3-10 小さな転生貴族は獣の王女様に怒られる
※3月1日に更新しました。
「本当に知らなかったのか? 父親の事だろう?」
「うん。全く知らなかった」
「そうだね。たぶんだけど、父様はそういうことを自分で言うのが恥ずかしかったんだと思う」
ティリスの言葉に俺とシリウスは返事をする。
シリウスの言っていることは当たっているかもしれない。
アレンは魔物を倒すことを当たり前だろうが、それを偉業として語られるとなると逆に恥ずかしく感じているかもしれない。
少なくとも、俺にもし子供がいたならそんな話はできない。
カッコいいのかもしれないが、むず痒く感じてしまうからである。
「なっ!? お前たちの父親の偉業は世界中が知っているほどだぞ? 一番身近にいるお前たちが知らないのはおかしい」
「いや、そんなことを言われても……聞いていないものは仕方がないし」
驚愕するティリスだが、仕方がないことだろう。
アレンが話したくないのであれば、俺たち知られたくなかったのだろう。
それなのに、無理に知ろうとするのはあまり良くないと思う。
シリウスが来年から王都の学校に通うので、そこで聞くことになるかもしれないが……
「お前、ふざけているのか?」
「? いや、別にそういうわけじゃ……」
「まあ、父親の偉業を知らなかったことについては良しとしよう。いや、よくないが……」
どちらなのだろうか?
「だが、父親の偉業を知ってなお、その反応はふざけているとしか思えない。普通はギガンテスを倒したという話を聞けば、腰を抜かすほど驚くのが当然だ」
「「?」」
彼女の言葉に俺たちは首を傾げてしまう。
彼女の言っていることが正直分からない。
「なぜおまえたちはそんな平然としている。父親が伝説に近い存在なんだぞっ!?」
「「いや、だって……うちの父親だし?」」
「どういう理由だっ!?」
ティリスがさらに激昂する。
そんなに怒られても、俺たちが平然としている理由は変わらない。
俺たちにとって、アレンならそれぐらいできると思っている。
おそらくアリスも同様の考えを持っているはずだ。
「……らん」
「え?」
彼女が何か小さく呟いていた。
聞き取れなかったので、俺は思わず聞き返してしまう。
そんな俺の態度がおそらく火に油を注ぐ結果になってしまったのだろう──彼女の怒りが爆発した。
「気に入らん、と言っているのだ。アレン様の偉業を知ってなお、当たり前のことのように流す精神──到底許されることではないっ! その性根を叩きなおしてやる」
「「ええっ!?」」
彼女の発言に俺たちは驚きの声を上げる。
どうして父親のことを知らなかかっただけで、知らない少女からそんなことを言われなければいけないのだろうか?
思わず助けを求めるために視線を向けるが……
「ティリスの悪い癖が出ちまったね……あの娘、アレン様のギガンテスを倒す話が好きだからな……」
「ああ、あの物語ですか? 誰もが一度は憧れるお話ですから、それも仕方がないんじゃないですか? 私だって小さい頃は好きでしたよ」
「あいつのは異常なんだよ。「自分もギガンテスを倒す」とか、「アレン様のお嫁さんになる」とか普段から言っているんだよ」
「うふふ……かわいいじゃないですか」
リオナとリリムが近くでそんな会話をしていた。
どうやら俺たちはティリスの逆鱗に触れてしまったようだ。
彼女が憧れているアレンを馬鹿にしたと思われたのだろう、ならばここまで怒られてもおかしくはない。
まあ、怒られる側からすればたまったものではないのだが……
「さあ、剣を抜け。無手の相手に攻撃するほど、アタシの性根は腐っていない」
「いきなりそんなことを言われても……」
どこから取り出したのか、木剣の切っ先をこちらに向けてくる。
しかし、俺たちは戦うつもりはないのだが……
「……グレイン」
「あ、クリス母さん」
いきなり背後から声をかけられ、振り向くとそこにはクリスがいた。
相変わらず物静かで、背後にいたのに声をかけられるまで気づかなかった。
「……戦ってあげなさい」
「え?」
いきなりの言葉に俺は思わず心の底から嫌な声を出してしまった。
どうして俺が戦わなければいけないのか?
「……あの娘がアレンに憧れているのはわかった。私だって同じような気持ちを持っていたから」
「そうだね。だからこそ、結婚したんだよね」
どうやらクリスはティリスに同じような気持ちを感じたようだ。
だからこそ、彼女に戦ってあげろ、と言っているのだろう。
だが、一つだけ気になることが……
「どうして僕が? シリウス兄さんでもいいと思うんですけど」
「……シリウスに負けても彼女は納得することはない」
「?」
一体どういうことなのだろうか?
どうしてシリウスが駄目で、俺だと良いのだろうか?
彼女はあまり多くを語らないので、何を考えているのか伝わらないことがある。
まあ、彼女には彼女なりの考えがあるのだろうが……
「ティリスちゃん」
「っ!? 何よ……」
クリスにいきなり話しかけられ、驚きながらもすぐに警戒心を露わにするティリス。
いや、そんなに睨みつけなくても……
だが、そんな彼女の様子を気にすることなく、クリスは話を進める。
「……あなたの挑戦はこのグレインが受けるわ」
「本当?」
「ええ。もし、この子に勝つことができたら、あなたをアレンのお嫁さんに勧めてもいいわ」
「えっ!? 本当に……って、どうしてそんなことを言えるのよ! というか、誰?」
アレンのお嫁さんという言葉に一瞬嬉しそうになるが、ティリスはすぐにおかしいことに気付く。
「……私はクリシア=カルヴァドス、カルヴァドス男爵家の第一夫人よ。私の言うことなら、多少はアレンも聞いてくれるはず」
「たしかに実現できるかもしれないわね。でも……」
「どうしたの?」
「貴女がどうしてそんな提案をしてくるかがわからないわ。もし私が負けたら何を要求するのかしら?」
クリスの意図がわからず、質問をするティリス。
だが、クリスははっきりと答えなかった。
「……あなたが負けてもどうするつもりもない」
「へぇ……気前がいいわね。どうしてそんなを提案してくるのかしら?」
「……グレインと戦えばわかる」
「わかったわ。じゃあ、戦うわ」
「(コクリ)」
ティリスが提案を受け入れ、クリスが嬉しそうに頷く。
こうして俺とビストの第二王女との決闘が決定した。
俺の意思に関係なく……
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