果】……あっ!?」
私の説明にクロネが気付いた。
「グレインお兄様は魔石の力で第二王女様の身を守ろう、と」
「ええ、そういうことね。といっても、あくまで一時的でしょうけど」
「どうして?」
「あくまで魔石の効果は魔法攻撃限定──それに気づかれれば、物理攻撃に変えてくるでしょう? ある程度の頭脳があれば」
「……そういうこと」
クロネは落胆する。
思ったような解決策にならなかったからだろう。
いい案だと思ったようだから、そうなっても仕方がない。
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