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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第六章 小さな転生貴族は王立学院に入学する 【学院編1】
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6-22 死んだ社畜は頼みごとをされる


「そういえば、二人はどうしてここに来たんだ?」


 ふと、俺はそんなことを質問した。

 彼女たちがなぜこんな訓練所に来たのか、まだ聞いていなかったからだ。

 二人は王女様と公爵家令嬢のコンビだ。

 こんな訓練所に来る理由など全く思い浮かばない。

 そんなことをするぐらいなら、将来の国を支えるために勉強をするべきなのだ。


「グレイン君に相談があったのよ」

「俺に相談?」


 俺の質問にイリアさんが答えた。

 その答えに俺は首を傾げてしまった。

 相談されるようなことが全く思いつかないからだ。

 疑問に思う俺にイリアさんが話し始める。


「私たちが入学して、もう3か月経つわね」

「ああ、そうだな」


 イリアさんの言葉に俺は頷く。

 週に一回の特別試験のおかげで俺の曜日間感覚は完璧に近い。

 10回を超えたところなので、3ヶ月というのは間違っていない。

 しかし、それが一体どうしたのだろうか?


「それなのに、シャルの周りには人がいないの」

「ん? そんなこと?」


 予想外の言葉に俺は思わずそんな反応をしてしまった。

 てっきりもっと大きな悩みだと思っていたのだが、その程度の事なのか?


「そんなこととは何よ? シャルにとってはとても大事な事よ?」

「ああ、すまん。予想外の質問だったから、ちょっと驚いてしまった」


 怒るイリアさんに思わず謝罪してしまった。

 怒られる理由には文句を言うつもりはないが、その程度の事と思ったことについてそこまで怒らなくてもいいだろう。


「本来なら、第二王女が入学するということでシャルに注目が集まるはずだったのよ。けれど、グレイン君が入学したせいで、注目がそっちにいっちゃったの」

「それでシャル王女様の方には人が来なくなった、と? それ、俺のせいなのか?」


 なかなか理不尽なことを言われた気がする。

 俺だって、好きで入学したわけではない

. 学長に誘拐され、無理矢理入学させられたのだ。

 まあ、しっかりと別途で試験を受けさせられたので、入学はきちんと認められてはいるが……

 しかし、まさかそんなことで文句を言われるとは思わなかった。


「本来なら、注目が集まった状況下で有能かつ忠義に篤そうな臣下を探そうと思っていたのに……」

「王女様が入学したからと言って集まるような有象無象にそんな人間がいるのか? というか、そういうのって社交界とかでやるべきだと思うんだが……」

「別に集まってくるような人間の中から探すわけではないわ。むしろ、それ以外の人間から探すの」

「そういう奴は権力の下につこうとは思っていなさそうだけど……」

「そういう人だからいいのよ。権力に媚びず、自分の思うように行動する人間は信頼できるでしょ?」

「まあ、否定はしない」


 彼女の言わんとしていることは理解できる。

 しかし、そういう人間はそう簡単に見つからないと思う。

 まあ、それ以前の問題で頓挫してしまっているので、今となっては何も言えないわけだが……


「社交界はたしかに交流を図る場でもあるけど、あくまであれは両親や家のつながりを重視しているの。だから、仲良くなるにしても基本的には元々同じ派閥の子だけよ」

「まあ、そういうもんか。俺は行ったことがないから、わからなかったよ」

「グレイン君も貴族よね? じゃあ、きちんとそういうのには参加した方が良いと思うわよ?」

「うちは国境沿いにある領地だから、そういう場には遠くて行けないんだよ」

「それだけじゃないでしょ?」

「面倒」


 聞き返され、はっきりと答えてしまう。

 まあ、これについては隠すつもりは毛頭ない。

 別に俺は権力などに素直に従うつもりもないので、そういう場に参加する理由がないのだ。


「面倒、って……貴族らしくないわね」

「うちの父親がそのタイプだからね? 遺伝だよ」

「遺伝じゃないと思うわ……」


 罪をアレンにかぶせようとしたが、あっさりとそれは否定された。

 まあ、納得されるとは思っていなかったが……


「俺については置いておこう。とりあえず、今はシャル王女様のボッチ問題についてだ」

「ええ、そうね。流石に一国の王女が学院でぼっちというのは問題があるわね」

「二人とも……ぼっち、って言わないでくれる?」


 俺らの会話を聞いてシャル王女様が何か言っているが、俺たちは無視していた。

 今はそれよりも大事なことがあるのだ。


「というか、それこそなんで俺に聞いてきたんだ? この学院での人付き合いなんて、家族か学長ぐらいしかないぞ?」

「その家族を紹介してもらいたいのよ」

「は?」


 イリアさんの言葉に俺は思わず呆けた声を出してしまう。

 全く予想外だったからだ。


「アリス姉さんか? 同じ女かもしれないけど、貴族の令嬢が近づいていい女じゃないぞ、あれは? 粗野で乱暴だから、それが移ったら大変だと思うが……」

「アリスさんじゃないわ。いや、アリスさんもできたらお近づきになりたいけど……私が思っているのはシリウス君の方よ」

「シリウス兄さんを?」


 イリアさんの言葉に俺は首を傾げる。

 たしかにアリス姉さんと比較するとましかもしれないが、シリウス兄さんも別の意味で心配に思ってしまう。


「そうよ。シリウス君は物腰も丁寧だし、権力に媚びることもない。それに女の子みたいにかわいいから、シャルも気兼ねなく話せると思うの」

「……それ、シリウス兄さんに言わない方が良いと思うよ? 気にしているから……」


 イリアさんの言葉に思わずそんなことを言ってしまう。

 彼女が言った理由の一つはシリウスが最も気にしていることだからだ。

 本来なら、【男の子】と言うのは年を経るごとに【男】に磨きをかけていくものだ。

 それなのに、なぜかシリウスは年を経るごとに可愛らしくなってしまっている。

 なぜだかはわからない。

 しかし、似合っているということだけは言っておこう。


「まあ、今のは理由の半分よ。とりあえず、権力云々に関係なくシャルと話してくれるような人を探しているのよ」

「……なるほどな。たしかにそれだったら、シリウス兄さんは適任だな」

「それと、他にもビストとアビスの王女様とも交流を深めたいと思っているの」

「ティリスとレヴィアか?」


 イリアさんの言葉に聞き返す。

 だが、彼女がどうして二人の名前を上げたのかはすぐに理解できた。


「ええ。彼女たちはシャルと同じような立場だから、いい友達になれると思うわ」

「そうかもしれないな」

「でも、少し心配があるの……彼女たちはなぜか私とはあまり仲が良くならなかったの。どうしてかしら?」

「……」


 イリアさんの言葉に俺は答えることが出来なかった。

 理由はもちろんわからないからだ。

 なぜか、あの二人はイリアさんに対してどこか敵対心を持っているように思える。

 といっても、倒そうとか思っているような雰囲気ではない。

 ただただ天敵を見るような目で見ている感じがするのだ。

 一体、どうしてだろうか?


「とりあえず、その三人……いや、アリスさんも含めて4人を紹介してもらえるかしら? 一回生の中心人物と交流をすれば、自然と人が集まってくると思うわ」

「わかった。とりあえず、それは日を改めてでいいか?」

「ええ、もちろんよ。じゃあ、次の休みはどうかしら? バランタイン伯爵の屋敷に向かえばいいかしら?」

「ああ、それで構わないよ。とりあえず、シリウス兄さんと爺ちゃんに伝えておくよ」


 イリアさんの提案に俺は頷いた。

 そんな俺の返事にイリアさんもシャル王女も嬉しそうな表情を浮かべた。

 本当に心配していたのだろう。

 流石にそんな彼女たちの頼みを断るほど、俺はひねくれてはいないようだ。









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