6-3 死んだ社畜は炎にその身を包まれる
「水の礫よ 彼の者を貫け 【アクアバレット】」
女生徒が魔力を集中させ、水の弾丸を放つ。
かなりの勢いのある弾丸が水球へと向かっていく。
水球を貫通し、破裂させてしまう──そんな光景がこの場にいるほとんどの生徒の頭をよぎっただろう。
しかし──
(ちゃぷんっ)
「「「「「えっ!?」」」」」
結果は生徒たちの予想を裏切るものだった。
なぜなら、水球は破裂をせず、そのままの状態で残っているからだ。
「なんでっ! 完全に当たったはずなのに……」
魔法を放った女生徒が呆然とした様子でその場にへたり込んでしまう。
この結果を受け入れられないようだ。
そんな彼女を見て、近くにいた男子生徒が悪態をついた。
「お前の魔法が弱いんじゃないの? なら、俺の【火属性】の魔法で蒸発させてやんよ。燃え盛る火炎よ──」
「お、おい……」
男子生徒の近くにいた者が呪文に気が付く。
彼は明らかに過剰な魔法を唱えようとしているのだ。
しかし、男子生徒を止めることはできなかった。
「──彼の者を燃やし尽くせ 【ファイアブラスト】」
呪文が完成し、俺に向かって炎の奔流が襲い掛かる。
おいおい、これは流石にやりすぎだろう。
もしかして、俺事巻き込むつもりなんだろうか……
【特別試験】でもないのに……
「はぁ……」
「おい、逃げろっ!」
ため息をつく俺に何人もの生徒が慌てたように遠くから声をかけてくる。
しかし、声をかけられたからと言って即座に行動するのは難しいだろう。
(ブワッ)
「「「「「きゃあああああっ」」」」」
俺が炎の奔流に飲み込まれた瞬間、それを見ていた女生徒たちが大きな悲鳴を上げる。
男子生徒たちもあまりの光景に直視できずに目線を逸らしていた。
「はははっ、特待生だか何だか知らないけど、調子に乗りすぎなんだよっ! 8歳のガキにこの俺が負けるはずがないんだよっ!」
俺に魔法を放った男子生徒がそんなことを叫んだ。
どうやら、俺に対して大層な嫌悪感を抱いているようだった。
まあ、普通に考えれば、俺の存在は他者に嫌悪感を与える存在なのだろう。
なんせ、みんなが頑張っている中で俺だけ特別待遇──優遇されている立場を別の場所から見るとムカつくことこの上ないのだろう。
俺だって、同じような立場だったら同様のことを考えるだろう。
といっても、こんなことはしないが……
「おい、やりすぎだって……」
「【水属性】の奴、はやくこれを消せっ!」
「無理よっ! 中級魔法なんて、すぐには消せないわ」
周囲の生徒たちはかなり慌てているようだ。
まあ、目の前にいた俺が火だるまになれば、慌てるのは仕方のないことかもしれないな。
だが、おかしい事があることになぜ誰も気づかない?
「はははっ、これで僕は卒業要件を満たしたことになるんだな! 流石は僕だっ!」
魔法を放った男子生徒はそんなことを自信満々に叫んでいた。
なぜ、こんなことをしたのに、笑えるのだろうか?
正直、こいつとは仲良くなれる気がしない。
まあ、こんなことをされた時点で仲よくするつもりはないが……
とりあえず、俺は周りを覆っていた水を破裂させ、周囲の炎を掻き消した。
「「「「「えっ!?」」」」」
突然火が消え、中から俺が現れたことで周囲の生徒たちが驚きの表情を浮かべていた。
それは件の男子生徒も同様だった。
驚いていないのは、学長とうちのメンツだけのようだ。
見学していた教師陣は驚いているのに……
「さて、どうして彼が無傷なのかはわかるかな?」
そんな状況下で学長がいきなり問題を出した。
うん、少しは状況を理解してほしい。
こんな全員が驚いている状況下で問題を出しても、誰も答えることなどできないだろう。
「さっき【アクアバレット】を放った君」
「えっ!? えっと……わかりません」
「そうか……わからないか? だったら、君が放った魔法がどうして水球を貫けなかったかもわからないだろうね」
「えっ!?」
学長の言葉に女生徒は驚く。
まあ、それは仕方のないことかもしれない。
俺が無傷なのと彼女の魔法が水球を貫けなかったことは、一見すると関係していないように見えるだろうから……
「さて、シリウス君」
「はい」
「君はわかるかな?」
と、ここで学長はなぜかシリウスに質問した。
ちなみに、彼の隣には怒ったアリスとティリスがおり、二人を頑張って止めているリュコの姿があった。
苦労を掛けるな、本当に……
質問されたシリウスは落ち着いた様子で口を開く。
「二人の放った魔法の中に込められた魔力がグレインの魔法の魔力に劣っているため、効果がなかったんだと思います」
「えっ!?」
「なっ!? 俺たちを馬鹿にしているのか?」
シリウスの答えに魔法を放った二人が驚いていた。
いや、どうしてこの状況下でそんな反応をできるのだろうか、この男子生徒は……
「正解だ。満点の答えだね」
「ありがとうございます」
「「「「「えっ!?」」」」」
学長の言葉にその場にいた生徒たちが驚いていた。
見学をしていた先生たちも同様だった。
まさか一回生のシリウスが答えたものが正解だと思っていなかったのだろう。
内容も信じられないものだったし……
「ふむ……どうやら信じられないようだな……」
学長が周囲の反応を確認し、そんなことを呟いた。
まあ、生徒たちが驚いているということは、言っていることが理解できていないということだ。
「よし、ではきちんと説明することにしよう。みんな、よく聞きなさい」
学長が嬉しそうにそう宣言した。
次の瞬間、なぜか学長の後ろに砂で出来た黒板? が現れた。
「「「「「えっ!?」」」」」
そんな光景を見た生徒たちはさらに驚きの声を漏らしていた。
驚きすぎだろう。
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