7-16 死んだ社畜の兄姉・婚約者たちはオークの集団と戦う 1
(((((ザッ)))))
「「「ブモッ?」」」
いきなり聞こえてきた音にオークたちが振り向いた。
そこには5人の美少女(一人男を含む)がいた。
その異常な光景にオークたちは一瞬何が起こっているのか理解できていなかったようだ。
それはそうだろう。
目の前にいるのは明らかに人種の少女たち──オークたちからすれば、自分たちが襲うことによって奪う対象なのだ。
それなのに、その人種の──さらに弱いと思われる女共が自らやってきたのだから、おかしいと思って当然である。
だが、すぐにその状況は変わることになる。
『BUMOAAAAAAAAAAAAAAA!』
(((((ビリビリビリッ)))))
一番奥にいた一際大きなオーク──この集団のリーダーである【オークジェネラル】が高らかに雄叫びを上げたからだ。
その顔に見合った雄叫びのせいか、周囲の空気が震える。
それを聞いたオークたちが一斉に襲い掛かってきた。
どうやら、先ほどの雄叫びはオークたちに指示を出すためのものだったようだ。
「「「「「ブモッ!」」」」」
オークたちがそれぞれの武器を持って、シリウスたちに襲い掛かった。
連携も糞もないてんでバラバラの動きではあったが、それが許されるほどオークは種族的に身体能力が高い。
むしろ、連携にはあまり向いていない種族の一つと言ってもいい。
だが、オーク種ならば、下位であっても一撃で大ダメージを与えることが出来るのだ。
それだけで人間からすれば、脅威であることには変わりない。
しかし、そんなオークたちの動きを見ても、シリウスたちは落ち着いていた。
((スッ))
シリウスとレヴィアが腰を低くし、地面に手をつけた。
二人の体を循環している魔力が手を通じて、地面へと流れていった。
「【アイシクル──」
「【ロック──」
「「──バインド】ッ!」」
二人は同時に魔法を発動した。
(((((パキパキパキッ)))))
「「「「「ブモッ!?」」」」」
襲い掛かろうとしたオークの足が膝まで岩の塊で埋められ、その上から氷の塊が覆われた。
いきなりの出来事にオークたちが焦り、浮足立っていた。
自分たちが襲い掛かり、勝利することを疑っていなかったからこその反応だろう。
まさか反撃されると思っていなかったのだろう。
だが、この程度で驚かれても困る。
「【氷結武装】」
魔法が発動し、アリスの大剣が氷に覆われる。
アリスが大剣を横薙ぎに振るった瞬間、複数のオークの上半身と下半身がお別れになってしまった。
おいおい、すごいな。
俺と戦った時とは比べ物にならないぐらいの威力になっているな、これ。
俺でもこれは防御をすることすら一苦労かもしれない。
「【獣気解放・炎狼】」
今度はリュコが動いた。
彼女の全身からオーラのようなものが放たれ、さらに炎が全身にまとわりつく。
これが噂に聞いていたリュコ独自の技術か。
獣人の一部が使える【獣気】と魔法による武装により、身体能力の向上と戦闘に必要な武装を同時に揃えているのだ。
その二つが合わさったリュコの姿はさながら炎の狼と言ったところか?
(スッ)
「ん?」
目の前からリュコの姿が消えたので、俺は思わず驚きの声を上げてしまう。
決して視線を外したわけではない。
ずっと見ていた筈なのに、視界から消えたのだ。
慌ててリュコの姿を探したが……
(バキッ)(バキッ)(バキッ)
「「「ブオッ!?」」」
いきなり聞こえてきた音に俺はそちらに視線を向けた。
そこには顔面を殴られたのだろう、上体を大きく反らしたオークたちの姿があった。
そのオークたち中心に先ほど消えたと思われたリュコの姿があった。
どうやら彼女の仕業のようだ。
しかし、想像以上に彼女の技術はすごいのかもしれない。
見ていた筈の俺が見失うほど移動速度──そして、同時と見紛うほどの放たれた攻撃速度はかなりハイレベルだと思われる。
バランタイン伯爵は一体彼女にどんな特訓をしていたのだろうか?
思わずそんな疑問を感じてしまう。
『BULUAAAAAAAAAAAAAA!』
(((バキバキッ)))
突如聞こえてきた異質の音に俺は視線を向けた。
そこにいたのはハイオークの姿だった。
なんとハイオークたちは自分たちを拘束していたシリウスとレヴィアの魔法を破壊し、脱出していたのだ。
正確に言うと、さらに後ろにいるオークジェネラルの雄叫びに奮起したハイオークたちが無理矢理抜け出した、といったところだろうか?
どちらにしろ、オークたちがただただやられるだけではないということだ。
「「「ブモアアアアアアアアアアアアッ!」」」
脱出したハイオークたちは自分たちを拘束したシリウスとレヴィアに向かって駆けだしてくる。
おそらく一番近くにいるアリスやリュコより、自分たちの動きを阻害してくるシリウスとレヴィアの方が脅威と感じたのだろう。
野生の勘と言ったところだろうか、そういう面ではしっかりとしているようだ。
しかし、二人だってただただやられているわけではない。
「【アイシクル・ブレット】」
「【ロックブラスト】」
ハイオークたちに向かって、拳骨ほどの大きさの氷の礫とスイカほどの大きさの岩石が飛んでいった。
ハイオークの巨体に比べれば、決して大きくない。
だが、それでもこの勢いで向かってくるのはなかなかの脅威である。
「「「ブアアッ!」」」
ハイオークたちは反射的に持っていた武器でそれらを払った。
やはり危機管理能力は高い様だ。
流石はオークの上位種と言ったところだろうか?
だが、すぐに次の行動に移せないのは、評価を下げなくてはいけない。
「「はあっ!」」
(ズバッ)
((ドドンッ))
「「「ブアッ!?」」」
アリスとリュコの攻撃がハイオークに直撃したからだ。
一体のハイオークは右肩から左の腰のあたりに袈裟懸けに斬られていた。
二体のオークが腹部に衝撃を受けたようで上体を前に曲げ、そこからさらに顔面を蹴り上げられたようで上を向かされていた。
「ほう」
俺はその光景に思わず感嘆の声を漏らしていた。
四人の連携が非常に良かったからだ。
まさかここまで凄いとは思わなかった。
これは高い評価を与えなければいけないな。
そんなことを考えていたが、決して戦いが終わったわけではなかった。
『BULUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
「「「「「ッ!?」」」」」
部下たちの情けない姿に怒りを覚えたのか、オークジェネラルがさらに大きな雄叫びを上げる。
それを聞いたオークたちが一斉に起き上がる。
おそらく、自分たちの身に危機を感じたのだろう。
このまま負けてしまえば、自分たちの居場所がなくなると言った恐怖を感じたのかもしれない。
だが、俺は素直に驚く。
いくらオークジェネラルの恐怖政治を受けているとしても、ここまであっさりと起き上がるとは思わなかったからだ。
やはり種族的にタフネスなのかもしれない。
部下のオークたちが起き上がったのを見て、オークジェネラルが次の指示を出そうとした。
『BULU──』
「させないわ」
だが、指示を出す前に何者かがインターセプトをした。
もちろん、それはティリスだった。
全身の毛が逆立った【獣気】を解放したティリスが一人でオークジェネラルに対峙したのだ。
構えをとったティリスはニヤリと笑みを浮かべ、オークジェネラルに向かって手招きをした。
「楽しませてくれるわよね、豚野郎?」
『BULULAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
ティリスの言葉が分かったのか──いや、意味は理解できていないだろうが、おそらくニュアンスで馬鹿にされたことが分かったオークジェネラルは今までにないぐらい大きな雄叫びを上げた。
それは周囲の壁に小さいながらもひびを入れるほどだった。
さて、こんな相手にティリスはどう立ち向かうだろうか?
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