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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第三章 小さな転生貴族は怪物たちと出会う【少年編2】
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3-5 双子の姉は獣人と戦う

※2月25日に更新しました。


「よう、嬢ちゃん」

「っ!?」


 いきなり背後から声をかけられ、アリスはすぐさま振り向く。

 屋敷の庭で訓練中に知らない人から声を掛けられたのだから、警戒してしまった。

 しかし、さらに驚きの光景を見て、アリスは叫ぶ。


「グレインっ!?」


 声を掛けてきた男はアリスの大事な弟──グレインを小脇に抱えていたのだ。

 ぐたりと力なく倒れているのは気絶しているのだろうか?


「こいつは嬢ちゃんの弟かい?」

「グレインを離しなさいっ!」


 アリスはすぐさま木剣で斬りかかる。

 相手の実力が上であることは、見てすぐにわかった。

 しかし、グレインがとらわれているので、自然と体が動いてしまっていた。


「はあっ」


 アリスは突きを放った。

 振りかぶる動作を必要とせず、彼女の中で一番早い攻撃である。

 威力も申し分はなく、シリウスの造る氷の壁に半分までめり込ませることができる。

 彼女としては貫くつもりだったので、不満だけど……

 とりあえず、自信のある攻撃だった。


(パシッ)

「えっ!?」


 しかし、アリスは驚愕の表情を浮かべる。

 渾身の突きが男の右手に──しかも、二本の指で挟まれて止められているからだ。

 盾で防がれたり、木剣ごと掴まれているのであれば納得もできた。

 しかし、人体でも弱い部分にあたる指で挟まれて止められるとは思っていなかった。


「ほう……まだまだ荒削りだが、いい突きだ。訓練を積めば、かなり強くなるだろうな」

「っ!? うるさいっ」


 アリスは思わず怒鳴った。

 褒めたつもりかもしれないが、彼女にとっては馬鹿にされたようにしか聞こえない。

 木剣を指で止められている時点で、「今はまだ取る足りない存在だ」と言われているようにしか思えないのだ。

 アリスは力尽くで木剣を下側に振り抜き、地面を思いっきり蹴って勢いよく剣を振り上げる。

 木剣は風を斬り、男の顎に向かって進んでいく。


「よっ、と」

「ちっ」


男は上体を少し反らすだけで木剣を避ける。

 アリスは思わず舌打ちをしてしまう。

 木剣を掴まれているところを無理矢理抜けたらその場から離れるべきだが、あえて不意をつく形でそのまま攻撃に移行したのだ。

 それなのに、男は焦った様子もなく最低限の動きで回避したのだ。


「はあっ」

「甘いな」


 振り上げた木剣を持ち換えて、そのまま突き降ろす。

 だが、この攻撃もあっさりと男に掴まれてしまった。

 少し期待外れと言った表情を男はしていた。

 だが、これでオアリスの攻撃は終わりじゃなかった。

 男が木剣を再び掴むのを狙っていたのだ。


「ふっ」

「(ドゴッ)がっ!?」


 掴まれた木剣を軸に体を回転させ、アリスは男の顎を蹴り抜く。

 同年代で力は強い方ではあるが、大の大人に比べれば見劣りがすることはアリスもわかっていた。

 しかし、的確に顎などの人体の急所を突けば、彼女の力でも十分に倒すことができる。

 完全に顎を捉え、手応えもあった──はずだった。


「やるじゃねえか……まさか、一撃をもらうとは思わなかったな」

「えっ!?」


 顎を蹴り抜かれた男は獰猛な笑みを浮かべ、アリスに向き直っていた。

 彼女は驚きつつも、すぐに離れないといけないと判断した。

 しかし、男は未だに木剣を掴んだままだった。

 彼女はシリウスに初めて負けたときの戦いを思い出し、木剣を手放してその場から離れようとした。


「だが、これでおわりだ」

(トンッ)

「あっ」


 いつの間にか背後に現れた男の声とともに、首の後ろに衝撃が走った。

 視界が黒く染まっていき、アリスは体が崩れ落ちる感覚に陥る。


「ぐ……グレイン……」


 アリスは最後の力を振り絞り、男が小脇に抱えていたグレインの服を掴もうとする。

 しかし、その手は届かず、そのまま地面に倒れてしまった。


「最後まで立派な姉だな。ここまで思ってもらえるなんて、弟冥利に尽きるじゃねえか」


 倒れたアリスを見て、男は自分が抱えている少年をからかう。

 しかし、その言葉も弟の反応も気絶したアリスが知ることはなかった。






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