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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第六章 小さな転生貴族は王立学院に入学する 【学院編1】
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6-23 死んだ社畜は姉の姉御肌を感じる


「──というわけで、シャル王女とお茶会をして欲しいんだ」

「何が、「というわけ」なの? 急にそんなことを決めてこないでよ」


 夕食後、俺がシリウスたちに今日の話を伝えると、シリウスからそんな返事が返ってきた。

 ティリスとレヴィアも同じことを考えているような表情だ。

 ただ、アリスだけはなんとなく別のことを考えているようで……


「グレインにとって、私は貴族の令嬢らしくない女なのね……」

「否定できる?」

「できないわね」


 俺の言葉に一瞬悲しげな表情を浮かべたが、俺が指摘するとあっさりと認めていた。

 うん、本人が自覚できているのなら問題は……ないわけではないな。

 自覚しているのなら、なおさら貴族の令嬢らしくするべきだろう。

 貴族の子供らしい振舞いをしていない俺が言うことではないが……

 そんなことを話していると、シリウスが話しかけてくる。


「なんで僕たちに話が回ってきたの? その前にグレインが友達になればいいじゃないか……」

「下手に俺と親し気にすると、いろいろと勘繰られるからじゃない? なんせ、学長肝いりの特待生なんだから、そんな奴と友達になっても周囲に人は増えないだろう」

「……たしかにそうだね。でも、僕だって男爵家の長男なんだけど……」

「【巨人殺し(ギガントスレイヤー)】の子供なんだから問題はないんじゃない? それに、お呼びなのはシリウス兄さんだけじゃなくて、ティリスとレヴィアもなんだから」

「だったら、余計に場違いな気がするんだけど……」


 俺の説明にシリウスが不安げな声を出す。

 各国の王女様三人の中に男爵家の長男が一人──たしかに場違いだな。


「まあ、兄さんたちはとっかかりなんだよ。王女様の交友関係を広げるための……」

「とっかかり?」


 俺の言葉にシリウスが首を傾げる。

 ティリスとレヴィアも同様に首を傾げている。

 わかっていないようなので、しっかりと説明しよう。


「俺が聞いたところによると、現在一回生で人気を三分割しているのがシリウス兄さんたちなんだ」

「「「ええっ!?」」」


 俺が放った衝撃の事実に三人が驚く。

 おそらく知らなかったのだろう。

 俺だって、学長が面白交じりに話さなかったら、全く知らなかった情報だ。


「まずはティリス。近接戦闘をメインにしている女子生徒から人気が高いみたいだな」

「へぇ……そうなの?」


 俺の説明にティリスが少し嬉しそうな表情をする。

 ちょっと頬を赤らめていた。


「レヴィアはか弱そうな見た目と大人しい性格から、一部の男子生徒から人気があるみたいだよ。怪我をしたときに回復魔法をかけたのが理由みたいだね」

「ええっ!? 私なんかが?」


 俺の説明を聞き、レヴィアが驚く。

 自分に人気があるとは思ってもいなかったのだろう。

 本気で驚いているようだった。


「最後にシリウス兄さんだね。その見目麗しいルックスに困っている人を率先して助ける優しさ、これによって残りの一回生のほとんどの人気を総取りしているみたいだね」

「なんでっ!? なんで僕が?」

「……一部では【女神の生まれ変わり】とか【氷の聖女】なんて呼ばれているみたいだね」

「僕、男だよっ!?」


 俺の追加の説明にシリウスは思わず叫んでしまう。

 自分が一番気にしているところを、ものすごい勢いで傷つけられたからだろう。

 これについては、同情してしまう。

 だが、俺にはどうやって慰めていいのかはわからない。


「たしかに、見た目はどう見ても可愛らしい女の子だからな」

「……私、ときどき女としての魅力で負けていると思うんです」

「いや、だから僕は男だよ?」


 ティリスとレヴィアの言葉にシリウスが文句を言う。

 しかし、二人の言っていることはもっともである。

 正直、弟からの贔屓目を除いても、シリウス兄さんは他のどんな女の子よりもかわいいと思っている。

 もし、何も知らない状態で偶然出会っていたら、思わず口説いてしまうかもしれない。

 それほどまで可愛いのだ。

 同じ家で育ち、半分は同じ血が流れているはずなのに、どこでどう違ったのだろうか?

 というか、アリスなんかは全く同じ血が流れているのに、真逆と言っていい存在だった。

 いや、彼女は別に男扱いされているわけではないので、真逆とは言えないか?


「ちなみに、アリス姉さんは学年問わず【姉御】と呼ばれているみたいだね」

「「「なんでっ!?」」」


 俺の補足に三人が驚愕の表情を浮かべる。

 自分たちの説明を聞いた時よりも驚いている気がする。

 そんな三人に俺はさらに説明を続ける。


「最初は俺にやられて恨みをもった学生がアリス姉さんに絡んだのがきっかけみたいだね。それをあっさりと撃退して、人気が出始めたみたいだ。そういうことが何度もあって実力が認められて、困っている人をかっこよく助けていることから戦闘技術と人徳の両方で一気に人気が爆発したみたいだね」

「私の思うように生きているだけなんだけどね……なんだか、最近は周囲に人が増えているわね」

「ちなみに一回生だけなら三人で分割されているけど、全校生徒で考えるとアリス姉さんが断トツみたいだよ?」

「「「ええっ!?」」」


 俺の説明に三人が驚く。

 俺が言えることではないが、その反応はアリスに対して失礼ではないだろうか?

 まあ、驚かれた本人は気にした様子はないが……


「私としては、あんまり周りをうろつかれるのは気が散るから嫌なんだけどね……でも、追い払うのも気が引けるのよ」

「まあ、嫌がらせとかされているわけじゃないんだから、気にしなくていいんじゃない? それに愛想よくしていたら、いろいろと良い事があるんじゃない?」

「最近、食べきれないほどのお菓子とか使えきれないほどの小物を渡されるんだけど……これは嫌がらせ?」

「……過剰な好意、かな?」


 想像以上の言葉に俺はどう答えればいいのか悩んでしまった。

 学長に聞いた時には話を盛りすぎだと思っていたが、まさかすべて本当だとは思わなかった。

 まさかアリスにココまで人気があるとは思わなかった。

 別にアリスは悪い人間ではないし、人気が出ることがおかしいとは思わない。

 しかし、シリウスやティリス、レヴィアを超えるとは思わなかったのだ。


「まあ、とりあえずそんな人気のあるシリウス兄さんたちと仲良くなれば、自然と周りに人が集まると思っているんだよ」

「……それっていいの?」


 俺の説明にシリウスが心配げに聞いてくる。

 他人の人気にすがってもいいのかと思っているのだろう。

 まあ、普通に考えれば、他人の人気をかすめ取ろうとするのは悪い事だろう。


「別に人気をかすめ取るつもりじゃないから、問題はないんじゃない?」

「そうなの?」

「他の人と話すためのとっかかりを作るためにまずはシリウス兄さんたちと話そうとしているだけなんだよ。とりあえず、困っている人を助けると思って、受け入れてくれない?」

「う~ん……」


 俺の言葉にシリウスは悩む。

 困っているシャル王女様を助けたいと思っているが、自分たちが役に立つのかと思っているのだろう。

 人気の話だって、俺が言っているだけだ。

 果たして本当かどうかも判断がつかないのだろう。

 この情報については完全な事実ではあるが……

 そんな風に悩んでいるとアリスが会話に入ってくる。


「王女様が困っているなら助ければいいじゃない」

「アリス?」

「役に立つかどうかは結果が出ればわかるわ。でも、困って助けを求めているんだから、手を貸さないのは私の主義に反するわ」

「……」


 アリスの言葉にシリウスが黙り込んでしまう。

 俺、ティリス、レヴィアも驚きの視線をアリスに向けていた。

 どうして彼女が【姉御】として上級生からも人気があるのか、理解することが出来た。

 こういう男勝りで頼りになる性格が人気の原因なのだろう。

 そして、そんな彼女の言葉を聞いたシリウスは……


「わかったよ。王女様の頼みを引き受けるよ」

「じゃあ、向こうには伝えておくよ」


 シリウスから了承の返事を受けたので、俺は心の中でガッツポーズをした。

 断られたらどうしようかと少し思っていたからだ。







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