6-30 死んだ社畜は状況を聞く
「あら?」
俺たちが会話をしていると、不意にそんな声が聞こえてきた。
視線を向けると、こちらに気付いた様子のシャル王女様の姿があった。
そんな彼女につられて、シリウスたちもこちらを向いていた。
そして、シャル王女様はこちらに駆けよってきた。
「グレイン君にイリア、どうしたの……えっ!? キースお兄様っ!?」
俺たちに声をかけようとしたが、キース王子の存在に気付いて驚くシャル王女様。
彼女にとって予想外の人物だったようだ。
しかし、実の兄弟なのだから、そんなに驚かなくてもいいだろうに……
「やあ、シャル。調子はよさそうだね」
「は、はい。お兄様もお元気そうで……」
「君たちもシャルにいろいろと教えてくれて見ているみたいだね。僕からもお礼を言わせてもらうよ。ありがとう」
「「「「は、はい」」」」
キース王子に声をかけられ、シャル王女様だけでなく、シリウスたちも緊張した様子であった。
そんなに緊張するものなのだろうか?
俺には全く分からない感覚だった。
これはすごい奴と会うことに慣れすぎてしまっているからだろうか?
「それでお兄様はどうしてこんなところに?」
「いや、シャルが頑張っているという話を聞いたから、少し見学させてもらおうと思ったんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。それと、兄としてシャルに近づく者たちを警戒しないといけないからね」
「? なるほど」
キース王子の言葉に納得するシャル王女様。
だが、彼の言葉を聞いた俺は納得することはできなかった。
それはイリアさんも同様だった。
シリウスとレヴィアもだろうか?
素直なシャル王女様と脳筋のアリスとティリスは全く気付いていない様子だったが……
キース王子はシスコンなんだろうか?
「まあ、心配は杞憂だったようだ」
「それはよかったです。あっ、聞いてください、お兄様」
「どうしたんだい?」
「私、少しですが【聖属性】の魔法を使うことができるようになりました」
「おお、それはすごいじゃないか」
シャル王女様の嬉しそうな様子にキース王子が驚きながらも共感していた。
これは純粋な気持ちのようだ。
いや、先ほどのセリフもある意味純粋な気持ちかもしれないが……
あと、気になることがある。
「なあ、レヴィア?」
「なに?」
「シャル王女様は魔法を使えるようになったのか?」
これは純粋に疑問に感じたことだ。
まだ訓練を初めてそこまで時間が経っているわけではない。
それなのに、そんな簡単に魔法を使えるようになるものなのだろうか?
俺だって、訓練を始めてから時間は多少はかかったはずなのだが……
疑問を持った俺にレヴィアが説明してくれる。
「私が補助をしたから、魔力の流れを感じて、魔法を使う感覚を感じてもらうために」
「ああ、そういうことか……」
「一応、魔法を使ったことには変わりないかも」
「たしかにそうだな」
別にシャル王女様は嘘をついているわけではなかった。
補助があるにしろ、魔法を使ったことには変わりないのだから……
「素質はあると思う」
「そうなのか?」
突然のレヴィアの言葉に俺は驚く。
なんせ、レヴィアが認めたのは初めてだったからだ。
まあ、認めていないのも見たことはないが……
「私が魔力の流れを補助したけど、彼女は純粋に受け入れていたわ。今まで魔法を使ったことがないにもかかわらず……」
「ほう……」
「しかも、なんとなくみたいだけど、自分で魔法を発動する感覚を掴んだみたい。鍛えたら、グレイン君ほどにはないにしろシリウス君並にはなれると思う」
「お墨付きだな」
レヴィアの言葉に俺はそんな言葉を発する。
【聖属性】という珍しい魔力を持つシャル王女様だからこそ、ある程度は魔法を使えた方が良いと思っていた。
しかし、まさかそこまで才能があるとは思わなかった。
そのレベルならば、俺が教える必要はなかったようだな。
むしろ、レヴィアとシリウスでも過剰戦力かもしれない。
一度受け入れてしまったものだから、今さら反対するようなことはしないが……
「ただ気を付けないといけないと思う」
「何がだ?」
レヴィアの表情が真剣なものに変わった。
俺はそんな彼女の言葉に思わず聞き返す。
「才能がありすぎるせいで、自分が思ったよりも強くなってしまうみたい」
「ん? どういうことだ?」
彼女の言葉に俺は首を傾げる。
言っている意味がよくわからなかったからだ。
そんな俺の反応に彼女は一から説明してくれる。
「彼女は魔法を使う才能はたしかにある。だけど、なまじうまく使うことが出来るせいで、制御がうまくできないの」
「制御ができない?」
「さっきは私が魔力の流れをできる限り抑えていたからそこまで威力は出なかったけど、下手に自分で魔力の流れを調整するようになったら自分が思った以上の威力の魔法を使うことになる可能性がある」
「……なるほど」
ようやく彼女の言わんとすることが理解できた。
才能があるがゆえに、制御できないほど強力なものになってしまうということだ。
たしかにそれは危険かもしれない。
しかし、疑問に思うことが一つ。
「でも、俺はそんな苦労はしなかったけど?」
俺は自分で魔力の訓練をしていたが、そのようなことで苦労することはなかった。
最初からきちんと調節できていた気がする。
才能云々の話だったら、俺もそれに当てはまる気がするが?
そんな俺にレヴィアは呆れたような表情を浮かべる。
「グレイン君は魔力制御が元々上手だったから心配はなかった。だからこそ、簡単にできていたの」
「そういうものなのか?」
「ええ。出会った時から魔法に秀でる魔族にもそうそう居ないレベルの魔力制御だったわ。思わず告白してしまうほどには、ね」
「ふむ……」
どうやら俺とシャル王女様は同じ才能云々の話でも、根本から違うようだ。
しかし、それは大丈夫なのだろうか?
無意識に威力が高まるということは、かなり危険な気がする。
そんな俺の心配に気付いたのか、レヴィアが答える。
「魔法を使おうとする子供にこういう子はたまにいるわ」
「そうなのか?」
「だからこそ、そんな子のための訓練法もあるの。それを使えば、威力を抑えることは可能になるはず」
「なら、心配はないな」
どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。
レヴィアがそういうのであれば、きっとうまくいくはずだ。
俺は安心し、視線をシャル王女様の方に向ける。
そこには嬉しそうな表情のシャル王女の話を聞くキース王子の姿があった。
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