6-5 死んだ社畜はやりすぎる
「学長先生」
「はい、なんですか?」
一人の生徒が手を上げ、声をかける。
学長はその生徒の方を向く。
視線を向けられた生徒はよくわからないといった表情で質問した。
「どうして初級魔法の【アクアボール】の方が中級魔法である【アクアバレット】より魔力が多いんですか? もし、そうであるのなら、先ほどの使われる魔力量によりランクが決まるという説明が成り立たないのでは……」
「なかなかいい質問だね」
「ありがとうございます」
質問を聞いた学長が生徒を褒めた。
彼はこういう風に疑問を投げかけるのは好きなのかもしれない。
だからこそ、こういう風に質問をした生徒を褒めるのだろう。
そして、質問をされたからには、しっかりと答えることも忘れない。
「純粋にそれぞれの魔法を使うだけだったら、魔力の使用量は中級魔法の方が当然大きくなるだろう。しかし、そもそもランクを決めるのは魔力量の最少使用量なんだよ」
「最少使用量、ですか?」
「ああ、そうさ。魔法を使うために必要な最少の魔力量によってランクは決められる。ということは、それ以上の魔力を使えば、その魔法は使うことができるということだ」
「な、なるほど……」
学長の説明に驚いてはいたが、生徒は納得したようだ。
まあ、説明はわかりやすかったからな。
この学長は教えるのはかなり上手い部類だろう。
俺を誘拐したなどの問題行動はあるにしろ、教師としてはかなり優秀な部類だと思われる。
そんな学長に別の生徒が手を上げて、質問をする。
「魔力量を増やすと、魔法はどのように変わるのですか?」
「そうですね……多少の変化では分かりづらいですが、例えば魔力量を二倍にすると、単純に魔法の威力が二倍になります。普通に考えれば、アクアボールが2倍の大きさになりますね」
「なるほど……ですが、先ほどのアクアボールは他の人とさほど変わりない大きさに見えたんですが……」
「ああ、それはグレイン君が魔力の凝縮を行っているからですよ?」
「魔力の凝縮、ですか?」
学長の説明に質問をした生徒は首を傾げる。
他の生徒も言葉の意味が分からず、周囲を見渡していた。
と、ここで学長がこちらに視線を向けてくる。
どうやら、俺に説明をしろ、ということなのだろう。
俺は前に出ながら、【アクアボール】を右手から出す。
「これは普通の魔力量で作られた【アクアボール】です。これを破裂させると……」
(パンッ……ザアッ)
「「「「「きゃっ!?」」」」」
「「「「「うわっ!?」」」」」
【アクアボール】の破裂する音に生徒たちが驚いた。
おっと、これは俺のミスか?
事前にしっかりと大きな音がすることを伝えておくべきだった。
だが、俺が見せたかったことはしっかりと見てくれただろう。
というわけで、【アクアボール】をもう一つ作って、説明を次の段階に進める。
「そして、これが魔力を二倍込めた【アクアボール】です」
「え? 大きさが全く変わっていないんだけど……」
俺の右手から現れた水球を見て、生徒の一人がそんなことを言った。
他の生徒も同様の思いを持っているだろう。
では、実践してみせるとするか……
「みなさん、耳を押さえてください」
「「「「「……」」」」」
先ほどのことがあったおかげか、生徒たちは素直に手を耳に当てた。
それを確認した俺は再び水球を破裂させる。
(パアアアンッ……ザアアッ)
「「「「「っ!?」」」」」
目の前で起きた光景に生徒たちは驚きの表情を浮かべる。
これで理解はできるだろう。
「先ほどの水球には通常の2倍の魔力を込めておきました。なので、同じように破裂させると2倍の威力になるわけです」
「じゃあ、なんで大きさが変わらなかったの?」
「それはもちろん、魔力を凝縮することにより大きさを小さくしたからです」
「……とりあえず、そう簡単にできなさそうだということはわかったわ」
俺の説明でなぜか生徒があきらめの表情を浮かべていた。
なぜだ?
「君たちはグレイン君の真似はしないようにね? これは熟練の魔法使いでも危険なことだから……」
「「「「「はい」」」」」
「ええっ!?」
周囲の反応に俺は驚いてしまった。
どうしてそんなことを言われなくてはいけないんだろうか?
「グレイン君の魔力の凝縮は簡単に言うと、小さな容器の中にたくさんの魔力を入れているようなものなんだ。そうすれば、小回りが利くようになるし、威力も高くなる──けれど、失敗すれば、暴発したりするんだ」
「あ、そういうことか」
ようやく意味が分かった。
俺のしていることは、失敗をすると自らを危険にさらしてしまう技術のようだ。
俺としては、昔から練習してきて、いろいろと試行錯誤をしたうえで編み出したものだったので、そこまで危険だとは思っていなかった。
しかし、誰しもが俺と同じではない。
俺と同じようにすれば、当然危険になってしまうことはわかり切っているわけだ。
学長が注意するのは教育者として当たり前のことだったのだ。
「とりあえず、君たちは初級魔法で魔力を増やして使う練習をすればいいんだ。そうすれば、中級魔法に匹敵する魔法を放つことができるようになる」
「「「「「はい」」」」」
学長の言葉に生徒のやる気が一気に出た。
先ほどの説明に納得することができ、自分たちにも強くなる道があると感じたのだろう。
だからこそ、生徒たちはやる気を出すことができたわけだ。
それを見た学長は今後の指導方針を考えようとするが……
「とりあえず、そのためには魔力を自在に扱うようにできないといけないわけだけど……何か方法はある?」
「一朝一夕で出来るものではないですね」
「そうだよね……とりあえず、グレイン君はどんなことをしていたの?」
俺の指摘に学長が悩む。
そして、学長が質問してきたので、俺は自分がしてきたことを告げる。
「とりあえず、周囲にあまり影響のない魔法を常時発動させます。先ほどの【アクアボール】のような魔法を……」
「ほう、意外と普通な練習方法だね?」
「とりあえず、最初は一つを一時間もたせることができるように……それができるようになったら、徐々に数を増やし、時間を増やし……時には、曲芸のように動かして……」
「ちょ、ちょっとま……」
「球状だけではなく、星型や箱型に変えたり、人形のような形にして動かしたり……」
「ストオオオオオップ」
「え?」
なぜか学長が俺の説明を遮った。
俺は説明を遮られたことに嫌悪感を表したが、周囲を見て自分の失態に気が付いた。
「「「「「……」」」」」
生徒の目から光が消えていたからだ。
あ、これはやりすぎた……そう思ってしまった。
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