3-3 小さな転生貴族は謎の男2と出会う
※2月24日に更新しました。
「それで気になる気配とは? 僕たちは別に普通の人間と獣人なんですが……」
とりあえず、男の言葉で気になったことを質問してみる。
この男はそのように先ほど言っていた。
移動方法についてはおかしいとは思うが、気になったのであれば確認しようとするのは当然の行動だろう。
だが、この場にいるのは俺たち二人だった。
つまり、気になる気配は俺たちのどちらかという可能性が高いわけだが……
「ああ。とんでもない力の持ち主がいることはすぐに感じたんだ」
「ああ、それはグレイン様ですね。天才と呼ばれるほどですからね」
男の言葉にリュコが速攻で俺を売りやがった。
いや、たしかに俺の可能性は高いが、だからといって俺であるとすぐに決定するのは早計ではないだろうか?
「リュコの事じゃないのか? なんせ【獣人】なのに、母さんに匹敵する魔力を持っているからな」
「なっ!?」
俺の指摘にリュコが慌てる。
まるで最初から自分がおかしくないという前提で話していることから、俺の方がおかしいと思っていたようだ。
だが、残念ながらおかしいのは俺だけではない。
獣人ではありえないほどの魔力を保有している彼女も十分に気になる気配の発生源になりうるはずだ。
「今の段階では絶対に僕だと言い切れないはず」
「いいえ、絶対にグレイン様です。グレイン様に比べれば、私なんて一般人ですから」
「どういう一般人だよ。一般人は魔法を暴発させて怪我するほどの魔力持っていないよ」
「なっ!? そのことを言いますか? ならこっちも言わせてもらいますけど、グレイン様は幼いときからおかしなことありましたよ? 普通は4歳の時から本なんて読もうとしませんよ。というか、6歳の時点ですでに大人並に字が読めるなんて、おかしすぎませんか?」
「リュコは14歳まで字もろくに読めなかったからね」
「……ほう、それを言いますか?」
「……そっちが先にいろいろ言ってきたじゃないか」
売り言葉に買い言葉で俺とリュコは言い争いをしてしまう。
どちらが【気になる気配】の発生源なのか──つまり、どちらがよりおかしい気配があるのか決めようとしている。
いや、相手に押し付けようとしているだけか?
とりあえず、醜い争いであることには変わりない。
そんな俺たちの様子を見てか、男があっさりと事実を告げる。
「気になる気配は二つ──つまり、お前たちのことだな」
「「……」」
男の言葉に俺たちは黙り込む。
まさか、二人共おかしいと言われるとは思っていなかった。
その可能性がなかったわけではないだろうが、自分がおかしいと言われるのを認めたくなかったのでその事実を無意識のうちに考えないようにしていたのかもしれない。
まあ、はっきりと言われたので受け入れざるを得ないが……
そんなことを考えていると、男が話を続ける。
「とりあえず、ここに跳んできたら獣人にしてはおかしな魔力を持っている嬢ちゃんとなんか存在そのものがおかしい坊主がいたわけだ」
「……なんか僕の方が扱い酷くないですか?」
思わず文句を言ってしまう。
リュコの方は種族的におかしな魔力を持っていると言われているだけだが、なぜか俺の方は存在自体おかしいと言われている。
初対面男になぜそんなことを言われなければいけないのだ。
だが、男の次の言葉に納得してしまうことになる。
「なんか坊主の方は普通の人間っぽくないんだよな」
「えっ!? いや、僕は普通の人間ですよ? たしかにこの年齢からすれば、おかしいぐらいいろんなことはできますけど……」
「いや、そういうことじゃなくて……なんか普通の人にはない何かがある感じか?」
「なに、その曖昧な──っ!?」
あっさりと一蹴しようとしたが、異世界から来た際に女神さまからスキルをもらったことを思い出した。
一応、この世界の住人たちが持っているスキルなどではあるが、俺はその数が一般的なものと比較して異常に多いのだ。
男はそのことを言っているのかもしれない。
まあ、流石に信じてもらえないので、説明はしないが……
「気にするな。別に悪い事ではない」
「いや、言った本人がそんなことを言われても……存在がおかしいとはなかなか言われませんよ?」
「はははっ、そうだな」
男は豪快に笑う。
本当に一体何者なんだろうか、この男。
見たところ、ネコ科の獣人のようだが、俺は猫にはあまり詳しくないので何の種類か判別することはできない。
それでも、彼がかなりの実力者であることはわかる。
なんせあれほどの跳躍を身体能力だけでやったのだから、相当の力を持っているはずだ。
しかも、あの強靭な肉体から放たれる攻撃は今の俺では喰らったらひとたまりもないはずだ。
まあ、悪い人ではないだろうからそのような攻撃を食らう戦いにはならないと思うが……
「おやおや、おかしな気配を感じてきてみたら、懐かしい顔がいますね」
「ん?」
背後から男の声が聞こえてきたので振り向くと、そこには黒髪の落ち着いた雰囲気の男性がいた。
体格的には成人男性の平均ぐらいか、獣人の男と比較するとかなり貧相に見えてしまう。
だが、彼が決して弱いというわけではない。
目の前の男からは尋常じゃない魔力を感じるからだ。
ルックスからも魔族だと推測される。
この辺りで一番魔力量が多いのはマティニ、それに僅差で母さんがいるのだが、この男の魔力保有量はその二人を合わせたものより多いだろう。
「規格外」という言葉で表現するのが一番だ。
それは獣人の男にも言えるのだが……
「おう、ルシフェルじゃねえか。どうしてここに?」
「それはこちらのセリフですよ。といっても、おそらくリオンは私と同じ理由でここにいると思いますがね」
「なるほど……そういうことか」
二人は旧知の仲なのか、情報があまりないのにお互いに納得してしまっている。
一体、誰なのだろうか……いや、魔力量などから大体の察しはついているのだが、それならばどうしてこんなところにという疑問が出てくるのだ。
いや、仕事でここに来ているならおかしくはないのかもしれないが、一人でいるところからそれはないだろう。
「とりあえず、そこの少年に聞きましょう」
「え?」
魔族の男──ルシフェルさんが俺に声をかけてくる。
一体、どうしたのだろうか?
「私はここの領主──カルヴァドス男爵に用がありましてね、お取り次ぎをお願いできますか?」
「なぜ子供の僕に?」
「それはもちろん、君がカルヴァドス男爵家のご子息だからですよ」
「……わかっていたんですね」
ルシフェルさんの言葉に俺は驚かなかった。
想像の通りであれば、俺の素性ぐらい簡単に見抜けるはずだからだ。
「その魔力を見れば、簡単にわかりますよ」
「それは初めて言われましたね。どういう意味ですか?」
「純粋な魔力量が多い者は遺伝することが多いですが、突然変異が起こる可能性もあります。ですが、魔力の扱い方は教えてもらわないと上達しない」
「僕には魔力の扱いを教えてもらう環境がある──つまり、この辺りだとカルヴァドス男爵家の人間だ、と」
「ええ、そういうことです」
ルシフェルさんは笑顔で答える。
平然と言っているが、内容はとんでもないことである。
相手の魔力量を見るのは、魔法を扱う者ならほとんどできる。
しかし、魔力の扱いについてはそうはいかない。
実際に使っているのを見れば難しくはないが、何もしていないのに見抜くのは一気に難易度が上がる。
彼はそれをあっさりとやったわけだ。
「身のこなしでもわかるな」
「はい?」
今度はリオンさんが口を開く。
意味がわからず、呆けた声を漏らす。
「身のこなしは各々の置かれた環境で身につくものだ。その環境に適応するために身につけたもの、誰かから習って身につけたものなんかだな」
「それでなにがわかると?」
「坊主については後者だ。その身のこなしはアレンから学んだものだろう?」
「……そうですね」
俺は少し考えてから答える。
たしかにアレンとの訓練をして、動きを参考にしたりはしている。
しかし、こんな日常生活でわかるようなものだろうか?
これもとんでもないことである。
「とりあえず、私たちは君のお父さん──アレン=カルヴァドス男爵に用があるんですよ。案内していただけますか?」
「ええ、わかりました」
ルシフェルさんの頼みを受け入れる。
断る理由もないし、俺も屋敷に帰る予定だったのでちょうどよかった。
「リオン……ルシフェル……どこかで聞いたことがあるような……」
横でリュコがなにか呟いていた。
一体、どうしたんだろうか?
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