7-19 死んだ社畜は先程の戦いを指摘する
「じゃあ、早速評価させてもらうよ」
「「「「は~い」」」」
俺の言葉にシリウスたちが元気よく返事をする。
なんだろう、このノリ?
「?」
そして、リュコはついてこられていない。
まあ、仕方のないことかもしれない。
いくらリュコがティリスやレヴィアと同じ婚約者という共通項があったとしても、如何せん年が離れすぎている。
これは仕方のないことかもしれない。
まあ、口に出しては言わないが……
「じゃあ、まずはシリウスとレヴィア」
「「はい」」
俺の言葉に二人は返事する。
先ほどのような若干茶化しているような雰囲気はない。
真剣に聞いているようだ。
「二人がオークたちの動きを封じ込めた魔法はよかった。きちんと敵だけを拘束できていたのは非常に良かったと思う」
「よし」
「やった」
俺の言葉に二人はガッツポーズをする。
俺に褒められたことがよほどうれしかったのだろう。
この二人については特に悪い点はなかった。
そのため、追加で提案をすることにする。
「とりあえず、次は個々で相手を倒していこう」
「「個々で?」」
「ああ。二人の現状はパーティーを組んだうえで補助的な役割を担うことが前提となっている。でも、いつも前衛を担ってくれている仲間がいるというわけではないだろう。そういう時のためにいつでも魔物を倒せるような魔法を使っていくべきだと思ったわけだ」
「……なるほど」
「……わかったわ」
俺の提案を二人は聞き入れる。
自分たちで魔物を倒せることになる意味を理解できたからだろう。
これでこの二人への評価は終わりだ。
次はアリスに視線を向ける。
「次は私ね。どんとこい」
「アリス姉さんは一撃で複数のオークを倒した攻撃範囲と攻撃力には目を見張るものがあるね」
「ふふっ、そうでしょう?」
俺の言葉にアリスがささやかな胸を張る。
自分でも(一気に倒したところは)自信があったところなのだろう。
たしかに、あんな芸当ができる者はなかなかいないと思われる。
だが、手放しに誉められるかと言えば、そうではない。
「でも、もう少し周りに目を配るべきだね」
「え?」
「たしかに姉さんの攻撃はすごいよ。でも、その攻撃のせいで他の人の動きを阻害しかねないよ、このままじゃ」
「え? え?」
俺の指摘にアリスが焦り始める。
まさか否定されるとは思わなかったのだろう。
まあ、別に俺だってここまでの反応をされるとは思っていなかった。
仕方がない、フォローするとしよう。
「といっても、姉さんの戦闘スタイルを変えろとか言うつもりはないよ。とりあえず
、周りの動きをよく見て、他の人の行動を邪魔しないようにしないと」
「……どういうことかしら?」
「今回のアリス姉さんは一気にオークの集団を斬り伏したよね? でも、その一撃が大きすぎたせいで、シリウス兄さんやレヴィアが追撃を加えることが出来なかったわけだ」
「……たしかにそうね」
俺の説明にアリスは納得する。
脳筋ではあるが、こと戦闘についてはきちんと理解できる娘なのだ。
俺は説明を続ける。
「今回みたいに一撃で倒せる相手だったらまだいい。でも、今後は一撃で倒すことのできない相手も出てくるだろうから、あんな風な立ち回りは逆に戦況を悪くするんだ」
「……うん」
「そういう相手だったら、基本的にはヒット&アウェイ。そして、姉さんの動きに合わせて他の前衛がスイッチしたり、後衛が援護したりするべきなんだ」
「わかったわ。気を付けるわ」
俺の説明に納得したようにアリスは頷く。
少し言い過ぎただろうか?
彼女は完全に意気消沈していた。
とりあえず、慰めるとしよう。
「でも、他の部分はよかったから。俺が言った部分だけ気を付けたらいいと思うよ?」
「本当?」
「ああ」
「じゃあ、頑張る」
あっさりと元気を取り戻したアリス。
現金だな……
そんなことを考えながら、次にティリスに視線を向けた。
「ティリス、あの戦い方はなんだ?」
「あの戦い方、とは?」
俺の質問の意味が分からず、首を傾げるティリス。
そんな彼女に俺は説明する。
「わざわざ短剣を刺していく戦い方だよ。今まではあんなことはやっていなかったよね?」
「ええ、そうね。あれは今回から始めた戦い方だからね。でも、結構うまく行っていたでしょ?」
俺の言葉にティリスは自信満々に胸を張る。
ポヨン、と最近著しく成長した哺乳類の象徴が揺れる。
それをアリスとリュコが睨み付ける。
俺はそんな彼女たちの視線をスルーして話を続ける。
「たしかにそうだね。オークジェネラルは短剣が刺さったことで大したダメージがなかったから油断し、その油断からさらなる追撃を食らってしまった。その点では非常に有効な作戦だと言えるな」
「そうでしょ? これを考えついた時は、自分が天才かと思ってしまったほどよ」
「でも、この作戦はかなり危ない」
「え?」
俺の言葉にティリスが驚きに目を見開く。
まさか否定されるとは思っていなかったのだろう。
だが、流石にこれは否定しないわけにはいかない。
俺は説明を続ける。
「あの戦い方は相手の能力をはっきりと把握していなければ、かなり危険な行為だ。今回のオークジェネラルのような動きが遅い相手ならいいが、ティリス並、いやそれ以上の速さで動く相手にあんなことをすれば攻撃されるカモにになってしまう」
「そんな相手にはあんな戦い方はしないわ」
「それに表面がかなり頑丈な相手だったら、そもそも最初の短剣すら刺さることはない。だから、あんな戦い方は通じない」
「……それは」
「というわけで、あんな戦い方が通じるのは知識のあるティリスより格段に弱い相手だけということだ。そして、そんな相手にあの戦い方のプロセスは無駄なんだ」
「……」
俺の指摘にティリスは黙り込んでしまった。
まあ、ここまで指摘してしまったら、仕方のない事だ。
さて、どう慰めるか……
「でも、新しい戦い方を考えるのはとてもいい事だと思う」
「本当?」
「ああ。いろんな相手と戦う上で常に同じ戦い方をするのは悪手だ。もし戦い方がバレていれば、そこに付け込まれるからね。その点では新しい戦い方を考えていくべきだろう」
「なるほど」
「だから、ティリスは今後もどうやって戦うかを考えていくべきだね」
「わかったわ」
俺の言葉にティリスが頷く。
どうやら機嫌を取り戻したようだ。
しかし、俺の言いたいことはまだあった。
「でも、ティリスは何も考えずに戦ってみたりするのも良いと思うよ」
「え? 何も考えず?」
「まあ、無茶は言わないけど、余裕があるときはやってみるといいよ」
「うん? 気が向いたら、やってみるわ」
俺の言っている意味が分からず、ティリスが若干納得いかない表情で頷いた。
まあ、今の彼女ならそれは仕方のないことかもしれない。
でも、これは彼女にとって必要な事なのだ。
これによっていずれ彼女が何かを掴むと俺は思っているのだ。
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