6-21 死んだ社畜は新たな魔法を禁止する
「シャルロット王女様? 何をなさっているんですか?」
俺は思わずそう質問してしまった。
なんせ、いつの間にか訓練所の外壁が破壊されてしまっていたからだ。
訓練所は学生たちが武器や魔法を使って戦闘訓練を行ったりする場所なので、当然外壁はかなり強固に作られている。
俺はそう苦労せずに破壊することはできるが、普通の学生ならば壊そうと思ってもなかなか壊せないはずだ。
それなのに、この王女様はあっさりと壊してしまったようで……
「ぐ、グレイン君が……」
「俺のせいですか?」
「ち、違うわ」
「じゃあ、なんですか?」
一瞬、俺のせいにされるかと思ったがそうではないようだ。
おそらく壊したことへの罪悪感のせいでうまく言葉を出せなかったのだろう。
これは俺が悪いな。
とりあえず、落ち着こう。
「グレイン君が説明していた通りにやってみたの」
「俺が説明した?」
「複数の魔法の同時発動?」
「あっ!?」
彼女の言葉に俺はようやく自分のしたことを理解した。
おそらく、彼女は先程の俺の魔法の説明を聞き、実践してみたのだろう。
他の学生にはまねできないと思ってむやみに話したせいで、シャルロット王女様が実践してしまったわけだ。
そのせいでこの惨状……たしかにこれは俺のせいかもしれない。
「というか、実戦できたんですか?」
「うん」
あっさりと答えるシャルロット王女様。
いや、これはなかなか難しい技術ですよ?
普通の学生は魔法の同時発動を行うことすら難しいはずだが……
「ふむ……威力は中級魔法クラス……いや、もっと強いな。上級魔法クラスじゃないか……」
「え? グレイン君、どういうこと?」
俺の言葉にイリアさんが驚く。
魔法を使えない彼女は俺が何を言っているのか理解できなかったのだろう。
俺はとりあえず説明をする。
「俺が作ろうとした魔法は初級魔法を少し弱めた状態で複数同時発動をさせ、中級魔法クラスの威力を出そうとしてたんだ」
「ええ、それはわかっているわ」
俺の説明にイリアさんは頷く。
まあ、ここはそう難しい事ではないから、簡単に理解できるか。
「ですが、シャルロット王女様が放った魔法は明らかにその威力を超えていました。下手をしたら、上級魔法に匹敵する威力が出ています」
「え? それって、どういうこと?」
「シャルロット王女様が複数同時発動させたのは初級魔法ではなく、中級魔法ということです」
「本当に?」
俺の言っていることが理解できたのか、イリアさんは怪訝そうな表情で聞き返してきた。
信じることが出来ないのだろう。
俺だって、この目で見ない限りは信じられないと思っている。
「シャルロット王女様」
「はい?」
「もう一度同じことをしてくれませんか?」
「え? わ、わかったわ」
俺の言葉を聞き、シャルロット王女様は右手を的に向ける。
そして、彼女の右手に魔力が集中していき、その周りに棒状の光が幾つも現れた。
俺はそれを見て危ないと感じ、彼女を止める。
「ストップです、王女様」
「……わかったわ」
俺の指示通り、彼女は魔法の発動を中止した。
彼女の魔力の循環が戻り、魔法もきれいさっぱり消え去った。
たしかにあれなら、上級魔法クラスの魔法が出てもおかしくはないな。
「え? なんで止めたの?」
イリアさんが俺の行動を見て、首を傾げていた。
俺が王女様の起こした惨状の原因を突き止めようとしていたのは理解しているようだが、どうして止めてしまったのかがわからなかったようだ。
もちろん、止めたのには理由がある。
「原因が分かったからだ」
「え? まだ発動していないじゃない」
俺の言葉にイリアさんが反論する。
たしかにまだ魔法は発動していなかった。
しかし、あれだけで原因はすぐに判明したのだ。
「現れた魔法を見れば、一目瞭然だよ」
「え? どういうこと?」
「あの棒状の光、一つ一つが中級魔法クラスの威力を持っているたんだ」
「は? あんな小さいものに?」
俺の説明にイリアさんが首を傾げる。
彼女の言わんとしていることはわかる。
中級魔法とは本来、初級魔法よりも効果も範囲も大きく、単体相手に使われる初級魔法とは違い、集団相手に一気にダメージを与えられるものだ。
だからこそ、あんな小さな魔法一つにそこまで威力があると思えなかったのだろう。
「正確に言うと、条件で中級魔法クラスの威力があるということだ」
「条件で?」
「ああ。あの魔法は魔力量的には初級魔法より少し多めだったが、基本的にはそこまで大差はなかった。けれど、貫通力が上がっていたんだ」
「貫通力?」
「普通の魔法は単体の相手に当たった時点で効果が現れるんだ。けれど、王女様の魔法はおそらく当たってもそのままの状態で貫通するほど威力が高いみたいだ」
「どうしてそんなことに?」
俺の説明にイリアさんがさらに首を傾げる。
まあ、わからないのは仕方がないかもしれない。
俺はとりあえず、シャルロット王女様にも話を聞く。
「王女様はどんなことを考えながら、魔法を放ちましたか?」
「え? えっと……相手に向かって、勢いよく飛んでいくように?」
「は? どうしてそんなんで貫通力が高くなるのよ?」
シャルロット王女様の言葉にイリアさんが疑問を感じる。
まあ、魔法を使えない彼女にとっては仕方のないことかもしれない。
だが、俺は今の説明ではっきりとわかった。
「勢いよくと考えたせいで、魔法の速度が上がったんだよ。だから、貫通力が上がったわけだ」
「え?」
「そして、貫通力が上がったことによって普通の初級魔法ではありえない威力になった。だからこそ、それが集まってあれほどの爆発が起きたわけだ」
「……なるほど」
ようやくイリアさんも理解してくれたようだ。
まあ、しぶしぶといったところだが……
「しかし、これはあまり使わない方が良いな」
「ええ、そうね」
俺の言葉にイリアさんが賛同してくれる。
これについてはあっさりと受け入れてくれたようだ。
受け入れられないのは、シャルロット王女様だけである。
「えっ、どうして? せっかくうまくいったのに……」
おそらく王女様は俺が難しいと言っていたことを成功させたのだから、褒められると思っていたのだろう。
まあ、それについては十分に評価しているつもりだ。
しかし、だからといってこれを認めるわけにはいかない。
「こんな危ない魔法をホイホイと使わせるわけにはいかないだろう。絶対に死人が出ちまうよ」
「ええ、そうね。速度を上げているということはその分避けにくくなるから、使われたら大変なことになるわ」
「ええ……」
俺たちの言葉に王女様は悔しげな声を漏らす。
せっかくの魔法を使用禁止にされたわけだから、悲嘆するのも仕方のない事だろう。
しかし、魔法の使用者として、危険なものは使わないようにしないといけないのだ。
彼女には諦めてもらおう。
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