2-5 死んだ社畜は父親の甘さ?を知る (改訂)
「意外と大きな村なんだね。男爵領にある村だから、そこまで大きいとは思ってなかったよ」
村を探索して2時間ほど経ち、俺はそんな感想を漏らした。
てっきり1時間もあればすべて見ることができると思ったが、2時間たってもすべてを見ることはできていなかった。
まあ、領主の屋敷の近くにある村だから、必然的に大きくなったのかもしれない。
「他の村を私は知りませんから比較できませんが、大きいのはこの領地の特徴のせいかもしれません」
「特徴?」
彼女の言葉に首を傾げる。
一体、この領地に他とは違うどんな特徴があるのだろうか?
「はい。この領地は人族、魔族、獣人族の三国の境目である領地で、その三国の友好を示すための場所なんです」
「うん、それは本を読んで勉強したよ」
「ここは一応人族の領地ではありますが、三国の協定で別種族の方たちも住民権を簡単に得ることができる場所なんです」
「ああ、そういえばそうだね」
彼女の説明に僕は頷く。
そういえば、そんなことを勉強した気がする。
俺たちが住んでいる人族の国であるリクール王国の首都カルアに他種族が住む場合、その人物が清廉潔白であることを証明することができないと住民権を得ることができないらしい。
もちろん本人がそれを主張しても意味がないし、第三者に評価してもらわないといけないわけだ。
もしその第三者が他種族のことを嫌っている人族の場合、悪い評価をつけられてしまうなんてことがままあるそうだ。
せっかく人族の国に来たのに、住民権を得ることができずにそのままカルアから離れるなんてこともよくあるらしい。
そして、彼女の説明と合わせると……
「王都に住めなかった人たちが流れつく場所になるというわけか……」
「ええ、そういうことです。流石はグレイン様です」
「これぐらいは当然だと思うんだけど……」
リュコは本気で俺のことを褒めてくれているようだが、そんな当たり前のことで褒められても恥ずかしいだけだ。
どれだけ子供だと思われているんだろうか?
まあ、見た目は子供ではあるが……
「といっても、流石に犯罪者とかになってくると本国に送られることになりますね」
「まあ、それは仕方がない話だよね。他国で問題を起こしたら、外交問題とかにもなりかねないしね」
「ええ、そういうことです。といっても、この領地はそれも甘いんですけど……」
「そうなの?」
彼女の言葉に再び聞き返してしまう。
甘いということはこの領地には罪を犯した人がいる可能性があるということだ。
一体、どうしてそんなことに……
「領主様がちょっとした犯罪で本国に送り返されるのがかわいそうだからという理由で規制を緩めたんです」
「父さんのせいか……」
「といっても、あくまで軽犯罪だけですよ? 暴力を振るったとか、万引きをしたとかですね」
「ああ、なるほど……そういう軽犯罪程度で送り返されたら、かわいそうだわ」
「流石に人殺しとかになってくると送り返されますけど……軽犯罪の場合にはそれに合わせた刑罰もきちんとありますよ」
「へぇ……どんなのがあるの?」
どんな罰があるのか少し気になった。
可哀そうだという理由で甘いことを言っている父さんが決めたのだから、そこまで重い刑罰はなさそうだが……
「万引きをしていたものに対しては魔獣駆除の際の囮役ですね」
「……」
「暴力を振るったものに対しては魔獣駆除の際の盾役ですね」
「……」
意外と重い刑罰に俺は言葉を失ってしまった。
比較的魔獣の出現率の高いこの辺りでは魔獣駆除の仕事が大事であり、それに役立てようと軽犯罪者を使うのは間違いではないと思う。
しかし、囮役とか盾役の場合は下手をすれば死んでしまう可能性が一番高い役割だろう。
なんて恐ろしい刑罰を思いつくんだ、あの男は……
この刑罰を作ったときの父親の正気を疑ってしまう。
いや、あの父親のことだ……割と自分では甘めに作っていると思っているのかもしれない。
なんせ一人で上級の魔獣を倒すことができるほど強いし、特級の魔物だってかつては倒したことのある元冒険者だ。
そこまできつい刑罰ではないと考えていてもおかしくはない。
「この刑罰が伝えられた瞬間、犯罪率が激減しました」
「だろうね」
リュコから告げられた事実に俺は即座に納得してしまう。
死と隣り合わせの刑罰を受けるぐらいなら、犯罪をしない方がマシである。
たったそれだけで安住の権利を得ることができるのあれば、多少の不便には目を瞑るのが普通だろう。
少なくとも命と天秤をかけてまで、罪を犯そうという気概を俺は生涯持つことはできないだろう。
まあ、それでも犯罪を犯す奴もいるだろうが……
「じゃあ、さっきの喧嘩とかはどうするの? あれも暴力とかになりそうなものだけど……」
俺はふと先ほどのドライとマティニの喧嘩を思い出す。
あれは怪我人こそ出なかったものの一歩間違えれば大惨事になりかねない状況だった。
そういう意味では犯罪として扱われてもおかしくはないと思うが……
「ああ、あれは大丈夫ですね」
「そうなの?」
だが、あっさりとリュコはそれを否定した。
あれは犯罪にならないのか?
「暴力と言っても、あくまで強者が弱者に対して理不尽に行われる暴力に対してだけ刑罰が適応されます」
「つまり、あの喧嘩は似たような力の持ち主が同意のもとで行っている喧嘩だから、問題はないと?」
「そういうことですね。流石にどちらかが大怪我を負ってしまったり、死んでしまったりしたらそうは言っていられないと思いますが……」
「いや、あれはいずれ死人が出ると思うんだけど?」
彼女の説明に俺は思わず懸念を口に出す。
今までは死人が出ていなかったようだが、今日のようなことがあれば確実に死者が出るはずだ。
何か対策をとるべきだと思うが……
「では、あの二人を犯罪者として取り締まりますか?」
「……流石にそれはやりすぎだと思うな」
「じゃあ、どうしましょうか?」
「ううむ……」
リュコの質問に俺は顎に手を当てて悩む。
一応、本気で考えているのだが、あまりいい対策が思い浮かばない。
犯罪者として扱うのはかわいそうだとは思うが、だからといって何の対策もなくほっぽりだしていいわけではない。
さて、どうするべきか……
「とりあえず、あの二人には注意しておくか?」
「ええ、そうですね。まずはそうした方が良いかと……」
俺は思いついたことをパッと言っただけなのだが、それをリュコが肯定してくれる。
といっても、彼女の方も大したことは思い浮かばなかったのだろう。
効果があるとは思えないのだが、やらないよりはましだとも思うので一応やることにする。
「じゃあ、二人の所に行こうか。たしか【フォアローゼス】っていう店だっけ?」
「ええ、確かそうだったと思います。私も行ったことがないので、大体の場所しかわかりませんが……」
「まあ、大体の場所がわかっているんだったら、すぐに見つかるでしょ? あれだけ目立つ3人がいれば、どこにいても目立つと思うし」
「ああ、たしかにそうですね」
俺の言葉にあっさりとリュコは肯定する。
失礼かもしれないが、あれだけ濃いキャラの三人がいれば場所が分からなくともすぐに見つけられそうだと思う。
そう思った俺たちはとりあえずローゼスさんの店──【フォアローゼス】に向かって歩き出した。




