第六章 閑話12 ボッチ王子は父親と話す 1
王城のとある一室、そこで二人の男がテーブルを挟んで向かい合っていた。
一人はこの国の王、そしてもう一人は──
「どうした? お前がいきなり私に話したいと言いに来た時は驚いたぞ?」
「息子が父親と話そうとしているのに、なんという言い草ですか?」
父親の言葉にキースは思わず反論する。
そんな彼の反応に父親である国王は笑みを浮かべる。
「ここ数年、お前と話したことなど数えるほどしかなかっただろう? なら、私の反応の方が正しいと思うが?」
「たしかにそうですね。私は側妃の子供ということで、下手にあなたから好かれていると思われるわけにはいかなかったですからね」
「私にとって、お前は大事な子供の一人なんだがな。むしろ二番目に愛していると言っても過言ではないな」
「一番目ではないんですね?」
「一番はシャルロットに決まっているだろう。息子より娘の方が可愛いのは当たり前じゃないか」
「それ、自信満々に言うことじゃないと思うけど……」
「これは私の信念でもある。今さら変えるつもりはない」
「……そうですか」
国王のはっきりとした宣言に思わずキースはげんなりとした表情を浮かべる。
自分の父親をなさけなく思ったのだろう。
それも仕方のない話だろう。
だが、そんなことはどうでもいいと思ったのか、キースは本題に入った。
「父上、私は卒業をしたら、他国に留学しようと思います。世界を見て回って、自身の見聞を広めようと思っています」
「うむ、別に構わないぞ」
「ありがとうございます」
キース王子の願望はあっさりと許可された。
元々、国王は自身の息子たちに王族であることによる不自由を感じさせないようにしていたので、このような頼みごとを否定することはほとんどなかった。
流石に悪い事をしようとすれば怒っていたのかもしれないが、自身のための向上を反対するほど悪い親ではなかった。
しかし、そんな国王でもキースに聞きたいことがあった。
「だが、本当の理由を教えてくれてもいいんじゃないか? ただ見聞を広めるだけが理由ではないのだろう?」
「……流石は父上ですね。普段はちゃらんぽらんなくせに、的確に相手のことを見抜く目を持ち合わせている」
「それは褒めているのか? どうにも馬鹿にされているような気がするんだが……」
「馬鹿にされていると思っているのなら、普段からちゃんとしてください」
「うむぅ……」
キースの言葉に反論することが出来ない国王。
言われたことが正論であるからだ。
こういう面ではキースの方が国王よりも優れている点であると言える。
だが、一概にキースの方が上に立つ者としてふさわしいと言えるわけではないのだが……
そんな会話の後、真剣な表情でキースが話し始める。
「最近、正妃・第二王子・第三王子のあたりできなくさい噂が聞こえてきまして……」
「噂、とな?」
キースの言葉に国王の表情が変わる。
普段のちゃらんぽらんな表情ではない、国を運営するために真剣になった表情である。
こういうときの彼は非常にまじめである。
普段からそのようにするべきだとは思うが、この時の彼のストレスは大変大きいらしいので、その反動で普段はちゃらんぽらんになっているというのは本人の話である。
果たして本当であるかどうかはわからないが……
「自身の派閥の貴族を集め、たびたび会合をしているそうです。茶会やパーティー程度なら気にしていませんが、流石に何度も集まって会議のようなものをしているとあれば、何か勘ぐってしまうのも仕方がないでしょう」
「ふむ……確かに怪しいな。それで、他に情報は?」
「仕入れた情報では「キースは第一王子とは名ばかりの妾の子供だ」とか「あんな妾のこどもなんかよりも正妃の子供である第二王子、第三王子の方が次期国王にふさわしい」、「キース王子は今すぐ廃嫡するべきだ」などこれ位に近い話をしているそうです」
「……」
「それを取り巻きの貴族たちに伝え、情報を広めていくことによって噂を真実にしようという狙いがあるのかもしれませんね」
「なるほどな」
キースの説明に国王は頷く。
今の説明で十分に納得することが出来たのだろう。
まあ、彼にとっては今更な話だったからでもある。
「ちなみに「あばずれの娘だからシャルロットもあばずれだ」なんて噂もあるそうですよ?」
「なんだとっ!」
キースから告げられた追加情報に国王がキレる。
彼にとって一番大事な娘が馬鹿にされたという噂を聞いて、居ても立っても居られないのだ。
そんな国王の様子にキースはため息をつきながら止める。
「はぁ……気持ちはわかりますけど、落ち着いてください」
「だが、シャルロットがあばずれ扱いされているのだぞ? あんな清らかで聖女のように美しく、妖精のように可愛らしいあの子がそのような扱いを受けることを許せると思うか?」
「……それは流石に言い過ぎでしょう。というか、そんなことを言った人間をどうやって処罰するつもりですか?」
「もちろん、死刑だが?」
「いや、そういうことじゃないですよ。というか、重すぎますよ」
「シャルロットにそんなことを言う人間など生きる価値があるはずもなかろう」
キースの言葉に国王がはっきりと告げる。
その言葉と真剣な表情にキースは本気で心配になったが、流石にここで話をつまずかせるわけにはいかないので放っておくことにする。
「私ですら噂が流れているという情報を聞いただけです。流石にそれだけで捕まえるわけにはいかないでしょう?」
「だが、この国にシャルロットを馬鹿にする人間が存在することが許せない。今すぐ根絶やしにせねば……」
「証拠もなしにそんなことをすれば、あなたの国王としての資質が疑われると思いますが……」
「そんなもの、シャルロットのためなら問題はない」
「いや、問題しかありませんよ……何を言っているんですか……」
国王のことを真剣に心配したキースであった。
流石にここまで親馬鹿だとは思ってもいなかったのだ。
ちょっと本気で大丈夫なのかと心配になり、この男の血が半分流れている自分のことも心配になるキースであった。
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