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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第六章 小さな転生貴族は王立学院に入学する 【学院編1】
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第六章 閑話4 とある屋台の店主は商品を売り込む 1


「でけーな、おい」


 俺はとある建物の前に立っていた。

 そこは王都でも有数の巨大な建物で王城や教会を除けば、王都でも一二を争うぐらいの大きな建物ではないだろうか?

 当然、それぐらいデカい建物であれば、入り口の扉からもかなりの威圧感を感じる。

 用がなければ、絶対に入ろうとは思わないだろう。

 というか、用があっても入ることをためらってしまいそうである。

 だが、残念なことに今回は用があるのだ。

 この建物の主に会わなければならないのだ。


「よし……入るか」


 俺は覚悟を決め、前に進む。

 そして、扉を開いた。


「おお……」


 入った瞬間、俺は思わず驚きの声を漏らしてしまった。

 それはそうだろう。

 扉の向こうの光景が予想以上に凄かったからだ。

 外観からもわかっていたことではあるが、建物の中はかなり広い。

 吹き抜けで二階とつながっていることから、開放感も感じる造りとなっている。

 こういうのは貴族の屋敷とかではたまにあると聞くが、それでもかなり珍しいはずだ。

 とりあえず、貴族ではないこの建物の主からは想像がつかなかった。

 いや、儲けているようだから大半の貴族よりは金を持っていると思うし、こういうことをしてもおかしくはないのかな?

 まあ、とりあえず珍しい光景なのだ。

 そして、そんな広い空間で多くの人間が動き回っていた。

 広いはずの空間が狭いのではないのか、と思うほど小走りに動き回っていた。

 一方向しか見ていないのに、すでに数十人の人間が目の前を通っていた。

 どれだけ素早く動いているのかはそれでわかるだろう。

 そんな風に圧倒されていると、不意に声を掛けられた。


「どうかされましたか?」

「うわっ!?」


 いきなり声をかけられたせいで俺は驚きの声を出してしまった。

 少し大きすぎたせいか、周囲から視線を向けられる。

 決して迷惑そうではないのだが、なんか変な興味を持たれていそうな目を向けられている気がして、少し居心地が悪かった。

 まあ、興味を失ったのか、すぐに視線を外してくれたのでよかったが……

 ようやく俺は声の主に意識を向けることが出来た。

 そこにいたのは一人の女性だった。

 年のころは大体20代前半だろうか、眼鏡をかけた少し大人しそうな雰囲気の女性だった。

 この人だったら緊張せずに話すことはできるかな、と思わず思ってしまった。

 しかし、すぐにその考えを心の中で訂正することになる。


「っ!?」

「?」


 驚き、目線を逸らしてしまった。

 そんな俺の反応に女性が首を傾げる。

 どうして俺がそんな動きをしたのかわからないからだろう。

 だが、俺はその理由を告げることが出来なかった。

 それをすれば、彼女からの信頼を築くことがほぼ不可能になってしまうからだ。

 とりあえず、今見た光景は記憶の奥底に封印しておこう。

 そして、できるかぎり彼女の眼だけを見て……


「え、えっと……会いたい人がいまして……」

「会いたい人、ですか? どなたでしょうか?」


 俺の説明に女性が素直に聞き返してくれる。

 こんな怪しい説明にもしっかりと答えてくれるなんて、従業員の教育が徹底されているようだ。

 とりあえず、彼女に完璧な対応をされれば、俺の無様が際立って恥ずかしくなってしまう。

 うん、いったん落ち着こう。

 俺は一度深呼吸をし、彼女の質問に答えた。


「モスコさんに会いに来ました」

「えっ!? 会頭にですか?」


 俺の言葉に今度は彼女が驚く番だった。

 まあ、それは仕方のない事だろう。

 この建物は【ミュール商会】──王都でも一二を争うぐらいの大商会であり、俺が合おうとしているのはそのトップである。

 いきなり見知らぬ男が現れて「会いに来た」と言っても、信じられないのが当然の反応である。

 彼女は怪訝そうな表情で俺に問いかけてくる。


「会頭は忙しい方なのですが、事前にご連絡は頂いていますか?」

「いや、してないな」

「……会頭のお知り合いですか?」

「いや、初めて会う」

「…………」


 俺の返答に彼女からの視線が鋭くなっていく。

 うん、確かに今の返答は怪しさ全開である。

 これだけの大商会のトップで、巷でも人格者と噂になるほど有名な会頭なのだから、従業員からの信頼は厚いはずだ。

 そんな会頭に会いに来た怪しい男──鋭い視線を向けない方がおかしい。

 だが、流石は大手の商会の従業員、怪しみながらもしっかりと話を聞こうとしてくれる。


「一体、どのような御用でしょうか?」

「とあるものを商品にしてもらおうと交渉しに来た」

「商品、ですか? どのようなものでしょう?」

「流石に一従業員に教えるわけにはいかない。これでも俺が何年もかけて発明したものだからな」

「……なるほど。ですが、何もわからない状態で怪しい人を会頭に会わせるわけにはいかないです」

「まあ、そうだろうな」


 女性の言葉に俺は納得する。

 俺が彼女の立場でも、こんな怪しい男を会頭に会わせようとは思わないだろう。

 うん、しっかりと教育されているな。

 さて、どうしたら会うことが出来るか……


「あっ」

「……どうしましたか?」

「そういや、ここには紹介されてきたんだ」

「紹介、ですか?」


 俺の言葉に彼女は首を傾げる。

 誰に紹介されたんだろうか、完全に疑問に思っている顔である。

 俺の格好から会頭を紹介してくれるような知り合いがいるように見えないのだろう。

 仕方がないことかもしれないが、その視線はかなりショックである。

 事実であるから、否定することはできないが……

 とりあえず、紹介者を伝えよう。


「グレインという少年だ」

「っ!? 少しお待ちを……」


 俺の言葉を聞いた瞬間、女性の目が今までにないぐらい驚きで見開かれた。

 そして、すぐさま踵を返して奥の方に消えていった。

 そんな彼女の突然の行動に俺は取り残され、茫然と立ち尽くしてしまった。

 あんな大人しそうな雰囲気の女性がものすごく取り乱していたからだ。

 そんな彼女の動きを見て、俺は思わずこんな感想を漏らしてしまった。


「一体、何者なんだよ……グレイン君よぉ」


 自分はとんでもない人と知り合いになってしまったのではないか、そんな心配をちょっとどころではないぐらい感じてしまった。






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