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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第六章 小さな転生貴族は王立学院に入学する 【学院編1】
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6-16 死んだ社畜は仲間の存在を羨む


「はい、では今回の総評を始めます」


 闘技場の中心に立って、学長がそう言った。

 現在、闘技場の中には多くの学生や生徒がたむろしていた。

 観客席にいた者たちだ。

 先ほどの戦いを観戦したうえで、学長の総評を聞こうと思ったものがやってきたのだ。

 今までの戦いでは、そういう生徒は全く来なかった。

 どうして、今回からこれだけ多くの学生や先生が集まったかというと……


「今回はなかなか惜しいところまでいきました。もしかしたら、グレイン君を初めて倒せていたかもしれなかったですね」

「「「「「うおおおおおおおおっ!」」」」」


 学長の褒め言葉に学生や先生たちが盛り上がる。

 今回集まった原因は学長の言う通りだった。

 今までの戦いは俺の圧倒的な強さに相手が対処できなかったために話すこともほとんどなかったのだが、今回は違った。

 俺が地面に膝をつくまで追い詰めたので、総評で話すことが出来る内容ができたのだ。

 そして、それをここに集まった者たちはぜひ聞きたいと思ったのだ。


「このパーティーは非常にうまい戦い方をしました。近接戦闘の二人がグレイン君を抑えている間に土属性魔法で拘束していましたね。これは戦術としては基本的な事かもしれませんが、中々に使える方法です」


 学長の言葉にその行動を行った三人が照れくさそうにする。

 自分たちの行ったことを褒められたので、嬉しいのだろう。

 だが、それだけのことをやったのだ。

 素直に褒められるべきだろう。


「そして、一番褒めるべきなのは、この三人が実は囮だったということです。いえ、正確に言うと、囮にもなっていたというべきですかね? グレイン君の意識が三人に向いていたせいで、最後の一人が不意を突いて、背後から奇襲をすることができたわけです」


 今度はパーティー全員が照れていた。

 まあ、これはこの4人全員の功績だといえよう。

 これについては、完全に俺も裏を突かれた。

 次にこの方法をされたら対処することはできるが、初見だったということで対処が遅れてしまった。

 そのせいで膝をつくようなへまをしてしまったのだ。

 俺がそんなことを考えていると、学長が相手パーティーの一人──俺の背後に回った女魔法使いに話しかける。


「さて、君はたしかエクレール=アストラ嬢だったね?」

「は、はい。私の名前を憶えてくれていたんですか?」


 学長に名前を呼ばれ、嬉しそうな表情を浮かべる女魔法使い──いや、エクレール先輩。

 学長に名前を呼ばれたからと言って、どうしてそんなに喜ぶのだろうか?

 他の生徒も羨ましそうに見ているのだが、どうしてそんな反応をしているのかわからない。

 まあ、これだけ喜んでいるのだから、口にはしないが……


「もちろんさ。君はたしか珍しい【雷属性】の魔法を自在に操る才女と噂されていたぐらいだ。今回の戦いでその能力を見せてくれたね。あれは全身に雷を帯びさせることで身体能力を上げて背後に回り、グレイン君に触れて、雷を流すことで痺れさせていたんだね?」

「はい、そうです」

「雷属性の魔法ならではの戦い方だな。素晴らしい」


 学長はエクレール先輩を褒めていた。

 あの魔法は彼女の一族に伝わる珍しい属性だったのか。

 俺も別属性で似たようなことはできるが、それについては言わないことにしよう。


「いえ。今までの私なら、このような戦い方はできていなかったでしょう」

「そうなのかい?」


 エクレール先輩の言葉に学長が首を傾げる。

 才女とか呼ばれていたのであれば、先ほどのような芸当ぐらいならできていたと思っていたのだろう。

 そんな学長にエクレール先輩は話し始める。


「私の魔法は魔力の消費が激しいせいで、数を多く使うことはできません。そのせいで、使える状況が限られていたんです」

「ふむ」


 どうやら、彼女の魔法は燃費が悪い様だ。

 自分でも感じるぐらいであれば、相当悪いのだと思う。


「ですが、仲間と戦い方を研究することで、私の魔法が実戦で使えるようになったのです。その成果をとうとう見せることが出来ました」

「ああ、そうだね。見事だったよ」

「ありがとうございます」


 学長の褒め言葉に嬉しそうに頭を下げるエクレール先輩。

 本当に嬉しいのだろう。

 褒められることもだが、自分の力が十分に通用するということが分かったことも喜びの理由なのだろう。

 たしかに、嬉しいかもしれない。


「では、次は魔力消費を減少させる研究をするべきかな?」

「え?」

「それはそうだろう。君の魔法が使えることがわかったのだから、次はその魔法を効率的に使えるようにするべきだ」

「な、なるほど」


 学長の言葉にエクレール先輩が驚く。

 どうやら、俺を追い詰めたことで満足してしまっていたようだ。

 それはよくなかった。

 別に俺を追い詰めることはゴールではないからだ。


「君の魔法がもっと連発できるようになれば、戦い方の幅が広がる。そうすれば、グレイン君に勝つことも実現できるはずさ」

「そ、そうですか?」


 学長の言葉にどう反応すれば悩むエクレール先輩。

 おそらく、彼女は今まであまり自分に自信を持てなったタイプの人間なのだろう。

 だからこそ、学長の言葉にもイマイチ受け入れることが出来なかったのかもしれない。

 しかし、そんな彼女に声をかける者たちが……


「次こそは勝ってやろうぜ」

「そうだな。今回、あれだけやれたんだから、頑張ればいけるんじゃないか?」

「私たちだって頑張るし、エクレールも頑張ろう」

「みんな……」


 仲間たちの言葉にエクレールさんが少し感動しているようだ。

 人が成長するのに大事な要素の一つ──それは共に成長する仲間の存在だ。

 彼女にはそれがいるのだから、今後も成長できるはずだ。

 そういう存在がいる彼女が少し羨ましく思ってしまった。






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