第六章 閑話1 親父たちの飲み会1
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「おい、聞いたぞ? グレインが負けたそうじゃねえか」
「しかも、シリウス君たちが倒したみたいですね? 正直、信じられない処ですが……」
「どうやら事実のようだ。私も学長から聞いた時はとても驚いたよ」
リオンとルシフェルからの言葉に俺はそう答えた。
現在、俺たちは三人で【フォアローゼス】に飲みに来ていた。
定期的な情報交換の場を兼ねての飲み会である。
その程度なら屋敷で済ませればいいと思うかもしれないが、流石に嫁や子供のいる場所でそのようなことをするのは気が引ける。
別に3人とも酒癖が悪いとかそういうわけではないのだが、全員が全員ザルなのである。
下手したら地方都市レベルにある酒場にある商品の大半を飲み干してしまいかねない酒豪なのだ。
これは子供の教育にもよくないし、嫁たちもあまりいい顔はしない。
というわけで、【フォアローゼス】に飲みに来ているわけだ。
ここは地方都市どころか王都にないような珍しい酒も仕入れているし、こんな田舎にあるのに安価で販売されている。
しかも、酒そのものの風味をしっかりと味わえるので、他の場所で飲むより少ない量で満足できるのだ。
少しでも多く売ることで利益を得ようと混ぜ物を振る舞う店が多くなっているので、珍しい店と言えるだろう。
「しかし、まさかグレインが負けるとは思わなかったな。下手したら、もうそろそろ俺を倒せるんじゃないかと思っていたぐらいなんだが……」
「いや、それは流石にまだまだでしょう。現にリオンはまだ【獣気】を使っていないじゃないですか?」
「まあ、そうなんだが……それでも人間のガキが生身とはいえ獣王の俺と渡り合うようになっているんだぞ? 期待してもおかしくはないだろう?」
「否定はできないですね? グレイン君は魔族顔負けの魔法も使えますから、私たちよりもよっぽど化け物と言えますからね……」
リオンとルシフェルがグレインについてそんな感想を漏らしていた。
我が息子ながら、とんでもない評価を受けているな。
まあ、大体は俺も同じことを考えているが……
しかし、それよりも……
「うちの息子を化け物扱いはやめてくれないか?」
「事実でしょう?」
「否定はできないが、グレインもお前たちに言われたくはないだろう? なんせビストとアビスを治める王たちなんだから……」
「俺たちは種族的なアドバンテージがあるから、この強さは納得できるだろう? だが、グレインはそれがないうえに、まだ子供だ。俺らより異常だろう」
「うぐ……たしかにそうだが……」
「というか、そもそもアレンに一番言われたくないですね」
「この世界で一番の化け物だからな」
「誰が化け物だっ!」
二人のあまりの言い分に俺は思わず反論してしまった。
なんで俺がそんなことを言われなくちゃいけないんだ。
純粋な強さだけなら二人の俺と大差はないはずなのに……
「まあ、今はそんな話は置いておきましょう。とりあえず、グレイン君の件ですよ」
「そうだな。しかし、本当に信じられないんだが……マジなのか?」
「流石に学長がこんな嘘はつかんだろう?」
「まあ、そうでしょうね。あの人は飄々とした性格をしていますが、教育に関してはしっかりとした信念を持っていますからね」
「それ以外の部分では愉快犯的なところもあるがな?」
「俺たちも迷惑をかけられたからな~」
「それでシリウス君たちはどうやって勝ったんですか? うちの娘の話を重点的にお願いします」
「おい、ずるいぞっ! 俺だってティリスの大活躍を聞きてぇんだぞ?」
「けんかはするなよ。しっかりと話してやるから」
二人が言い争いになりそうな雰囲気だったので、俺は慌てて制止した。
そして、二人が落ちついて椅子に座ったのを確認し、俺は学長から聞いた戦いの顛末を一から話した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ティリスの奴、あの年でもう【獣気】を解放できるようになったのか……やるじゃねえか」
「シリウス君との複合魔法ですか……それはぜひ一度見てみたいですね」
話がひと段落すると、二人は各々そんな感想を漏らしていた。
自分の娘の成長を聞き、実際に見てみたいと思っているに違いない。
俺だって同じ気持ちである。
シリウスの魔法技術は素晴らしい進歩をしているみたいだし、アリスの魔法と近接戦闘による複合技術などカルヴァドス領では見ることが出来なかった。
それだけでもものすごく期待できるだろう。
そのうえさらにあのグレインまで倒したんだぞ?
親の贔屓目に見ても、あの二人がグレインに勝つことなど想像していなかった。
それだけに驚きだけでなく、とても嬉しい気持ちになったのだ。
幼いころからグレインが非常に優秀であったため、どこかグレインと比較してシリウスたちを下に見てしまうことがあった。
いや、あの二人は世間一般に言えば、かなり優秀な部類に入るだろう。
しかし、比較対象がグレインでは優秀に見えなくなってしまうのだ。
本当によくやってくれたよ。
「といっても、四人がかりだったみたいだけどな?」
「それでも十分だろう? グレインが相手だぞ?」
「そうですね……おそらくこの国の騎士団が相手でも一小隊では勝てないのではないでしょうか?」
「下手したら騎士団自体が壊滅しかねんぞ?」
「それは流石に無いんじゃ……いや、ありえるか?」
ルシフェルとリオンの仮定に俺は真剣に悩んでしまった。
たしかに今のグレインにはそれほどまでの力があるかもしれない。
【身体強化】を使った近接戦闘はほとんどの騎士相手に完封できるほど強いが、あくまでそれは騎士単体を相手取った場合だ。
騎士団などの多数を相手どる場合に必ず勝てるというわけではない。
だが、ここで出てくるのがグレインの魔法だ。
もうすでに上級魔法すらあっさりと使いこなすことのできるグレインはその時点で多人数を相手に殲滅できるようになっているわけだ。
上級魔法を使うことによって多少の時間がかかってしまうわけだが、それぐらいの時間を稼ぐことはグレインにとってさほど難しい事ではないだろう。
そう考えると、うちの息子は本当に化け物だな。
「本当に俺たちはとんでもない化け物を生み出してしまったようだな」
「ええ、そうですね。才能があるゆえに私たちも期待していろいろと詰め込みすぎてしまったようです」
「本当にどうしてくれるんだよ。うちの息子が世界征服なんか企もうとしたら、やばいじゃないか」
「その時は俺たちで止めればいいだろう?」
「ええ、そうですね。流石に私たち三人がかりなら確実に止められるでしょう」
「その時になって、俺たち三人がかりより強くなっていたら?」
「「……」」
「おい、答えろよ」
「……まあ、流石にそれはないだろう?」
「ええ、そうですね。これでも私は魔族最強で世界でもトップクラスの実力者だと自負していますから……」
「俺もそうだよ。獣人で俺に勝てる奴はまずいないからな。だが……流石に準備はしておいた方が良いか?」
「ええ、そうですね。いざ本気でそんなことを考えたらまずいですし……」
「俺が話し始めたこととはいえ、まさかここまで言われるとはな……」
二人の言いざまに俺は少し息子の教育に関して間違えたかもしれないと感じてしまう。
いくら冗談とはいえ、まさか本気で危険視されるとは思ってもみなかった。
というか、俺も同じように考えてみたら否定することが出来なかった。
本気でうちの息子は危険かもしれない。
「とりあえず、学生の間は大丈夫でしょう。なんせ、あの学長がいるんですから……」
「ああ、そうだな。少なくとも個人の戦闘能力なら俺たちより強い学長がいるんだったら、グレインも抑えてくれるだろう」
「だが、今は学長がグレインにいろいろと教えているみたいだぞ?」
「「……」」
俺の報告に二人が黙ってしまった。
学長がグレインにいろいろと教えていることに危機感をおぼえているのだろう。
二人──いや、俺も含めた三人は学長の実力はしっかりと認めているし、悪い人だとも思っていない。
しかし、どこか愉快犯的なところもあるので、「もしかしたらグレインも……」なんてことも否定できないのだ。
とりあえず……
「……きちんと訓練しておくか」
「……ああ、そうだな」
「……私はグレイン君を抑えられるような魔法を開発しておきます」
俺たち三人は暗い気持ちになりながら、そんなことを決意した。
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