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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第六章 小さな転生貴族は王立学院に入学する 【学院編1】
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6-34 死んだ社畜は意外な人物と再会する


「まさかこの世界でカレーに出会えるとは思わなかったな。いや、正確に言うと、似て非なるものかもしれないけど、それでも俺にとってあれはカレーだな」


 俺はまさかの再会に心躍っていた。

 それまでは学長の言葉を気にしていたのに、自分でも現金に思ってしまう。

 まあ、それほど嬉しい出来事だったのだ。


「この世界には小麦はあるから、パンだけじゃなくて、うどんやラーメンとかも作れるはずだよな? あと、少しはやり始めたら、カレーパンなんかも提案したらどうだろうか?」


 俺はこの世界でもカレーの進歩に想像が膨らんでいく。

 やはり、日本人である限り、カレーの魅力には逆らえない。

 カレーを進歩させることが出来るのであれば、率先してしていきたいと思ってしまう。

 しかし、気になることが……


「……どこかに米はないかな?」


 俺は思わず呟いてしまった。

 カレーは発祥は違えども、日本で発達した料理である。

 そして、日本で発達したということは、自然と日本のソウルフードである米との相性が抜群にいい。

 カレーを食べてしまったせいで、米も食べたくなってしまったのだ。


「カレーがこの世界でもあるんだ。だったら、米もどこかにあるはずだ」


 俺はそう思うことにした。

 まだ出会っていないだけで、世界のどこかに米があると信じようと思ったのだ。

 もしかすると、他にも日本食に似たものもあるかもしれない。

 いつかはいろんなところを巡ってみたいと思っているので、そういうのを探すのもいいかもしれない。

 俺は将来の夢を一つ加えた。

 そんなことを考えると、不意に視界に見知った姿が入った。


「おや、君は……」


 どうやら向こうも気付いたようだ。

 彼も少し驚いたような表情を浮かべ、こちらを見ていた。


「たしか、魔道具店の……」

「ブロドだ。君は以前うちの店に来ていた子だよな?」

「ええ。グレイン=カルヴァドスと申します」

「カルヴァドス──たしか、アビスとビストとの国境を領地としている男爵家だったはず……というか、貴族だったのか?」


 お互いに自己紹介をする。

 そういえば、以前あったときは名乗ってなかったことを思い出したからだ。

 そして、どうやら俺は貴族だとは思われていなかったようだ。


「そんなに貴族っぽくないですかね?」

「……どちらともとれない、というべきかな? まだまだただの子供としか見えず、着ている服から貧乏ではないという情報しか推測できない」

「そうなんですか……」

「以前、出会った二人のお嬢さんなら、良いところの御令嬢であることはすぐに分かったのだが……」

「ああ、なるほど……それと比較すると、僕なんて特徴がないですもんね」


 ブロドの言葉に俺は納得する。

 彼の言う二人の御令嬢──シャルとシリウスの二人と比べれば、俺はあまり貴族らしいとは言えない。

 前世の一般人としての生活が染みついているせいか、あまり貴族として振る舞えているとは思えない。

 そういうところを言われているのだろう。

 まあ、俺も直すつもりはないのだが……


「いや、特徴がないわけではないだろう?」

「そうですか?」

「ああ。正直、君を前にして正気を保っている自身を褒めたいぐらいだ」

「なんでっ!?」


 突然の評価に俺は思わず驚いてしまった。

 そんな俺の様子にブロドはケラケラと笑った。

 そして、左の方を指差した。


「ココであったのも何かの縁だ。少し話をしようじゃないか」

「別に構いませんが……仕事はいいんですか?」

「客はいないだろうから、大丈夫だろう。それよりも君と話したいんだ」

「えっ!?」


 ブロドの言葉に俺は自分の身を守る体勢をとる。

 もちろん、そういう意味ではないことは分かっていたが、こういうセリフを言われたのであればこういう反応をしてしまうのが癖になってしまった。

 そんな俺の様子を見て、ブロドは苦笑する。


「君はつくづく子供らしくないな。まあ、だからこそ話を聞きたいんだがな……」


 そんなことを言いながら、ブロドは歩き始めた。

 ボケをスルーされた俺は少し悲しい気持ちになりながらも、彼の後をついて行った。



◆ ◇  ◆  ◇  ◆


 連れてこられたのはカフェのような店だった。

 全体的に木で覆われた印象で、中にいると何となく落ち着く感じがする。

 王都自体が石を加工して造られた建物ばかりなので、こういう感覚は懐かしい。

 俺たちが席に着くと、店員が注文を取りに来た。

 俺は紅茶、ブロドはコーヒーとなぜかケーキを注文していた。

 俺は思わず彼をじっと見つめてしまった。


「ん? どうした?」

「いえ、ケーキが好きなんですか?」

「ああ。日ごろからストレスをためてしまっているせいか、反動で甘いものを食べたくなってしまうんだよ。といっても、元々甘いものは好きなんだがな?」

「へぇ……意外です」

「よく言われるよ。君は甘いものはどうなんだ? ここは私がもつから、君も注文したらどうだ? ここのケーキは私の一押しだよ」

「……では、僕も同じものを一つ」


 勧められたので、俺もケーキを注文することにした。

 大人の間では社交辞令の心配もあったが、今の俺は只の子供。

 それにブロドは純粋にここのケーキを食べてもらいたいと思っている節があるので、素直に好意を受け取ることにした。

 そして、注文を受けた店員が去った後、俺たちは真正面から向き合った。

 数秒後、ブロドが口を開いた。


「今日は連れはいないのか? みたところ、まだまだ子供のようだが……」

「僕に必要だと思いますか?」

「いや、いらないな。だが、貴族であれば、世間体というものもあるんじゃないのか?」

「うちは辺境の地に住んでいるので、そういうのは気にしないですね」

「……なるほど」


 俺の説明にブロドは納得する。

 かなり素直な性格のようだ。

 魔道具店のダークエルフさん相手にいろいろと文句を言っていた姿からは想像できない。


「しかし、カルヴァドス男爵家の人間はもう王都から去ったと思っていたが……どうして残っているんだ?」

「僕は王立学院に通っているんですよ」

「王立学院だとっ!? 君は一体いくつなんだ?」

「8歳です」

「8歳っ!?」


 俺の説明にブロドが立ち上がりながら驚く。

 声が大きかったせいか、店の中の視線が一瞬こちらを向く。

 それに気づいたブロドは恥ずかしそうに頭を下げる。

 そのまま座ったブロドに俺は事情を説明する。


「王立学院の学長に気に入られまして、無理矢理入学させられました。しかも、特待生として……」

「それはよっぽど優秀なんだな」

「否定はしませんけど、のんびりしたい生活を送りたい身としては非常に迷惑なんですよ」

「……心中察するよ。だが、君の能力でそれは無理な話では?」

「それは言わないでください。気にしているんで……」

「それはすまん。優秀な者は優秀なりに大変なんだな」


 俺の言葉を聞き、すぐに謝ってくれるブロド。

 理由は違えども、大変なことは理解してくれたようだ。

 彼もいろいろと大変なんだろう。

 思わず共感してしまった。







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