6-13 王立学院に新たな風が吹く
(第三者視点)
「「「「「グループ学習?」」」」」
掲示板にある張り紙の内容に周りの生徒たちが疑問の声を上げる。
あまりの人の多さにほとんどの生徒が張り紙の内容を見ることが出来ないが、その言葉を聞いて首を傾げている。
それほどまでに意味が分からないのだろう。
「おい、早く読んでくれよ」
外側にいた生徒の一人が言った。
それほどまでに内容が気になるのだろう。
この掲示板が使われること自体が滅多にない。
基本的に全学年に知らせるような内容の出来事が少ないため、何かがあってもクラス単位であることが多いので、教師が生徒に伝えることが多いのだ。
しかし、今回は違うようだ。
この掲示板にあるということは、学生全体──いや、学院全体での出来事になるということだ。
そして、言われた通りに一番前の生徒が張り紙の内容を読む。
「このたび、グループ学習を行うことになりました。複数人でグループを組み、そのグループで様々な研究を行ってもらいます。武器の扱い方、魔法、策略など自分たちで研究をしてもらいます。その内容が評価することが出来れば、単位を与えます……なんだと?」
内容を読んでいた生徒が怪訝そうな表情を浮かべる。
いきなり、これはどういうことなのだろうか?
そして、その内容を聞いた周囲の学生たちは考え込んだり、周囲の者に相談したりする。
「これって、一体どういうこと?」
「なんでいきなりこんなことをしだしたんだろう?」
「学長の気まぐれじゃないのか?」
学生が口々に疑問を口に出す。
だが、彼らの口から正解に辿り着く者はいなかった。
この混乱は学生だけにはとどまらなかった。
所変わって、教員室。
そこでは数人の教師が学長に詰め寄っていた。
「これは一体どういうことですかっ! こんなこと、前代未聞ですよ?」
「学院の授業をおろそかにするつもりですか?」
「学生たちにこんなこと、できるわけがないじゃないですか」
教師たちは口々に文句を言っていた。
だが、そんな教師たちの言葉を聞いて、学長は思わず思ったことを漏らしてしまう。
「貴方たちは教師としては駄目ですね」
「「「なんですって?」」」
学長の言葉に文句を言っていた教師たちは目を吊り上げる。
侮辱されたと思っているのだろう。
まあ、教師であることにプライドを持っている人間だからこそ、こういう侮辱に耐えられないのだろう。
だが、そんな彼らに学長は語り掛ける。
「私は今のままではこの学院の生徒たちのレベルが下がっていくと思っています。そのためにも新たな改革をしなければいけないと思ったのですが、やってもいないことを批判する根拠はあるんでしょうか?」
「そんなもの、学生たちが自分の意思で研究をするなんて、どう考えても効果がないに決まっているだろう」
「そうですよ。学生たちはまだまだ知識もなく、研究するには能力も足りない。そんな学生たちが研究をするなんてできるはずがない」
「学生たちは我々が導かなければならないんですよ。だからこそ、これは悪影響だと思いますよ」
学長の説明に教師たちは反論する。
彼らには彼らなりの言い分があるのだろう。
しかし、そんな彼らの言い分を学長は一蹴する。
「貴方たちがそんな考えだから、学生のレベルがどんどん下がって言っているのですよ」
「「「なっ!?」」」
あまりの言葉に教師たちは言葉を失う。
まさか、自分たちのせいにされるとは思っていなかったのだろう。
反論しようとするが、その前に学長が話を再開する。
「たしかに学生たちは知識も経験も大人に比べれば足りないでしょう。ですが、ただただ知識を得るために講義を聞くだけというのは果たして意味があるんでしょうか?」
「それが講義というものでしょう? そこで学んだことを学生たちが生かすはずですよ」
「それをできた学生がどれだけいますか? 私が知る限りでは、そんな生徒は数えるほどしかいなかったと思いますが……」
「……それでも何人かは出てきたと思います」
学長の指摘に一人の教師が反論する。
たしかに学長の言う通り少ないかもしれないが、それでもゼロではない。
つまり、自分たちのやっていることが意味のない事ではないということだろう。
しかし、そんな教師を学長はバッサリと切り捨てる。
「その学生たちは能力が高かったからですよ。だからこそ、自分たちでその知識を活かすことが出来ただけです」
「なっ!? それが学び舎の長たるあなたが言うことですかっ!」
学長のあまりの言葉に教師が怒り始める。
周りの教師たちも学長に対して睨み付けるような目線を向ける。
しかし、学長は全く堪えた様子がなかった。
「どうして私がこんなことを言いだしたかわかりますか?」
「……そんなことわかるはずないでしょう。我々が当たり前に考えていることとは全く別のことを考えているんですからね」
「……それだから君は駄目なんですよ。はぁ……」
「なんだとっ!?」
学長がため息をつくと、教師が怒りだす。
完全に馬鹿にされたと思っているのだろう。
まあ、それは否定できないが……
だが、そんな教師の怒りを無視して、学長は話を進める。
「私がどうしてこういう提案をしたのか、その理由も考えもせずに否定する。自分たちのやっていることだけが正しいと勘違いして、他の考えを受け入れようとしない──そんな君たちが教師にふさわしいと思いますか?」
「「「「「っ!?」」」」」
学長の言葉に教師たちは反論することが出来なかった。
ムカつくことを言われたが、言っていることはもっともだからだ。
「今までやってきたことを簡単に捨てられないのはわかります。ですが、だからといって間違っていることをそのままやり続けても無駄だということは理解しなさい。そんなんだから、学生のレベルが下がっていくんですよ」
「「「「「……」」」」」
学長の言葉に教師たちは黙ることしかできなかった。
認めたくはない、しかし認めざるを得なかったからだ。
「そもそも、これは君たちのためになるように提案したんですよ?」
「「「「「えっ!?」」」」」
学長の言葉に今度は驚いてしまった。
全員の視線が学長に集中する。
視線が集中しても、学長は気にした素振りもなく話を続ける。
「たしかにグループ学習は学生に主体的に勉強してもらうことを目的にしている。しかし、だからといって教師が介入できないわけじゃない。むしろ、教師たちが率先して混ざることで、さらなる可能性を目指してもらいたいのですよ」
「……どういうことですか?」
「確かに君たちの言う通り、学生たちは知識も経験も浅いでしょう。そんな彼らだけで学習をしたとしても、あまり成果が上がらないでしょう。それがたとえ興味を抱いている分野だったとしても……」
「では、なんでこんなことを……」
「その学生たちを支えていくのが、君たち教師の役目ですよ」
「えっ!?」
学長の言葉に教師陣は再び驚く。
どうしてここで自分たちが、そう思っているのだろう。
「学生たちは自分たちの興味のあることを研究し、様々な可能性を考えていく。それを教師である君たちが確認し、提案していくのです。そうすれば、効率的に学生たちに経験や知識が身につくわけです」
「……」
学長の説明に教師たちは何も言わなかった。
だが、今回の件の意図を納得することはできたようだ。
先ほどまであった学長に対する敵意はいつの間にか鳴りを潜めていた。
それを確認した学長は教師たちに質問する。
「やってくれるかな?」
「「「「「はい」」」」」
学長の質問に教師たち全員がはっきりと答えた。
こうして王立学院で新たなカリキュラムが組まれることになった。
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感想で指摘されたのですが、主人公の一人称が「僕」だったり、「俺」だったりとばらばらになっていることが気になったそうです。これについては、主人公は基本的に一人称が「俺」で、心の中や気を許した
相手に対してはこちらになります。「僕」については目上の人に対してや、礼儀などに対して厳しい母親などの前ではこちらを使っています。ちなみに、学長に対しては目上の人ですが、恨みがあるので「俺」となっています。
あと、主人公が社畜らしくないという指摘については、作者はアルバイト経験しかないのであくまで想像で書いていますので、実際の社畜の方々とは違うと思います。とりあえず、今作の主人公のコンセプトは「断れない性格のため社畜になってしまった主人公が異世界転生しても、その性格のせいでいろいろと巻き込まれる」です。




