第六章 閑話13 ボッチ王子は父親と話す 2
「とりあえず、私が王位に最も近いということでそれを嫌う貴族が多いようなので、ほとぼりが冷めるまで他国に留学をするわけです」
「ふむ……だが、お前ならそんなことをする必要がないと思うが?」
キースの言葉に国王が思わずそんなことを言ってしまう。
キースは第一王子であるだけでなく、勉学や戦闘術、魔法においてかなり優れていると言われている。
さらに物腰が柔らかで、イケメンなうえに親切で優しいので、利害関係なく彼を見ることが出来る人間からは例外なく好かれていたりする。
まあ、それが彼の敵を作るわけだが……
「一から見つけ出すのは難しいですから、少し泳がそうと思っています。第一王子の私がいなくなれば、自分が次期国王にふさわしいと名乗り出てくるでしょうし」
「そんなうまくいくものか? 流石に相手も罠だと思うが……」
「あの一族は自分の権力と贅沢にしか興味のない者たちですよ。チャンスだと思ったら、確実に乗ってくるはずですよ」
「ふむ……」
キースの言葉に国王が少し考え込む。
そんな簡単にいくとは思っていなかったが、キースの言っていることもわからないわけではなかったのだ。
そんな国王に対して、キースは追加で忠告する。
「私がいない間は父上も気を付けてくださいね?」
「何をだ?」
「私がいない間に王位を奪おうとするかもしれませんから……食べ物や飲み物に毒が混入される可能性があるので、気を付けてください」
「おい、怖いことを言うなよ。というか、流石にそこまでは……」
「すると思いますよ? 元々、愛のある結婚ではなかったのですから、貴方を殺すことをためらうとは思いませんけど」
「……」
キースの言葉に反論することが出来なかった。
国王が本当に愛していた妻はキースやシャルロットの母親である死んだ側妃であり、それ以外は貴族とのつながりを持つために政略結婚をした女たちである。
当然、正妃もその一人である。
国王側から愛情はないし、向こうからも愛情があるはずもない。
もしかすると、早く死んで自分の子供に跡を継がせたいと思っているのかもしれない。
政略結婚という愛のない結婚の弊害というべきか、ちょっと悲しくなってしまう国王。
だが、今さらそんなことを嘆いても仕方がない。
「まあ、とりあえず心配はしていませんけど……」
「なんでっ!? 父親が殺されるかもしれないのに、何で心配してくれないんだよっ!」
キースの言葉に思わず国王は反論してしまう。
息子であるキースのことを大事に思っているし、愛していると言っても過言ではないぐらい愛情をもって育ててきたはずである。
それなのに、息子から返ってきたのは無常な言葉だった。
どこで育て方を間違えてしまったのだろうか、思わず心配になる国王。
だが、そんな国王にキースは呆れた表情で告げる。
「そもそもこの王城に大層な毒を持って入れるわけないでしょう? きちんと門番がチェックをしているはずなんですから……」
「う、うむ……そうなのだが……」
「それに入り込んだとしても、王族に使われているのは銀食器──つまり、大半の毒物は盛られた時点でわかるでしょう?」
「……たしかにその通りだな」
キースの指摘に国王も頷く。
たしかに、考えてみると事前に毒物を発見することはさほど難しくはなさそうである。
そう考えると、自分が殺される可能性は低いのではないかと思ってしまう。
そんなことを考えている国王にキースはさらに告げる。
「そもそも、父上を殺すことが出来る毒なんてあるんですか?」
「は?」
キースの言葉に国王は思わず呆けた声を出してしまう。
一体、息子は何を言っているのだろうか?
そんな気持ちが表情に出てしまったわけだ。
だが、父親のそんな顔など気にした様子もなく、キースは話を続ける。
「ベテラン冒険者の人に聞きましたよ? 父上は冒険者時代は貧乏生活をしていたせいで、冒険しながらその辺にあるものをいろいろと食べていたそうですね?」
「なっ!? どこでそれを……」
「最初のころはお腹を壊していたそうですが、そのうち慣れて下すこともなくなったそうですね。ついたあだ名が【鉄の胃袋】」
「……若気の至りだ」
キースの言葉に国王が視線を逸らす。
まさか自分の息子からそんな昔の話を持ち出されるとは思わなかった。
若いからという理由で恥ずかしい事をするべきではなかった、そんな後悔が彼の中を駆けまわる。
「まあ、これで私は安心して留学することが出来ますね」
「……もう少し心配しても罰は当たらんと思うんだが?」
「心配する必要がないのに、そんな無駄なことをすると思います?」
「……」
本当にキースは自分の息子なのだろうか、思わずそんな疑問を感じてしまう。
ここまで実の父親に対して酷い事をどうして言えるのだろうか?
ちょっと性格が心配である。
「それよりも心配はシャルロットの方ですね」
「「それよりも」と言われるのは業腹ではあるが、確かにその通りだな。だが、案外私より安全かもしれんぞ?」
「どういうことですか?」
「もちろん、シャルロットの周りにはグレイン君たちがいるから、そうそう危険が及ぶこともあるまい」
国王は自分の先輩の息子の顔を思い出す。
国王は冒険者時代に世話になったアレンのことを非常に信頼しており、その息子であるグレインに対してもかなり期待している。
いろんな規格外な話を聞き、アレンに似た成長を遂げるのではないかと考えている。
そんな彼がいるのだから、シャルロットの安全は確保されていると思っている。
「たしかにグレイン君の近くにいれば安全でしょうが、グレイン君が一緒に来られない場所とかありますよ? その場合はどうするんですか?」
「たしか彼には姉二人と婚約者が三……いや、四人いただろう? それならば、グレイン君ほどではないだろうが、守ることはできよう」
「えっと……姉は一人ですね。双子の兄と姉のはずです」
「そうなのか? どちらも可愛い女の子だと思ったのだが……」
「グレイン君曰く、本人は気にしているそうなので絶対に言わないようにしてくださいね」
「……うむ、わかった」
キースの言葉に国王は真剣な表情で頷いた。
しょうもない事と思っていたが、キースが本気で念を押してきたので大事だと思ってしまったからだ。
というか、どうしてキースがそこまで念を押してくるのだろうか──国王はそちらの方が気になってしまった。
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