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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第七章 成長した転生貴族は冒険者になる 【学院編2】
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7-31 死んだ社畜はダンジョン効果を知る


 アレンたちの昔の話を聞いて、何とも言えない気持ちになった後、俺は話題を変えようかと思っていたところ、あることを思い出した。


「そういえば、ダンジョンが出来たそうですね」

「ん? ああ、アストラ子爵領の話だね。その件なら本当さ」


 俺の質問に学長はあっさりと答える。

 特段、秘密にする内容ではなかったようだ。

 まあ、ダンジョンが出来たぐらいなら、そこまで隠さないといけない話ではないのだろう。

 とりあえず、そのせいで起きたこともきちんと報告するべきだな。


「冒険者ギルドにほとんど人がいなかったです」

「まあ、そうなるだろうな。新しくできたダンジョンと言うのは必然的に人が集まるから、そのせいで他の場所から人がいなくなるからね」

「そこまでダンジョンって魅力的なんですかね?」


 人が集まっている現状で魅力的な事はわかるのだが、イマイチ俺にはその魅力があまり理解できない。

 現に強い魔物だって、ダンジョンの外にいるのだから……


「効率の問題だね」

「効率、ですか?」

「ああ。ダンジョンは外の世界に比べて周囲の魔素濃度が高くなっている。そのおかげで外に比べると魔物の数が多いし、魔素濃度が濃いおかげでその魔物は外の魔物よりも強力になっている。そうなると、外でクエストをこなしていくよりよっぽど稼ぐことができるわけだ」

「ああ、なるほど」


 たしかにそう考えると魅力的かもしれない。

 俺たちのような新人でそこまで稼ぐ必要のない冒険者ならそこまで気にすることはないかもしれないが、生活が懸かっている冒険者にとってはダンジョンと言うのは魅力的な場所であることは言うまでもないわけか。

 それならば、人が集まるのもおかしな話ではないな。


「それに実力を上げるにはもってこいの場所だからね」

「そうなんですか?」


 学長の追加の話に俺は思わず聞き返してしまった。

 そんな俺の反応に学長は笑みを浮かべる。

 なんか馬鹿にされているような感じがするが、現に俺に知識がないので馬鹿にされても仕方がないのかもしれない。


「君はまだダンジョンに行ったことはないからわからないかもしれないが、ダンジョンで鍛えると外でクエストをこなすよりも格段に強くなれるのさ」

「……本当ですか? そういうのって迷信だと思うんですけど……」


 学長の話を聞いた俺は思わず怪訝そうな表情を浮かべてしまう。

 なんせ、ダンジョンにそんな効果があるとは到底思えないからだ。

 たしかに強力な魔物が出るのはわかるが、だからといって冒険者としての強さが簡単に上がるとは思えない。

 前世であったRPGとかなら、強い敵と戦うことによって多くの経験値を貰え、一気に強くなれるのはわかる。

 だが、ここは異世界とはいえ、あくまで現実。

 強い敵と戦ったからと言って、一気に強くなれるとは思えないのだが……

 そんな俺に学長はさらに説明を続ける。


「迷信じゃないさ。現に強くなった人間はかなりの数いるからね」

「そうなんですか? でも、それはその人たちの才能とかの可能性も……」

「それは否定できないな。だが、ダンジョンで戦うことによって強くなるというのは、あながち嘘ではないんだよ」

「……そこまで言うなら、何かあるんですね」


 学長の含みのある言い方に俺は勘づいた。

 彼がここまで言うということは、確実に何かあるはずだ。

 流石に二年もこの人の授業を受け続ければ、おのずとわかってくる。

 さて、一体どんなトリックがあるのやら……


「さて、これはグレイン君も知っている──どころか、世間一般的な常識かもしれないが、ダンジョンには外の世界よりも格段に魔素が濃い」

「まあ、そうですね」

「そして、その魔素濃度により、ダンジョン内に存在する魔物たちはかなり強力になっているわけだ」

「そういう話みたいですね」


 実際に見たことはないので、俺はそのような返事をすることしかできない。

 さて、結論はどういう話になるのだろうか?

 俺がそんなことを考えていると、学長は右手の人差し指を立て、笑顔を浮かべながら続きを話す。


「さて、ここで一つ疑問だ。魔素濃度の濃さに影響されるのは、ダンジョン内に存在する魔物だけなのか、と」

「っ!? まさか……」


 学長の説明に俺はある予想が頭に浮かんだ。

 まさか、そんなはずは……俺はそんな非常識なことを信じられなかった。

 だが、現に強くなっている人間がいるわけで……


「どうやらわかったようだね。おそらくダンジョンの濃い魔素が魔物だけではなく、探索している冒険者にも作用しているようだ。そのおかげでダンジョン内で戦う冒険者たちも強くなれるわけだ」

「……事実なんですか?」

「おそらく、ね。流石にまだ根拠はないが、私はその説を支持しているよ」

「まあ、学長が信じているのであれば、かなり可能性は高いかもしれませんね」


 この人が言うのであれば、この話はかなり信憑性が高いと思われる。

 他の人が言うのであれば荒唐無稽に聞こえる話でも、なぜか学長が言うのなら信じられるのだ。

 これもこの人の圧倒的な強さに裏付けられる信頼かもしれない。

 この人自身はそこまで好きではないのにな。


「まあ、この説を実証するのはかなり難しいかもしれないがね」

「そうなんですか? 現に強くなった人がいるのなら、それだけで十分実証できると思いますけど……」

「そう簡単にも行かないのさ。こういう説を実証するために必要なことはわかるかい?」

「それはもちろん。証明したい説をそれと対照になるような内容と同時に行うんですよね?」


 学長の質問に俺はあっさりと答える。

 これでも前世ではしっかりと大学を出ているのだ。

 大学と言うのは、一時期研究室に配属され、卒業するために実験を行わないといけない。

 その際、ある仮定を証明するために、対照実験というものを行わないといけないのだ。


「つまり、この場合は?」

「ダンジョンで戦う者とダンジョンの外で戦う者で比較するわけですよね?」

「……人道的な観点からどう思う?」

「……非人道的ですね」


 学長の言っている意味がよく分かった。

 たしかにこれは証明することは難しい。

 内容が難しいのではなく、人の命が常に危険にさらされる状況で実験を行うことで難しくなっているのだ。


「ちなみに、よしんば実験ができたとしても、おそらく難癖をつけてくる人間も多いだろう」

「そういうものですか?」

「ああ。ダンジョンの中と外で戦う人員に差があるのでは? といってくる者もいるだろうね」

「ああ、そういうことですね」


 実験というのは難しい。

 ただただ調べたいことを調べればいい、それだけでは済まないのだ。






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