表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第二章 小さな転生貴族は領地を歩く 【少年編1】
35/618

2-18 死んだ社畜は噛まれる (追加)


「はぁ……情けないわね」

「どうしたの?」


 突然、アリスが大きくため息をつく。

 そんな彼女の様子に俺は思わず問いかけてしまう。

 俺の質問に彼女は首を振りながら答える。


「お父さんと訓練をしている時はこんなことにはならなかったのに、まさか実戦でこんな風になるなんてね……私には向いていないのかしら?」

「そんなことはないと思うよ? いくら敵だったとはいえ、生き物を初めて殺したんだから仕方のない事だと思うし……」

「でも、グレインはどうもなっていないじゃない。なんで平気そうな表情をしているのよ」

「……それは姉さんのようにその手で倒したわけじゃないからだと思うよ? 魔法で地面に埋めただけだし」

「それでも殺したことには変わりないでしょう? 私がこんな風になっているのに、おかしくないかしら」


 ごまかそうとしたが、今のアリスには無理なようだった。

 まあ、俺も直接手にかけてはいないが、生き物を殺したことには変わりはないからな。

 そのことにアリスは気づいていたようだ。

 脳筋なのに意外と頭が回る。

 いや、こういう非常事態だからこそ、気付いたのかもしれないな。

 とりあえず、なにか弁解しておこう。


「こいつらは僕たちを殺そうとしてきた敵だよ。殺さなければ、こっちが殺されていたんだよ」

「……だから平気だっていうの?」

「まあ、そういうことだね。こんな気持ちになりたくないからといって、こっちが殺されるわけにはいかないから」

「……私にはできない考え方ね」


 俺の説明を聞いたアリスがそんなことを呟く。

 まあ、子供の彼女にはまだ早い考え方だろう。

 ただ生き物を殺すという表面的な善悪でしか物事を判断できないのだろう。

 それは子供だから仕方のない事だ。

 こういうのはもう少しいろんな人生経験を積んでから、身につくような考え方だろう。

 だが、アリスの気持ちを少しでも軽くしてやるとしよう。


「姉さんはたぶん生き物を殺したことへの罪悪感を持っているんだと思う」

「……たしかにそうね」

「それはたぶん今回の件を「生き物を殺した」と考えているからだろうね」

「それ以外にないんじゃないかしら? たしかに私たちはハードウルフたちに襲われたから反撃したようなものだけど、殺したことには変わりないじゃない」

「まあ、そう思うのも仕方がないか……」


 俺は彼女の言葉に納得しながら、土の壁に手をつける。

 そして、その一部に穴を開ける。


「何を……っ!?」


 俺の突然の行動に疑問に思ったアリスが何か言おうとするが、その穴から出てきた生き物たち──毛玉たちを見て驚く。

 どうやらこの毛玉たちのことを忘れていたようだった。

 毛玉たちはびくびくしながらもアリスの方に近づいていく。

 そして、彼女にそっと体を寄せた。


「姉さんはたしかに生き物を殺したかもしれない、でも、それはこの子たちを守ったんだよ」

「……」

「生き物を殺すのはよくないことかもしれない。けれど、生き物を殺さなかったら、この子たちが殺されていたんだ。この子たちを助けたと思えば、少しは気持ちも楽にはならない?」

「……そうね。この子たちを救えたんだったら、それもいいか」


 俺の言葉にアリスは少し落ち着いたようだ。

 まあ、自分のためではなく他人のために行動したと分かったので、少しは罪悪感もまぎれたのだろう。

 落ち着いた彼女たちは毛玉たちの頭を撫でる。

 その優し気な手つきに毛玉たちは気持ちよさそうな表情を浮かべる。


「……でも、この子たちは何なんだろう? 全く見たことがないんだけど……」

「それはたしかにそうだね。僕も図鑑で見たことがないよ」

「まあ、可愛いからいいか」

「……そうだね」


 アリスの言葉に俺は頷くしかなかった。

 確かに彼女の言っていることはもっともなのだが、だからといってここまであっさりと受け入れるのはどうなのだろうか?

 これも彼女の凄い所なのだろうか?

 だが、少し驚いたことがある。


「姉さんも生き物を可愛いと思うことがあるんだね?」

「……私のことをどう思っているのよ」

「いや……訓練にしか興味のない脳筋かと……」

「今度の訓練、覚悟していなさいよ。泣いてもやめてあげないんだから」

「……そのときは父さんに助けを求めるとするよ」


 アリスが据わった目でそんなことを言ってきたので、俺は苦笑しながら返事をする。

 アリスを相手に訓練でも負けるつもりはないが、彼女の方が体力的に上であるのも事実。

 それに合わせて訓練をさせられたらたまったものではない。

 といっても、アレンに助けを求めたからといって、止めてもらえるかわからないが……


「それより、一ついい?」

「何?」

「僕もその子たちを触ってもいい?」

「別にいいんじゃない? 私が触っても逃げないし……」

「じゃあ……(ガブッ)いっ!?」


 手を出した瞬間、白い毛玉が噛みついてきた。

 黒い毛玉の方も俺の方を震えながら見てくる。

 どうやら、かなり嫌われているみたいだが……どうしてだ?


「あははっ、嫌われてるわね~」

「なんでだよ……」

「それはグレインが土の壁で閉じ込めたからじゃないの? 暗いところに閉じ込められて、多分怖かったんだと思うわよ」

「ちょっと待ってよ……それは助けるために仕方なく……」

「だからといって、あそこまでやる必要はなかったんじゃないかしら? 外も見えない状況で外から戦う音が聞こえる。相当怖かったと思うわよ」

「……」


 アリスの言葉に俺は黙るしかなかった。

 毛玉たちのためにやった行動が、逆に毛玉たちに嫌われることになってしまったわけだ。

 まったく皮肉な事である。

 俺はこういう可愛らしい生き物は好きなのだが、まさかここまで嫌われることは思わなかった。

 こうなってしまえば、触らせてもらうことはできないだろう。


「ふふふっ、可愛いわね」

「「きゅうっ!」」

「……」


 楽しそうなアリスたちを俺は黙って見ることしかできなかった。






ブックマーク・評価等は作者のやる気につながるのでぜひお願いします。

勝手にランキングの方もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ