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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第三章 小さな転生貴族は怪物たちと出会う【少年編2】
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3-8 小さな転生貴族は説教される

※2月28日に更新しました。


「一体、どうしてこんな真似をしたのかしら? 一国の王の癖に無断で侵入した上に娘を気絶させ、どうして屋敷の外壁を壊すなんて馬鹿なの?」

「「おっしゃる通りでございます。誠に申し訳ございません」」


 見下すような体勢で睨み付けるエリザベスの言葉にリオンさんとルシフェルさんは正座で地面にこすりつけんばかりに頭を下げる。

 彼女からあんなに怒られれば、そうなっても仕方がない事だろう。

 正直、怒りを向けられていない俺ですら、怖くて頭を下げてしまいそうだ。

 というか、後で怒られることは確実なので、今も戦々恐々しているわけだが……


 ちなみにエリザベスの言っている二人が「一国の王」というのは別に比喩的な表現ではなく、事実である。

 リオンは獣人の国【ビスト】の王──いわゆる獣王である。

ルシフェルが魔族の国【アビス】の王──いわゆる魔王である。

 二人はかなり上の立場の人間であり、本来であるならばこんな風に一人で動き回ることはあり得ない。

 まあ、そんな立場の人間だとしても、不法侵入と器物破損は犯罪であることには変わりないが……


「どうして二人とも一人で行動しているのかしら? 護衛の人たちは?」

「「えっと……」」


 エリザベスの質問に答えづらそうに視線をさまよわせる二人。

 そんな二人の様子に彼女の視線は鋭くなる。


「まさか、一人でこの領地まで来たとは言わないわよね?」

「そ、それはないぞ。ちゃんと他にも連れてきているぞ」

「そうですよ。私たちは仮にも一国の王なのですから、たった一人で他国の領地に行くはずないじゃないですか」

「じゃあ、他の人はどこにいるのかしら? 姿が見えないけど?」

「「……」」


 反論しようとするが、エリザベスに痛い所をつかれて黙らざるを得なくなった。

 明らかにそれぞれが一人で行動している様にしか見えないので、連れがいることを証明することができない。

 流石に他にも来ている人はいると思うが、その人たちがいなければ証明することはできないわけだ。


「はぁ……とりあえず、抗議はしとかないといけないわね。流石に勝手にこの領地で好き勝手されたんだから」

「いや、ちょっと待ってくれ」

「それは外交問題とかに……」

「そもそもあなたたちが問題でしょっ⁉ 私だってそんなことはしたくないわよ」

「「うぐっ」」


 脅しを止めようとするが、エリザベスの正論に言葉を詰まらせる。

 反論のしようがないので仕方がないが……


「まずはリオン」

「……はい」


 エリザベスに呼ばれ、力なく返事をするリオンさん。

 どうやら個別に説教していくようだ。


「なんでアリスを気絶させたのかしら? あの娘程度なら気絶させることなく抑えることぐらいできると思うけど?」

「えっと……思ったよりあの娘が優秀で、思わず反撃してしまって……」

「それで気絶させた、と? 女の子相手にそんなことをしていいとでも?」

「戦闘に男も女も関係は──」

「あなたの理屈は聞いてないわ。娘を傷つけられて怒らない親がどこにいるの?」

「はい、申し訳ございません。お宅の娘さんを気絶させてしまったことを謝罪させていただきます」


 エリザベスの正論にリオンさんは再び地面に頭をこすりつける。

 気絶させたことについては彼のせいなので、反論の余地はない。

 リオンさんが謝罪しているので、今度はルシフェルさんの方にエリザベスの視線が向く。

 意識が自分に向いたことを感じたルシフェルさんは体をビクッと震わせる。


「ルシフェルはどうしてうちの壁を壊したのかしら? 直すことができるとしても、何の理由もなく壊されるのはこちらも困るのだけど?」

「えっと……お宅の息子さんに魔法の神髄を見せようとして……」

「壁を壊した、と? いくら魔法を教えようとしても、人様の家の壁を壊していいのかしら?」

「本当に申し訳ございません。流石にやりすぎてしまいました」


 自分の不利を悟っていたのか、リオンよりも早く謝罪を開始していた。

 反論するだけ無駄であることをわかっているのだろう。


「「……」」


 一国の王たちがたかが男爵家の第二夫人を相手に土下座している、そんな姿を見て俺とシリウスはどう反応していいのかわからず黙ってしまう。

 これは一国の王たちが駄目なのか、エリザベスがすごいのかは判断できない。

 ただ一つだけ言えることは、こんな光景を普通は見ることができないということだ。

 だからといって、率先して見たいわけではないが……


「何を他人事みたいな表情をしているのかしら、グレイン? 私はあなたにも怒っているのよ?」

「うっ!?」


 怒りの矛先が今度はこちらに向いた。


「なんで見知らぬ人を勝手に敷地内に入れたのかしら? しかも、こんな怖い人たちについていくなんて、危機管理ができていないわよ」


 エリザベスが怒っている理由を告げる。

 彼女が怒っているのは俺がこの二人とともに行動していることのようだ。

 見知らぬ大人二人とともに行動するのは防犯上の観点からはあまり良くないとは思われる。

 この二人が誘拐などを企もうものなら、俺のような子供など簡単に攫うことができるわけだし……

 だが、俺としても何の考えもなくこの二人と行動しているわけではない。


「いや、この二人がそんなことを考えていないことはすぐにわかったし、獣王と魔王だということもなんとなく推測できてたし、父さんに会いに来たみたいだから案内したんだよ」

「確かにグレインだったらそれぐらい察することはできると思うけど、だからといってそんなことをする必要はないわ」

「いや、でも……」

「二人とも立派な大人よ? 子供が案内しなくてもここに来ることぐらいはできるわ」

「……たしかにそうだね」


 エリザベスの言っていることの方が正しいので、反論はしなかった。

 下手に反論してしまうと、彼女の怒りに油を注いでしまう結果になるのは目に見えているからである。

 怒っている相手には反論をせず、相手の意見を受け入れるのが説教が長くならない方法である。


「とりあえず、グレインの説教はまた後にしましょう」

「……うん」


 俺の説教はまだ終わりではないようだ。

 これで終わりだと思っていたのだが、現実はそこまで甘く無いようだ。

 エリザベスは再び二人に視線を向ける。


「この二人にはそれぞれの担当者に説教してもらおうかしら」

「「え?」」


 エリザベスの言葉に二人は驚きの声をあげる。

 そんな二人に近づく者たちがいた。


「「獣王(魔王)様っ!? どうしてこんなことをしたんですかっ!?」」


 獣人と魔族の女性が怒りを露わにしてそれぞれの王に説教を始めた。

 どうやら彼女たちがエリザベスの言う担当者のようだ。







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