2-13 死んだ社畜は逃げる (追加)
グレインの現在の年齢は4歳です。
4歳にしてはいろいろとおかしいかもしれませんが、そこは異世界と前世の記憶と経験があるということで納得してもらえると幸いです。
魔法があることで多少の補助ができますので、身体能力に関してもどうにかできると思っています。
個人的には上とは2歳差、下とは4歳差という状況にしたいのでこの年齢で行こうと思います。
『ブオオオオオオオオオオオオオッ』
「おらあっ!」
(ギイイイイイイイイイイイインッ)
グレートヒポポタマスの角とアレンの大剣が交錯し、周囲に衝撃波が巻き起こる。
地面は捲れ、落ち葉や枝は舞い上がり、木々は音をたてて倒れていく。
地球にいたころには見られない光景だった。
この森の木々は地球に有ったものに比べると格段に幹が太く、数百年ぐらい待たないと育たないぐらいの太さだったはずだ。
それなのにたった一合打ち合った衝撃だけで根元から折れているのだ。
それだけでどれほどの衝撃が起こっているのか理解できるだろう。
しかし……
「うらあっ」
(ザクッ)
『ブオオオオオオオオオオオオオッ』
まだ貴族の屋敷ほどの体躯を持つグレートヒポポタマスがこの衝撃を引き起こしているのは理解できる。
それほどの質量を持っていることは動くだけでもかなりの衝撃が起こるのは確実だ。
だが、それとまともに渡り合っている──いや、むしろ押しているアレンは一体どれほどの力を持っているのだろうか?
質量だけで言うならばグレートヒポポタマスの方が格段に上なので、アレンが打ち合えるはずがない。
それなのにアレンは打ち勝っているのだ。
目を疑って当然だろう。
といっても、アレンも生身でグレートヒポポタマスに打ち勝っているようではないようだ。
アレンが得意なのは【強化魔法】──それで身体能力を強化し、グレートヒポポタマスを翻弄しているのだ。
一見すると打ち勝って見えるように見えても、グレートヒポポタマスがバランスを取りづらいように行動し、その隙を突いていろいろとやっているようだった。
まあ、それでもアレンが凄い事には変わりないのだが……
というか、見た感じかなり分厚そうな皮膚なのに、どうしてアレンはあっさり大剣を突き刺すことができるのだろうか?
そもそも大剣はそうやって使う武器ではないだろうに……
『スウウウウウウッ……ブ、アアアアアアアアアアアアアアアアッ』
(ブワアアアアアアアアアアアアアアアッ)
「「「うぐっ!?」」」
グレートヒポポタマスは大きく息を吸うと、腹の底から雄叫びを上げる。
先ほどからずっと出していた雄叫びですら周囲に衝撃を与えるほどだったのだ。
大きく息を吸った後に出された雄叫びは今までとは比にならない程の衝撃を与えていた。
暴れまわるアレンとグレートヒポポタマスの衝撃が届かない距離にいた俺たちですら思わず耳を押さえてしまうほどの声量だった。
まさかいきなりこんな雄叫びを上げるとは思わなかった。
予想外の攻撃に俺たちの反応は遅れてしまった。
もちろん、近くにいたアレンは俺たちよりも被害が甚大である。
(フラッ)
「うぅ……」
耳を押さえながら、体をふらつかせている。
あんな至近距離であの雄叫びを聞いたのだから、それも仕方がない事だ。
だが、この状況でふらつくのはまずかった。
『ブルアアアアアアアアアアアアアアアアッ』
(ドスッ)
「ぐっ!? ぐああああああああああああっ!?」
グレートヒポポタマスが頭突きをアレンに食らわせる。
どうにか大剣を盾にして直撃は避けることはできたようだが、身体強化自体は解けてしまっていたせいで大きく吹き飛ばされた。
どうやらあの雄叫びには魔法を解除する効果があるようだ──いや、ただ単に魔法を継続することができるほど集中できなかっただけだろうか?
まあ、どちらにしろ魔法が継続できないことには変わりないか……
思ったより強いようだ、グレートヒポポタマス。
「あっ!?」
「なに……耳が痛いんだけど?」
ここで俺は自分たちが危機的状況に陥っていることに気が付いた。
だが、その事にアリスは未だに気が付いていない。
グレートヒポポタマスの雄叫びによる耳の痛みから意識を戻すことができないようだ。
俺はとりあえず彼女を無理矢理立たせる。
「姉さん、すぐに逃げるよっ」
「えっ!? どうして……あっ!?」
俺の突然の行動に一瞬焦りの表情を浮かべるが、グレートヒポポタマスの方に視線を向けて自分たちの状況に気が付いたようだ。
アレンが遠くに吹き飛ばされてしまったということで、グレートヒポポタマスの意識がこちらに向いてしまっているということに……
「ねぇ……グレイン?」
「なに?」
「これって、まずいわよね?」
「……そうだよ」
そんな危機的な状況にもかかわらず、アリスからの質問は落ち着いたものだった。
俺からの返答も同様に落ち着いたものになってしまっていた。
グレートヒポポタマスから鋭い視線を向けられているという突拍子もない状況だからこそ、そんな風になってしまったのだろうか?
だが、すぐにそんな状況は壊れてしまう。
『ブモアアアアアアアアアアアアアアッ』
「「ぎゃあああああああああっ!?」」
グレートヒポポタマスは俺たちに敵意の視線を向け、雄叫びを上げながら勢いよくこちらに駆けてきた。
それに気が付いた俺とアリスは悲鳴を上げながら、その場から駆け出した。
アレンがいないこの状況下であのグレートヒポポタマスを相手にできる手段はない。
というわけで、俺たちができるのは逃げるだけだ。
追いつかれたら確実に命を落とす──それがわかっているからこそ、俺たちは懸命に走っているわけだ。
「(早く戻ってきてくれ……あれぐらいじゃ死なないだろう?)」
俺はグレートヒポポタマスに追いかけられながら、心の中でそんなことを叫んでいた。
先ほど吹き飛ばされたアレンだが、おそらく死んでいないと思っているからだ。
あの脳筋はあの程度の攻撃では多少の傷を負ったとしても、致命傷になることはないはずだ。
この状況を解決できるのは彼しかいない。
だからこそ、すぐに戻ってくるように心の中で念じているのだ。
……まあ、だからといってすぐに戻ってくることはないのだが。
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