7-10 死んだ社畜はギルドマスターの過去を聞く
「というわけで、俺たちの事情はこんな感じです」
とりあえず、俺たちの事情はすべて告げた。
これ以上言うことは何もないだろう。
向こうも同じことを思ったようで、笑顔で頷いていた。
「君たちの為人はわかった。リクール王国王都冒険者ギルドのギルドマスターとして君たちの冒険者登録を認めよう」
「ありがとうございます」
ガルドさんの言葉に俺は頷いた。
多少の問題はあったが、意外と簡単に登録が済んでよかった──と思っていたのだが……
「あとで登録用紙に記入事項を書いてくださいね? 一応規則ですから」
「……はい」
流石にそう簡単に終わらなかった。
まあ、いくらギルドマスターの言葉だからと言って、何の契約もなしに登録できるはずはないな。
ウィズさんの言葉に俺は頷くしかなかった。
「しかし、ここで一つ問題があるんだが……」
「なんですか?」
ガルドさんが顎に手を当て、考え込むような素振りを見せる。
登録も無事に済みそうなこの状況で何か心配になるようなことはあるだろうか?
よくわからず、俺は首を傾げてしまう。
そんな俺にガルドさんが説明してくれる。
「君たちの冒険者のランクをどうするべきか、だよ」
「ランクですか? 普通は一番下ですよね?」
ガルドさんの言葉に俺は答える。
別にガルドさんの悩んでいることは理解できないわけではない。
俺たちは明らかに新人にはあるまじき──いや、それどころかベテラン冒険者にすら匹敵するレベルの実力を持っているのだ。
いや、俺だけで言うならば、ベテラン冒険者すらも超えている可能性がある。
流石に全員に勝てるとは思っていないが、王都内の冒険者の中では五指に入るのではないだろうか?
実際にどのような冒険者がいるのか知らないので、確定ではないが……
そんなことを考えていると、ガルドさんが話を続ける。
「本来ならば、新人はGランクから始めることになる。ある程度の実力を持った者の推薦と実技試験で上位のランクから始めることが出来るが、それでも今までEランクまでしかいなかったな」
「へぇ……そうなんですか?」
「ちなみに、Eランクから始めたのはここ数十年でアレン先輩だけだ」
「マジですか? というか、ガルドさんもそれぐらいの実力はあったのでは?」
アレンについての話を聞きながら、俺は気になることを聞いた。
目の前の男の実力はアレンたちほどではないが、少なくともエリザベスやクリスよりも実力はあるはずだ。
俺でもタイマンで戦った場合には確実に勝てるとは言えない。
むしろ、経験の差から勝率は負けてしまうのではないだろうか?
そんな俺の言葉にガルドさんが口をあけて笑う。
「はははっ、それは買い被りすぎだ。俺はGランクからのスタートだったぞ」
「そうなんですか?」
ガルドさんの言葉に俺は少し驚いてしまった。
別に登録時点で実力がなくとも、経験を積んでいくうちに実力をつけて大成することはおかしくない。
だが、それでも大成するような人間は最初から才能を持っている奴の方が多いはずだ。
だからこそ、ガルドさんは最初から実力があると思っていたのだが……
そんな俺にガルドさんは昔を思い出すように語り始めた。
「俺は登録してから2年かかって、ようやくFランクに上がったんだ。実力のある新人でなくとも1年とかからず上がれるはずのFランクに、な?」
「……それは信じられないんですけど?」
「信じられないかもしれないが、事実だ」
「……それなのに、どうしてAランクにまで上がれたんですか? そんな実力の人間が成れるほど、Aランクというのは甘いものだとは思わないですが……」
ガルドさんの言葉を聞き、俺は思わずそんなことを聞いてしまった。
本人に対して失礼なことを聞いてしまったかもしれないが、気になるのも事実である。
現にシリウスたちも俺たちの会話を真剣に聞いている。
そんな様子に気月したのか、ガルドさんが軽く笑って説明を始めた。
「もちろん、アレン先輩たちが助言してくれたからさ」
「助言、ですか?」
予想外の言葉に俺は思わず繰り返してしまった。
あの脳筋が後輩に助言なんかできるのだろうか?
ルシフェルならわからないでもないが、頭まで筋肉で出来ているであろうアレンとリオンにはそんなことが出来るとは思わないんだが……
現に俺の訓練は基本的に実践訓練だったし……
「といっても、今考えると本当に簡単な事だったけどね。普段からのトレーニングによる体のつくり方とか実際の戦闘での動き方とかかな?」
「……たしかに特別な事ではないですね。というか、それでAランクになれるとはとても思えないんですが……」
ガルドさんの話に俺は思わずそんなことを言ってしまった。
だって、そうだろう。
確かに大事な事ではあるが、決して特別な事ではない。
そんなことだけで、Aランクという領域に到達できるとは思わないんだが……
そんな俺の反応を見て、ガルドさんは首を振る。
「いや、そんなことはないさ」
「え?」
「たしかに基本的な事ではあるが、これを怠るような人間は冒険者としては大成できないんだよ」
「……それはわかりますけど」
俺だって、それが大事な事なのは十分に理解している。
だからこそ疑問に感じているのだ。
怪訝そうな表情を浮かべる俺にガルドさんは説明を続けた。
「君たちはそういう基本的な事をしっかりとしているからわからないだろう」
「……そうですか?」
「基本的にできない人間というのは戦闘に必要な【心技体】のどれかが足りないことが多いんだ。これはわかるかい?」
「まあ、そうですね」
前世における武道も同じような考え方だったはずだ。
あれもたしか【心技体】を大事にしていた筈だが……
「私は新人時代は体格がそこまでよくなかったし、体を動かすのもそこまで得意ではなかった」
「……今の姿からはとても想像できませんね。というか、それなら魔法を使う後衛とかの方が良いと思いますけど?」
「ちなみに魔力は人間にしてもかなり低かった。アレン先輩並みだから、【身体強化】と簡単な魔法しか使えなかった」
「……それは」
何と言えばいいかわからなかった。
これについては何を言っても、嫌味にしかならない気がする。
俺は両方を持っているからだ。
そんな俺の感情に気付いたのか、ガルドさんは話を続ける。
「そんな私だから冒険者として大して活躍することはできなかった。すると自然と気持ちが落ち着いてくるわけだ」
「技と体がないから、心も無くなってきたわけですね」
「ああ、そういうことだ。だが、そんな私にアレン先輩は助言してくれたんだ」
「何をですか?」
思わず気になってしまった。
何もなかったガルドさんをここまで立派に大成させたアレンの言葉が非常に気になる。
あの脳筋にそんな能力があるとは思っていなかったので、本気で知りたくなってしまった。
そんな俺たちの様子にガルドさんは自信満々に答えた。
「それはもちろん「まずは体を鍛えろ。そうすれば、技も心も後からついてくる」だ」
「「「「は?」」」」
ガルドさんの言葉に俺、シリウス、レヴィア、リュコの四人から呆けた声が出てしまった。
それはそうだろう。
ガルドさんがあそこまで自信満々に話すのだからさぞすごいことを言ったのだと思っていたが、出てきたのは相変わらずの脳筋発現。
やはりどこにいてもアレンはアレンだったのだ。
期待して損した。
そんな俺たちの反応とは裏腹に──
「「うんうん、わかる」」
──うちの脳筋二人はなぜか頷いていた。
なんでわかるんだろうか?
脳筋は脳筋に通ずるということだろうか?
とりあえず、俺にはわからないことがよくわかった。
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