3-2 小さな転生貴族は謎の男1と出会う
※2月24日に更新しました。
「本当にどうしようか」
屋敷への帰り道、俺はポツリと呟く。
結局、解決策はでることはなかった。
俺の置かれている状況が異常すぎるので、仕方がないことだろう。
そんな俺の様子にリュコが話しかけてくる。
「グレイン様、諦めたらどうですか?」
「それは嫌だよ。諦めた時点で僕の平穏な生活が壊れることが決定するんだから……」
「そうかもしれませんけど、専属メイドとしてはグレイン様の活躍をもっと世に知らしめたいですよ」
「活躍するぐらいなら僕も構わないよ。ただ、それを理由にいろいろと頼み事をされるのが嫌なんだ」
「……」
俺の言葉にリュコはどう反応すべきか悩んでいるようだった。
まあ、彼女には納得は難しいだろう。
これは俺が前世で社畜だったからこその考えなのだ。
彼女のような少女にわかるはずが……いや、わかっては駄目なことだろう。
近くにいる人が絶望するのは嫌だ。
「まあ、どうにかして兄さんが造ったことにしたいけど……」
「それは難しいでしょう。土属性の魔法を使って造られていますから、氷属性のシリウス様ではできないことは誰でもわかりますよ」
リュコは真面目に否定する。
まあ、流石に無理なことぐらい俺も理解している。
「それぐらいわかっているよ。言ってみただけ」
「わかっていることを言わないでください。こちらもいちいち訂正するのは面倒なんですから……」
「本当に辛辣になったね」
「グレイン様の専属になったせいだと思いますよ? 今までどれだけ私に迷惑をかけました?」
「……」
思わず文句を言ってしまったが、リュコの言い分にぐうの音も出なかった。
確かに彼女の言うとおり、迷惑をかけていた自覚はある。
といっても、最初に魔法を使った時のような事件を何度も起こしたわけではない。
怪我をさせてしまったのもその1回だけで、それ以来危険なことはほとんどしていない。
おそらく彼女が言っているのは、俺が一人で勝手に動き回っていたことだろう。
俺の専属であるために常について来ようとしていた彼女を何度か撒いてしまったことがある。
なかなか取れなかった自分の時間を作るためだ。
その結果、彼女は何度も心配することになったわけだが、繰り返されているうちに心配から怒りに変わったわけで……
「まあ、奥様も怒らないのでいいんですけど……お世話をしている側の気持ちも少しは考えてくださいね?」
「……うん、わかった」
彼女の静かな声音に素直に返事をする。
怒鳴り声なら聞き流したりするかもしれないが、静かな声音だと逆に怖くなってしまう。
おそらく、彼女は相当気を病んでいたのだろう。
本当に申し訳ない事をしてしまった。
いくら自分のしたいように生きたいと言っても、流石にやっていい事と駄目なことはあったようだ。
いくら貴族だとはいえ、そういう良識はしっかりと持っておかないといけない。
とりあえず、今後は彼女には心配をかけないようにしないと……
そのうえでどうにか貴族としての面倒な厄介ごとをどう避けるかを考えよう。
「とりあえず、この荒んだ心を妹たちに癒してもらおう」
「グレイン様は本当に妹様方がお好きですね? もしかして──」
「いや、変な勘繰りはしないでくれよ?」
「──妹を女性の一人として認識しているんじゃないんですか?」
俺の言葉を無視して、リュコははっきりと告げてきた。
オブラートに包むこともなく直球で言われたので、俺は思わずため息をついてしまう。
「はぁ……その勘違いは止めてくれない? 事実無根だし、まだ2歳の妹たちをそんな目で見ていたら、本物の変態じゃないか」
「いえ……グレイン様は普通とは違うので、そういう考え方でもおかしくはないかと」
「うん、本人を前に普通じゃないと言うのは置いておくとして、主人を相手にそれは流石に酷くない?」
「はい、流石に言い過ぎました。もう少し柔らかい表現にするべきでした」
「そういうことじゃないんだけど……」
リュコの言葉に俺はげんなりしてしまう。
最近、彼女の俺いじりが激しい。
本当に俺の専属メイドなのか本当に心配になってくるほどだ。
これを他の貴族相手にやったら、確実に不敬罪に問われるだろう。
果たして彼女は他の場所で仕事とかできるんだろうか?
「? どうしましたか?」
「……いや、何もない」
どうやらじっと見てしまっていたようで、彼女が怪訝そうな表情でこちらを見てくる。
俺は目線を上に逸らした。
(ヒュウウウウウウウウウウウウウウウッ)
「ん?」
「え?」
真上から勢いよく何かが落下してくる。
俺の様子にリュコもまた上を向き、同じような反応をする。
だが、おかしい。
地球にいたころの都心のオフィス街などならばビルが立ち並んでいるのでかなりの高さから落下してくるなんてことはあるかもしれないが、ここは異世界の田舎にある村で建物もせいぜい2階建て程度である。
そんなところから勢いよく落ちるものなどあるだろうか?
目測ではあるが、かなりの距離があるのにもかかわらずかなりの大きさであることがわかる。
しかも、建物の2階建ての高さなんてものではなく、推定20m近くの高さに【それ】はあった。
いや、重力に従って【それ】はどんどん落下していき、数秒後には俺たちの近くに落下して──
「グレイン様っ、危ないです」
「うおっ⁉」
近くに落下してくることに気が付いた俺たちは慌ててその場から離れた。
次の瞬間──
(ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ)
「「うっ!?」」
──激しい衝撃と共に【それ】は地面に着弾した。
本来であるならば「落下した」という表現の方が正しいかもしれないが、まるでミサイルが撃ち込まれたような衝撃だったので「着弾した」という表現をしてしまった。
だが、あながち間違いではないような気がする。
しかし、一体何なのだろうか?
俺は気になって、【それ】にゆっくりと近づいていく。
「グレイン様?」
俺の行動にリュコが心配そうに声をかけてくる。
正直俺も怖い気持ちはあるのだが、それよりもいきなり落ちてきた物体への興味の方が勝ってしまった。
所謂「怖いもの見たさ」と言ったところだろうか。
そんなことを考えながら、未だに砂煙が上がる着弾点に近づいていき──
「がははっ」
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
──そこから聞こえてきた声に俺たちは驚いてしまった。
どうやら落ちてきたものは言葉を発する生物のようで、その生物が笑っているということはなんとなく理解できた。
その声の主は俺たちが驚いたということを気にもせず、砂煙から姿を現した。
「あぁ、失敗した。高く跳躍したが、着地のことを全く考えていなかった」
「いや、それは考えときましょうよ」
姿を現した男性──ネコのような耳のワイルドな雰囲気のおっさんの言葉に俺は思わずツッコむ。
どうやらこの男性は自身であの高さまで跳躍し、この位置に落下してきたようだ。
いや、すでに落下していたことを考えると、もっと高くまで跳んでいたと考えるべきだろう。
どのぐらい跳んでいたのかは知らないが、それよりも自分で跳躍したのであれば着地のことを考えるのは当然だろう。
そんな俺のツッコミに男性は気にした様子もなく、話を続ける。
「いや、こっちに気になる気配がしたから急いできたんだ。間に建物とかあったから、早く行くためには跳躍するのが一番で……」
「建物の上に落下したらどうするんですか? 先ほどの衝撃だと、確実に崩壊しますよ?」
「うぐっ」
俺の指摘に男性は言葉を詰まらせた。
ただの道だったからこそ、クレーターができる程度で済んだのだ。
あれほどの衝撃が加われば、日本にあるような建築物や異世界の王族や貴族が住んでいるような屋敷ならともかく異世界の田舎にある村の建物などひとたまりもないだろう。
普段生活する分には問題ないかもしれないが、あんな衝撃が加わることなど想定していないはずだ。
「はぁ……まあ、怪我人が出なかったことはよかったですね」
「がははっ、そういう部分は問題ないぞ。俺は人の気配には敏感だから、しっかり人のいない位置に着地しようとした」
「いや、僕たちがいたんですが……」
「あれほどの気配の人間がこの程度回避できないはずがないと思ってな。気にせず跳んできた」
「なんて迷惑な……」
とんでもないことを平然と言ってくる男に俺は思わずジト目を見てしまう。
先ほどリュコに怒られていた俺が言うことではないが、この男は他人に迷惑をかけるタイプだろう。
自分より上を見てしまうと、治さないといけないと思ってしまった。
これがいわゆる反面教師という奴だな。
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