6-14 死んだ社畜は学院の状況を確認する
「魔力を一点ではなく、複数個所に分散させてみたらどうですか? そうすれば、数が増えて効果が増すかも?」
「う~ん、それだと魔力量が分散されて、威力が減るのでは?」
「炎属性の熱を水属性や風属性の魔法に加えることで、さらなる効果を得ることが出来ないですかね?」
「風属性はともかく、水属性では難しくはないですか? 炎属性の効果を奪ってしまう可能性が……」
「やはり、武器には炎属性が一番だろう。一番ダメージが大きくなるはずだ」
「いや、風属性を付与させるのが一番だっ! 動きの補助をすることにより、戦闘をスムーズにしてくれるっ!」
学院の至る所で学生たちが会話をしている。
各々が自分の興味のある分野の研究を行っているのだ。
自分たちの興味のあることなので、学習意欲も高まっているようだ。
俺の提案したグループ学習は成功したと言ってもいいかもしれない。
まあ、始まったばかりなので、まだまだそうだと決めつけるのはそう急すぎるかもしれないが……
「先生、この魔法陣についてなんですが……この部分は必要なんですか?」
「そうですね……一見、効果の面では必要ないよう見えますが、実はこの部分がないと魔法の安定性を損なってしまいますね」
「そうなんですかっ!」
「先生っ! 防具への属性付与について実験していたんですけど、二属性を付与したら盾が壊れてしまいました。どうしてですか?」
「何と何を付与したんですか?」
「炎と氷です」
「……相反しているのですから、壊れるのは当たり前でしょう?」
教師たちも学生からいろいろと質問を受け、しっかりと答えているようだ。
この部分でも成果は上々と言えるだろう。
学生が率先して教師に質問し、それに教師がしっかりと答える。
学生の学習意欲と知識が高まり、教師も学生にしっかりと説明するために知識を得ようとする。
win-winの関係というわけだ。
まあ、まだ全員が同じようにできているわけじゃないが……うまく言っている者を見れば、まだの学生や教師も頑張ろうと思ってくれるだろう。
「うまくいっているみたいだね」
「ああ、そうだな」
シリウスの言葉に俺は頷いた。
現在、俺たちは学院中を回って、俺の提案がどのようになっているのかを確認している所だ。
なぜか、うちのメンツがそれについてきているわけだが……
「自分たちの研究はいいのか?」
俺は思わずそんな質問をしてしまう。
強制ではないが、学院全体のレベルアップのために推奨されているグループ学習。
真面目なシリウスたちがしていないことに違和感があるのだが……
「僕たちはまだ新入生だからね。研究ができるほど、知識もまだないんだよ」
「そうですね。新入生の中では優秀な部類ですが、流石にこれがしたいといったものが思いつかないんです」
俺の質問にシリウスとレヴィアが答える。
たしかに二人の言っていることは理解できた。
研究と言うのはきちんとした知識を持ったうえで、あらゆる結果を推測しないといけない。
そのため、どんな分野でも知識は必要になるわけだ。
現に学院でグループ学習を行っているのは、一番下の学生でも二回生のようだ。
しかも、数は数人ととても少ない。
これは仕方のないことかもしれない。
「私とティリスは先輩から誘われているわ」
「そうなのか?」
アリスの言葉に俺は思わず驚いてしまう。
なんせ、アリスとティリスは魔法をほとんど使うことがなく、近接戦闘をメインにしている。
研究はどちらかというと魔法について研究されていることが多く、現在は近接戦闘について研究しているグループは見つけられなかった。
まあ、いずれはそういう分野でも研究するものが現れるだろう。
しかし、どうして二人が誘われたのか……
「属性付与した武器や防具を使ってほしいと言われたわ。実際に戦闘で使うとどれだけ使えるかを試してほしい、って」
「【巨人殺し】の娘と獣王の娘だから、テスターにぴったりだと言われたわ」
「ああ、なるほど……」
たしかに二人にぴったりの役目である。
俺は思わず納得してしまった。
この二人はあまり勉強が得意ではない。
そのため、自らが研究するのではなく、研究した成果を実戦で確かめる役割がぴったりである。
「そういうグレインは何か研究しないのかい?」
「そうですね。グレイン君ですから、何かいろいろと研究できると思います」
シリウスとレヴィアがそんなことを言ってきた。
そんな二人の言葉にアリスとティリスも視線を向けてきた。
まあ、昔から知っている者たちにとって、俺は新しい事を発見するような人間なんだろう。
その認識は間違いではない。
けれど、俺は首を横に振った。
「俺は研究を行わないよ」
「「「「なんでっ!?」」」」
俺の言葉に四人が驚いた。
それほどまで驚くことだったのだろう。
しかし、俺だってきちんとした理由があるのだ。
「一応、俺の頭の中には「どういう研究が行えるのか」なんてことを考えているよ。その中には以前から研究しているものもあって、実戦でも使えるレベルのものもあるはずだ」
「じゃあ、どうしてそれを研究しないんだい?」
俺の言葉にシリウスが聞いてくる。
実戦で使えるものがあるのならば、研究しない方がおかしいと思っているのだろう。
たしかに、普通に考えればそうだろう。
俺だって、シリウスの立場だったら同じようなことを聞いていた筈だ。
しかし、俺にも理由がある。
「他の人の成果を奪いかねないからだよ」
「え?」
俺の言葉にシリウスが驚きの声を上げる。
他の三人も同様だ。
というか、アリスはまるで俺のことをけなすような視線で見てくる。
これは勘違いをしていないか?
「人の成果を奪う、なんてそんな弟に育てたつもりはないわよ?」
アリスが怒っている理由が分かった。
俺の言葉が悪かったのだろう。
たしかに、「人の研究の成果を奪う」という言い方だと、俺が盗んだように感じるだろう。
だが、俺が言っているのはそういう意味ではない。
そもそも俺は彼女に育てられたつもりもない。
「俺が以前から研究している内容のいくつかは、他の学生が研究している内容と被っている可能性があるんだ。それなのに、僕が研究の成果を発表してしまったら、どうなると思う?」
「え?」
「その学生たちの研究した時間が無駄になってしまうわけだ。いや、研究したという経験は無駄にはならないかもしれないけど、俺に先を越されたことでショックを受けるかもしれない」
「……たしかにそうね」
俺の説明にアリスは頷いた。
どうやら、俺が卑怯なことをしていないことを理解できたのだろう。
というか、彼女なら俺が卑怯なことをしていないことぐらいわかっていただろうに……
「まあ、それに俺は学長から直々に他の学生の手伝いをするように頼まれているんだよ。だから、自分の研究をする暇なんてないさ」
実は、すでに学長に頼まれていた。
現状で学生の研究について、教師がサポートするようになっている。
しかし、教師も完璧ではない。
彼らでは学生の研究をサポートできないこともあるだろう。
そういう場合、俺が出張っていき、いろいろと提案してみるわけだ。
といっても、俺の知識が教師の知識より優れているというわけではない。
あくまで、俺の突飛なアイデアにより、新たな可能性を学生に考えつくようにさせるのだ。
さらに、学生の俺がそういうことをすることによって、教師たちにも意欲を燃やさせるのだ。
「じゃあ、グレインにいろいろと質問すればいいんだね?」
「身近な人だと、質問しやすいね」
「……先に先生に質問した方が良いと思うよ? 俺のはあくまで突飛な提案だから、まずはきちんとした知識を持っている先生に話を聞いた方が良いはずだ」
嬉しそうなシリウスとレヴィアに俺は苦笑しながら告げる。
まあ、二人ならば、俺の手助けがなくとも研究を進めることはできるだろう。
まだ、どんなことをするかは決めていないが……
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