7-8 死んだ社畜は自身の扱いに不満を感じる
(コンコン)
「入れ」
扉がノックされ、ガルドさんが返事をする。
荒くれものの多い冒険者ギルドでこういう礼儀がしっかりしていることに俺は驚いた。
いや、貴族も登録しているからこそ、こういうところをしっかりしているのだろうか?
まあ、どちらにしろ驚きではあった。
そして、返事を受け、扉が開かれた。
現れたのは目も体も細い一人の男性とシリウスたちだった。
「失礼します。お客様のお友達をお連れしました」
「おう、すまんな。こんな雑用を押し付けちまって」
男性の言葉にガルドさんが苦笑で答える。
どうやら本当に申し訳なく思っているようだった。
どうして、そんな風に考えているのだろうか?
「いえいえ。私も一ギルド職員ですから、ギルドマスターの命令であれば従うのが当然ですよ」
「だが、本来この程度の事ならお前じゃなくても事足りていた筈なんだよ。それをどいつもこいつも「怖い」とか言いやがって……」
「それも仕方のない事なんじゃないですか?」
「まあ、そうなんだが……」
二人は会話をしながら、ちらちらとこちらを見てきた。
なんだ?
俺が悪いと言いたいのか?
もしかして、さっきの俺の戦闘のせいでほとんどの人がシリウスたちに話しかけることを怖がってしまったのか?
報復を恐れて?
「……それはすみませんでした」
俺は思わず謝ってしまった。
たしかにそれは俺が悪いかもしれない。
いくらムカついたとはいえ、ここまで恐怖を抱かせるのは間違っていたかもしれない。
今後の冒険者としての活動に支障をきたしてしまう可能性があるからだ。
いくら強くたって、俺はまだ新人なのだ。
先輩から学ぶべき点はまだ残っているはずなのだ。
それなのに、初っ端でこんなことになってしまったのはまずい。
シリウスたちにも迷惑をかけてしまうことになってしまったわけだ。
「まあ、気にするな。そもそもお前さんの実力を把握できなかったあいつらが悪いし、新人相手に威張ろうとした奴が悪いんだよ」
「ええ、そうですね。前々から素行の悪い人たちでしたから、今回の件でペナルティを与えましたよ」
「はぁ……そうですか」
なんか申し訳ない気持ちになってしまった。
あの時は衝動的に行動してしまったので、冷静に今となっては後悔してしまっているのだ。
素直に受け止めることが出来ない。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はこのギルドの職員でウィズと申します」
「ご丁寧にどうも。俺はグレイン=カルヴァドスと言います」
「カルヴァドス? もしや、アレン=カルヴァドス男爵の?」
「次男ですね。第二夫人の息子ですが……」
「なるほど。道理であれほど強いわけだ」
自己紹介を終え、俺の回答にウィズさんが驚く。
だが、その驚き方は失礼ではないだろうか?
俺がアレンの息子だからあれほど強い、と言っているようなものだぞ?
人によってはぐれてしまうような言い方だろう。
そんなことを考えていると、ガルドさんが会話に入ってくる。
「しかも、その第二夫人があのエリザベス先輩だぞ? 近接戦闘と魔法のサラブレッドというわけだ」
「ほう、それは……」
ガルドさんの言葉にウィズさんが驚きに目を見開く。
といっても、少し開いていただけだが、それだけで驚いていることはよくわかった。
しかし、会話の内容は俺が遺伝のおかげで強いということだ。
まあ、気にしないでおくが……
「ちょっと待ちなさい」
「「ん?」」
と、ここでこの会話に乱入者が入った。
それはアリスだった。
どうして彼女が? そんなことを思っていると、彼女が大声で話し始める。
「グレインが強いのは遺伝のせいじゃないわ。いや、否定はできないけど、基本的にはグレイン自身のせいよ」
……俺のことを庇ってくれているつもりかもしれないが、その言い方だと俺は傷つくぞ?
俺のせい、って……いや、間違ってはいないのかもしれないが……
「お嬢さんは誰かな?」
「私はアリス=カルヴァドスよ。第一夫人の娘でグレインの姉よ」
「ほう、なるほど……そして、そちらの同じ髪色の可愛らしい女性もグレイン君の?」
「ええ、私の双子の姉よ。シリウス=カルヴァドスよ」
「アリスっ!?」
シリウスが驚く。
生まれてからこのかたずっと一緒にい続けているアリスにまでとうとう女性扱いされ始めたのだ。
驚くのは仕方のない事だ。
まあ、この二年でさらに学院内でもシリウスの人気が高くなってきたからな。
二年前は可愛らしい女の子のような雰囲気だったのが、二年の間になぜか妖艶さを身に付けてしまったシリウス。
本人としては男らしくなろうとしているようだが、どうやら彼には向いていないようだった。
まあ、似合っているのだから、気にしなくていいのではないだろうか?
と、ここでガルドさんがアリスたちの後ろにいた残りのメンバーにも意識を向けた。
「後ろのお嬢さんたちの自己紹介してくれるかな?」
「私はティグリス=ビスト。獣王リオン=ビストの娘よ」
「私はレヴィア=アビスです。魔王ルシフェル=アビスの二番目の娘です」
「なるほど……リオン先輩とルシフェル先輩の娘か。まさかアレン先輩の子供たちと一緒に来るとは思わなかった……いや、仲が良かったから想像しておくべきだったかな?」
二人の自己紹介を聞き、ガルドさんがそんな反応をする。
まあ、普通の人ならばありえないと思うかもしれないが、あの3人のことを知っているのであれば、それぐらいは想像しておくべきだっただろうな。
決してあり得ない話ではないだろうし……
そして、最後にリュコが口を開く。
「私はリュコです。グレイン様に仕えるメイドです」
「ほう……メイド?」
リュコの自己紹介を聞き、ガルドさんがじっと見つめる。
いきなりの視線にリュコがビクッとする。
近くにいたティリスが二人の間に割って入った。
しかし、俺が動くことはなかった。
そのことにアリスが怒りの声を出す。
「ちょっと、グレイン。リュコが下世話な視線を向けられているのに、どうして助けに来ないのよ」
「そうですよ。ギルドマスターも女性にそのような視線を向けるものではないですよ」
アリスの言葉を聞き、ウィズさんもガルドさんに苦言を呈する。
二人の言わんとしていることはわからないでもない。
本来ならば、俺が止めに入らないといけない処だったのかもしれない。
だが、俺はその必要はないと思ったのだ。
なんせ、ガルドさんは別にそういう視線でリュコのことを見ているわけではなかったのだから……
ただただリュコのことを観察していたのだ。
「なるほど……君が噂の【デュアル】か?」
「「「「「えっ!?」」」」」
ガルドさんの言葉にアリスたちからは驚きの声を漏らした。
まさか言い当てられるとは思っていなかったのだろう。
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