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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第六章 小さな転生貴族は王立学院に入学する 【学院編1】
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6-35 死んだ社畜は古代魔道具の話を聞く

今日で平成は最終日ですね。

明日から令和──一体どんな日々になるのか、今からワクワクしますね。


 出されたケーキはチーズケーキのようだった。

 前世でも何度か食べたことがあり、もちろんカレー同様に味は覚えている。

 もちろん、嫌いではなかった。

 一口食べると、俺は踊りだしてしまった。


「うまいっ!」

「そうだろう? やはり君も気に入ってくれたようだ」


 俺の反応にブロドが嬉しそうにそんなことを言う。

 自分と同じ気持ちを共感してくれる人が現れて嬉しいのだろう。

 だが、俺がこれほどの反応を示したのは、ただ美味かったからではない。

 正直なところ、このチーズケーキにはあまり期待していなかった。

 ブロドが褒めていることから流石にまずいとは思わなかったが、前世のものほど美味しいとは思わなかったのだ。

 前世のチーズケーキは文明の進歩により、チーズケーキも初めて作られてからかなりの進歩をしているはずなので、かなりおいしい部類に入るはずだ。

 それと比べればかなり味は落ちると思ったわけだが、予想外に美味しかったのだ。

 まあ、これについてはブロドに話すわけにはいかないのだが……


「この店の料理人の腕がいいんでしょうか?」

「ああ、そうだな。元王宮料理人だった、と噂されているらしい。本当かどうかは知らないが……」

「それはすごい。というか、なんでそんな人がこういう店を?」

「自分の店を持つのが夢だったからじゃないのか? 確かに王宮料理人は料理人としては最高峰の職業ではあるが、やはり自分の店を持ちたいと思うのが料理人の気持ちじゃないのか?」

「なるほど」


 ブロドの言葉に納得する。

 これはあくまで彼が独自に考えていることだろうが、決して間違いではないだろう。

 聞いた感じ、あながち間違っているようにも思えない。

 そんな感じで俺たちはケーキを堪能した。

 そして、ケーキを食べ終わった後、ブロドが話し始める。


「そういえば、今年の入学者にものすごい奴がいるという噂を聞いたことがある。曰く、近接戦闘も魔法もけた違いで、入試の学力テストも満点で通過したという化け物、だそうだ。君のようだな」

「本人を前に【化け物】扱いですか?」

「はははっ、あくまで噂だからな。私が言っているわけじゃないさ。といっても、信憑性は高いとは思っているが……」

「気にしているので、やめてもらえませんか? 最近、人間扱いされていなくて……」

「それは力を持つ者の運命だろう。 諦めた方が良い」

「いや、慰めてくださいよ」


 あっけらかんというブロドの言葉に俺は思わずそんなことを言ってしまった。

 流石に本気では言ってはいないが、それでも多少は嘘でも慰めの言葉は欲しかった。

 この人には化け物扱いされる人間の気持ちがわからないのだろうか?

 と、ここで彼の視線が俺の両腕に行っていることに気が付いた。

 一体、どうしたのだろうか?

 すると、彼が指をさす。


「それ」

「ん?」

「その腕──あと、足首にもついているの、うちの師匠の創った物だろう? おそらく、魔力拘束具だな」

「わかるんですか?」


 彼の言葉に驚いてしまった。

 まさか見ただけで魔道具を言い当てられるとは思わなかったからだ。


「あまりにも精巧な作りをしているからね。こんなものを作れるのは世界でも片手で数えられるほどしかいないだろうし、この国ではおそらくうちの師匠だけだろう」

「そんなにすごいものなんですか?」

「ああ。うちの師匠に創れないのは古代魔道具──【聖遺物(レリック)】と呼ばれる物ぐらいじゃないかな?」

「【聖遺物】ですか?」


 初めて知る言葉が出てきた。

 思わず俺は聞き返してしまった。

 そんな俺の反応にブロドはニヤリと笑い、説明を始めた。


「【聖遺物】というのは、かつて神々によって作られた魔道具と言われており、その一つでこの世界の理を書き換えるほどの効力があると言われている」

「なっ!? そんなものがあるんですか?」

「眉唾物の話ではあるがな」

「まあ、そうでしょうね」


 ブロドの言葉に俺は納得するが、落胆してしまう。

 それほどの効力のある魔道具なら、一度でいいから見てみたいと思ってしまった。

 だが、眉唾物の話なら、見ることは叶わないだろう。

 しかし、そんな俺の様子を見て、彼は話を続ける。


「だが、過去にそんな魔道具が使われた、という史実が残っているぐらいだ」

「そうなんですか?」

「ああ。とある古代の国が一夜にして滅んだ、という話がある。しかも、跡形も残さず、そこにあったのはただただ大きなクレーターだけ、という話だ」

「それが【聖遺物】の力、と」

「一説にはそう伝えられている。一部の歴史学者はその国に怒ったドラゴンが一夜にして滅ぼした、という説を押しているようだが、あまり信憑性が高い説だとは言えないな」

「そうなんですか?」

「ああ。たしかにドラゴンなら一夜にして国を亡ぼす力はあるだろうし、過去にドラゴンに滅ぼされた国の話もある。しかし、まったく塵も残さずに滅ぼすなんて芸当はドラゴンにも不可能だろう」

「なるほど」


 ブロドの説明に納得する。

 確かに彼の言う通りかもしれない。

 だが、この話はリヒトには聞かせられないな。

 プライドの高い彼の事だろうから、「ドラゴンを舐めるな」と言いながら近くの国に迷惑をかけかねない。

 まあ、ここに彼はいないので、心配する必要はないが……


「とりあえず、君がつけているそれは君が思っているよりもすごいものだということだ」

「……そうだったんですね」

「しかし、驚きだな」

「何がです?」

「そんなものを両手両足に着けて、どうして君は平然としているんだ?」

「?」


 ブロドの言葉に首を傾げる。

 彼がどうしてそんなに驚いているのかわからないからだ。

 俺の様子を見て、彼は説明をする。


「私の見立てでは、それは魔力拘束具──それをつけていることで装着者の魔力の循環を阻害するものだ」

「そういえば、そんな話をしていましたね」

「魔力を扱う者にとって、魔力の流れは体の中に血が巡っているのと同じ感覚だと聞く。それを阻害されているのだから、体にかなりの負担をかけていると思うんだが……」

「多少違和感はありますけど、生活を送れないほどではないですよ?」

「そうなのか?」


 俺の言葉にブロドが驚きの表情を浮かべる。

 信じられないものを見るような目だった。

 いや、その表情は失礼じゃない?


「魔法を使うときには多少苦労しますが、それでも使えないわけじゃない。十分に戦闘ができるほどには、ね」

「……君は噂以上の化け物のようだな」

「酷い」

「いや、正しい評価だと思うよ?」

「……そうですか」


 はっきりと宣言され、俺は反論することが出来なかった。

 確かに言われてみれば、おかしいことなのかもしれない。

 こんなものを身に付けて日常生活を送ることは普通の人間にはまず不可能な事なのだろう。

 たしかにこれなら、【化け物】と言われても仕方のないことかもしれない。


「まあ、君に異常がないのなら、それでいいんじゃないかな」

「いや、そういう問題じゃないでしょう?」


 ブロドの言葉に俺は思わず反論する。

 どうしてそんな結論になるのだろうか?

 俺はそう思ったのだが、彼は全く気にした様子もなくコーヒーを飲んでいた。






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