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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第七章 成長した転生貴族は冒険者になる 【学院編2】
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7-22 死んだ社畜は祖父に文句を言う


 リナリアさんとの会話を終え、俺たちは一旦解散となった。

 昼飯をとった後、全員で冒険者ギルドへ報告に行く。

 数日間、屋敷から離れていたので、その前に少しいろいろとやるべきことがあるということで解散したわけだ。

 とりあえず、俺は俺のやるべきことをしないといけない。

 目の前にある扉をノックした。


(コンコン)

「入れ」


 部屋の主の許可を得たので、俺は扉を開ける。

 中に入ると、机の向こう側にいた部屋の主──バランタイン伯爵が少し驚いた表情を浮かべる。

 予想していなかったのか?


「ほう……もう帰ってきたのか?」

「ええ、ただいま帰りました」

「もう少しかかると思っていたんだがな? 相手はオークジェネラルが率いるオークの集団だったのだろう?」

「ええ、そうですよ。といっても、今回は俺は手を出していませんけど」

「それはつまり、シリウスたちで倒しきったということか? それは随分と成長したものだ」


 俺の報告を聞いたバランタイン伯爵が全く表情を変えず、驚いたような反応をする。

 別に驚かないんだったら、そんな反応はしなくていいと思うんだが……

 まあ、祖父である以上、孫の前ではこういう反応をした方が良いと思っているのかもしれない。

 とりあえず、俺は本題に入るとする。


「それよりも、一つ聞きたいことがあります」

「聞きたいこと?」

「リュコの件です。なんですか、あの戦い方は?」


 俺はリュコの件の元凶として、バランタイン伯爵を言及することにした。

 リュコ相手には俺自身が異常であることも踏まえ、あれ以上彼女に文句を言うことはできなかった。

 だが、バランタイン伯爵に対しては別だ。

 彼はああなることを分かったうえで、リュコに訓練を施していた可能性があるからだ。

 そして、俺にはそれについて文句を言う権利があるはずだ。

 なんせ、俺の専属メイドが猟奇的になってしまったのだから……


「ああ、リュコの事か。なかなか強くなっただろう?」

「ええ、強くはなっていましたね。ですが、あの戦い方はなんですか?」

「戦い方? あれのどこが悪い? 非常に効率的な戦い方だと思うが……」

「相手の急所や弱点を的確に狙っていく戦い方は健全じゃないでしょう? あれじゃ、対人戦なんかできないじゃないですか」

「別に対人戦でも使えばいいのでは? 戦えないわけではないだろう」

「そういう問題じゃないです。常に相手を殺すような戦い方を人間相手にすれば、後で文句を言われるのはこちら側なんですよ? そんな戦い方しかできないようになったら、まずいでしょう」


 何が問題だ、とばかりに答えるバランタイン伯爵に俺は思わず怒鳴り気味に文句を言ってしまう。

 俺が今回問題視しているのは、リュコが万が一人間と戦った時のことを考えてである。

 例えば、街中で犯罪の現場に出会ったとしよう。

 それを治めるためにリュコが犯人と戦うことになった場合、今のままでは確実に相手を殺してしまうだろう。

 前世での銃社会と呼ばれている国ならばまだしも(その国でもそこまではやるとは思わないが)、犯人を捕らえるために殺すのはダメだろう。

 俺はその点を指摘したいのだ。

 だが、そんな俺の文句を聞いても、バランタイン伯爵の表情はほとんど変わらなかった。


「安心しろ。基本的にリュコがあの戦闘を人間相手に使うことはない」

「なんでそんなことが言えるんですか? ありえないでしょう」

「それはもちろんお前がいるからだ、グレイン」

「俺がですか?」


 バランタイン伯爵の言葉に首を傾げる。

 どうして俺がいることがリュコが対人戦を想定しないことにつながるのだろうか?

 疑問に思う俺にバランタイン伯爵は説明を続ける。


「お前の言う通り、リュコの戦い方は対人戦には向かない。だが、彼女がそういう場面に出くわすときには確実にお前がいる。なんせ彼女はお前の専属メイドなんだからな」

「それはつまり、俺が先に対処しろ、と?」

「まあ、そういうことになるな」

「いや、なんで主である俺が先に対処しないといけないんですか? そういうのは貴族としてはあまり好ましくないと思いますが?」

「そんな考えなど捨ててしまえ。そういうことは対処ができる者がすればいいのだ」

「まあ、そうかもしれませんけど」


 バランタイン伯爵の言葉に俺は反論することはできなかった。

 たしかに彼の言うことはもっともだったからだ。


「お前ならば、誰よりも周囲に影響を及ぼすこともなくその場を治めることが出来るはずだ」

「……たしかにそうですね」

「だからこそ、リュコにはお前のためになるようあの戦闘技術を手に入れてもらったわけだ」

「いや、だからといってあれは……」


 バランタイン伯爵の言わんとしていることはわかる。

 だが、だからといってあの戦闘技術は必要だっただろうか?

 少なくとも、見ている側からすれば、あまり気持ちのいいものではない。

 そんな俺の気持ちに気付いてか、バランタイン伯爵はさらに説明を続ける。


「あの戦闘方法ならば、的確に相手の息の根を止めることが出来る。つまり、その分早く戦闘が終わり、周囲への影響も少なくなるわけだ」

「……たしかにそうですけど」

「戦争において相手の大将を的確に見抜き、即座に倒すことが出来れば、敵味方に被害を出すことなく戦いを終わらせることが出来るのだぞ?」

「それは戦争でしょう? 俺たちは戦争をしているわけではないのですが……」


 なんでいきなり戦争論の話になったのだろう。

 自分が戦争で英雄と呼ばれるほど活躍したから、そういう方面で話したいのだろうか?

 正直なところ、バランタイン伯爵の考えがわからない。


「まあ、今は起こっていないからな」

「え?」


 バランタイン伯爵の言葉に俺は驚きの表情を浮かべる。

 今、この人は何て言った?

 俺は思わず質問しようとするが……


「誰に迷惑をかけたわけでもあるまい。ならば、効率的に戦える方がよいではないか」

「そ、そうですけど……というか、さっきの言葉は……」

「問題がないのなら、もういいだろう。儂は仕事中なのだから、退出してくれ」

「……はい」


 バランタイン伯爵の言葉に俺は退出するしかなかった。

 しかし、先ほどの彼の言葉は一体どういう意味なのだろうか?

 俺はしばらく考えたが、その真意を導き出すことはできなかった。






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