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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第六章 小さな転生貴族は王立学院に入学する 【学院編1】
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6-41 死んだ社畜は兄姉・婚約者と戦う 3


(シュッ)

「っ!?」


 いきなり目の前からティリスの姿が消え、俺は驚いた。

 だが、すぐにそんなことを考えることもできなくなってしまう。


(バキッ)

「がふっ」


 下から顎に強い衝撃を受け、俺は上を向いてしまう。

 正直、首がもげるかと思ってしまうほどの衝撃だった。

 俺はすぐさま顔を正面に戻した。

 しかし……


(シュッ)


 すでに目の前には誰もいなかった。

 おそらく、これはティリスの攻撃なのだろう。

 しかし、まさか視認できないほどの速度だとは思わなかった。

 つまり、彼女の先ほどの行動は身体能力を向上させていると思われる。


(ゾクッ)


 俺の体がいきなり震える。

 そして、即座に体が動き、地面に膝をつく。


(ブンッ)


 そんな俺の頭上をものすごい音を立てて、何かが通り過ぎる。

 視線を向けると、そこにはティリスがいた。

 体勢から彼女が右足を思いっ切り横に振り抜いたようだ。

 風を斬るような音が鳴るなんて、どれほどの速度で振り抜けばそんな音が出るのだろうか?

 これはまずいな。

 直撃すれば、大ダメージは免れないだろう。

 どうにか対処しなければ、そう思ったのだが……


(タッ)

「?」


 なぜかティリスは俺から距離をとった。

 どうしてだ?

 明らかに俺は彼女の動きに対応できなかった。

 攻めるのなら今がチャンスだろう、そう思ったのだが……


「っ!?」

(ブワッ)


 背後からいきなり強い衝撃が襲い掛かってきた。

 俺は斜め前に転がりながら回避した。

 体を起こし、何が起きたのかを確認すると……


「おいおい、まじか……」


 俺が先ほどまでいた場所が一直線に抉れていたのだ。

 そして、その切り口は凍っていた。

 おそらく……


「ちっ、避けられた」


 抉られた直線の発生源に視線を向けると、そこには悔しげな表情を浮かべるアリスの姿があった。

 これは完全に彼女の仕業だろう。

 まさかあの大きな氷の大剣でこんなことが出来るとは……

 流石に弱くなっているとは思わなかったが、こんな芸当ができるなんて考えてなかった。


「まだまだいくわよっ!」

(ズガガガガガッ)


 意気揚々と彼女は大剣を振り回し、どんどん地面が抉られていく。

 だが、ここであることに気が付いた。


「(……これは回避するのは簡単か?)」


 たしかに彼女の攻撃は威力が高いうえに、範囲も広い。

 しかし、予備動作が多く、動きが読みやすいのもまた事実。

 キッチリと彼女の動きを把握していれば、回避することも難しくはない様だ。

 ならば、対処のしようはある。

 俺はそれに気が付くと、アリスの方に駆けだした。

 彼女はそれに気が付くと、俺に向かってさらに大剣を振り回す。

 しかし、彼女の斬撃が俺に当たることはない。

 そして、俺と彼女の距離が約3mにまで近づき、そこから俺が攻撃しようとした。

 その瞬間──


(ガッ)

「アリスの邪魔はさせない」

「ちっ!?」


 俺が攻撃する直前にティリスの邪魔が入った。

 そして、俺の動きが止まった瞬間にアリスは俺から距離をとる。

 なかなかいいチームワークだな。

 速さのティリスと攻撃力のアリス。

 片方だけならば対処するのはそう難しい事ではないが、この二人が揃うことによってちょうどいいバランスになっている。

 お互いがお互いを補い、それぞれの弱点をサポートしているわけだ。

 さて、どう攻めるべきか……


(シュッ)


 再び俺の目の前からティリスの姿が消える。

 だが、俺は先程のように慌てることはしない。


「はあっ」

「同じような攻撃を二度も喰らうと思うなよ」

「っ!?」


 真下に現れたティリスは俺の言葉に驚く。

 だが、勢いのついた彼女は動きを急に止めることは難しい。

 俺が首を傾けると、その横を彼女の蹴りが通り過ぎる。

 その衝撃で俺の頬に傷がついたが、気にすることではない。

 俺はそのまま彼女の顔を鷲掴みにし、地面に叩きつけた。


「かはっ!?」

「ティリスっ!?」


 地面に叩きつけられたティリスを見て、アリスは驚いたような声を上げる。

 仲間を心配する気持ちは大事だが、戦場でその行動はいただけないな。

 戦場というのは一瞬の隙が命取りとなってしまうのだ。

 これはあとで説教をしないといけないかな?

 俺はそんなことを考えながら、アリスに向かって駆けだす。


「くっ!?」


 接近に気が付いた彼女は俺に対応すべく大剣を振り回す。

 だが、重くなった武器を振るうことになって遅くなった攻撃速度など怖くもなんともない。


(ブンッ)

「えっ!?」


 横薙ぎに大剣を振るった瞬間、アリスは驚愕の表情を浮かべる。

 なぜなら、先ほどまで向かって来ていた筈である俺の姿がいきなり消えていたからだ。

 アリスは慌てて周囲を見渡す。

 しかし、俺の姿を発見することはできない。

 なので、俺は彼女に声をかける。


「戦いの最中に敵の姿を見失うのは近接戦闘では悪手だな」

「っ!?」


 俺の声にアリスは驚きながら振り向く。

 向けられた視線は彼女の大剣──その剣先辺りに向けられた。

 俺は大きくなった彼女の大剣の腹の部分に立っているのだ。

 そして、俺は大剣を足場にして駆けだした。


「おらぁっ!」

「きゃっ!?」


 俺の攻撃をアリスは片手で防ごうとするが、片手で防ぐことが出来るほど俺の蹴りは甘くない。

 彼女は10mほど後ろに吹き飛ばされた。

 彼女が吹き飛ばされた先まで地面が抉れていった。

 しかし……


「……俺の方が攻撃力は低いということかな?」


 俺はその抉れた部分を見て、そんな感想を漏らした。

 なんせ、俺の抉った部分はアリスが抉った部分に比べて、明らかに細く浅かった。

 対抗心を持ってやってみたものの、まさかここまで差がつくとは思わなかった。

 ちょっとショックだった。


「アリス、ティリス。準備ができたぞ」

「む?」


 そんなことを考えている俺の耳にシリウスの声が聞こえてきた。

 どうやら時間稼ぎとやらは完了したようだ。

 シリウスの方に視線を向けると、彼は地面に手をつけ、地面に魔力を流していた。

 その横ではレヴィアも同様に地面に魔力を流していた。

 地面に流された二人の魔力は混ざり合い、巨大な魔力の塊になっているのを俺は感じた。

 そして、その魔力の塊は俺の方に向かって動いていき……俺の真下にまで来た瞬間、二人は叫んだ。


「「【氷岩牢獄アイシクル・ロック・ジェイル】」」


 二人が叫んだ瞬間、真下にあった魔力の塊が爆発した。

 いや、正確に言うなら、魔力が解放されたというべきか?

 とりあえず、その魔力が地面からあふれ出し、一気に形どっていったわけだ。

 この魔法は俺に向かってくることは一切なく、俺を中心に半径20mほどだろうか半球状に形成されていく。


「ほう」


 そして、その完成形を見た瞬間、俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまう。

 それはまさに【氷の牢獄】だったからだ。

 まさかこんなものを見れるとはな……






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