プロローグ 死んだ社畜はカリキュラムを聞く
第六章、始まりました~
「というわけで、君のスケジュールはこんな感じだ」
「……なんだ、これ?」
俺は渡されたスケジュールを見て、思わず怪訝な表情を浮かべてしまった。
なんせ、書かれてある内容が到底信じがたいものだったからだ。
週七日のうち四日は朝に【貴族学】と【礼儀作法】の授業を受け、昼からは学長直々の訓練を受けることになる。
この七日のうち、一般的には最後の二日が休みとなるのが普通なのだが、その片方が朝から訓練の時間に埋められており、俺の休みは一日になっていた。
では、五日目はどうなんだ、という話にはなるが……
「この【特別試験】ってのはなんだ?」
「それは、君が他の学生たちといろんな方法で戦うんだ。希望者全員、とね?」
俺の質問に学長が答える。
だが、説明の意味がまったくわからなかった。
「……それのどこが【特別試験】なんだ?」
「ああ、それは君じゃなくて、他の学生たちにとって試験なんだよ」
「どういうことだ?」
「学生たちに連絡はまだしていないが、君をこの【特別試験】で負かすことができれば、卒業認定してあげると伝えているんだ。たとえ、何回生でもね?」
「……それはいいのか?」
おそらく俺の実力を知っているから、こんなことを言っているのだろう。
俺に勝つことができるのであれば、王立学院に残って勉強する意味はない、ということなのだろう。
「まあ、おそらく全員が勝てないだろうね。たとえ勉強でも、戦闘でも、ね」
「じゃあ、なんでこんなことをするんだ?」
学長がこんなことをスケジュールの中に紛れ込ませた意味が分からない。
一体、わかりきった結末に何の意味があるのだろうか?
「まあ、学生たちには自分たちが【井の中の蛙】であることを理解してもらいたいんだ」
「……つまり、世の中にはもっとすごい奴がいるんだ、ということか?」
「そういうことだね。グレイン君に勝てないようだったら、社会に出ても大成できないと思わせるんだ」
「……それはなかなかハードルが高くないか?」
俺はこの世界でもかなりすごい人間であることは自覚している。
おそらく、社会に出れば大成する──いや、もうすでに大成していると言えるのではないだろうか?
確かに俺に勝つことができれば、大成できる可能性はかなり高まるだろうが、だからといって俺に勝つことができないからと言って大成できないわけではない。
明らかに規準が高すぎると思うのだ。
「まあ、あくまで上を見せるだけだよ。あとは本人の頑張りしだいだ」
「……なら、いいんだけど」
学長の言葉に俺は仕方なく納得する。
とりあえず、やりすぎて学生たちのやる気を削がないように注意しないと……
それと気になることがもう一つあった。
「……俺の卒業条件は何?」
自身がどうやったら学校を卒業することができるかについて気になったのだ。
おそらく、ほとんどの学生が必要単位を取ったうえで六年間学院に通うことで卒業することができるのだろう。
俺と戦って勝つということはあくまで裏技中の裏技──成功者はまずいないはずだ。
だが、俺はすでにこの学院で必要な単位のほとんどをとった状態のようだが……
「とりあえず、条件は三つだね」
「三つ?」
学長が手を出す。
そして、人差し指を立てる。
「一つ、【貴族学】と【礼儀作法】の二科目の単位を取る。もちろん最高評価でね」
「……わかった」
一つ目は納得することができた。
俺に足りないものとして、その科目があることは理解できる。
だからこそ、スケジュールに授業があったのだろう。
納得した俺を見た学長が中指を立てる。
「二つ、他の貴族との交流を深める」
「まあ、学院というのはそういう場でもあるからな」
これも納得ができた。
学院というのはただただ勉強をする場所ではない。
勉強をすることが一番大事ではあるが、学校でしか得ることのできない縁というものもある。
つまりはそういう物を得ろ、ということなのだろう。
これもまあ、納得できた。
最後に学長は薬指を立てる。
「三つ、六年の間に私を倒せる実力になれ」
「……それがわからない」
三つ目の条件がおかしすぎる。
どうして、俺にだけそんな条件がつけられるんだ?
他の生徒にはまったくそんな条件はないだろう。
「もちろん、私を倒せなくても前二つをクリアしたうえで六年間通えば、卒業させてあげよう」
「じゃあ、なんでそんな条件をつけたんだ?」
「それはもちろん、グレイン君に期待しているからだ」
「期待?」
学長の言葉に首を傾げる。
そんな俺に彼は自分の頬を撫でながら言葉を発する。
「いくら手加減していたとはいえ、私に傷をつけた者は久しぶりだ。しかも、まだまだ成長途中の子供ならば、今後の成長が期待できる。私を倒すことができる存在になりうる、そう思ったんだよ」
「……酔狂なもんだな」
「否定はしないよ」
俺の言葉に学長は頷く。
本当におかしなエルフである。
まさか自分を倒させるために、俺を入学させるとは……
「だが、六年で卒業させてもらえるんだったら、訓練を頑張らないと思うぞ?」
「君はそんなことはしないさ」
「……なんでだ?」
「それはもちろん、君が負けたままではいられない性格だからさ」
「ちっ」
何もかも見透かしたような言葉に俺は舌打ちをしてしまう。
たしかにそうだ。
俺は負けたままでいることが何よりも嫌なのだ。
だからこそ、カルヴァドス男爵領にいるころからアレンやリオン、ルシフェルに訓練をつけてもらっていた。
もちろん、負け続けてはいたが、いつかは勝つために訓練を続けていたのだ。
まあ、六年という期間があるのだ……その間にこいつに勝つ実力を身に付ければいい。
「わかったよ。覚悟しておけよ?」
「ああ、もちろんだよ」
俺の言葉に学長は笑顔で答える。
まったく調子が狂っちまう。
さて、これで終わりかと思ったが……
「そういえば、君に入学祝いを渡さないと……」
「なに?」
学長の言葉に俺は思わず疑問を感じてしまった。
どうして学長から入学祝いを貰わなくてはいけないんだろうか?
疑問に思う俺をよそに学長は机の上に黒い物体を四つ置いた。
リストバンドのようだが……
「君はこれらを四肢につけて過ごすように。それで訓練すれば、君はもっとすごい実力がつくだろう」
「入学祝いでもなんでもないじゃんっ!」
学長の言葉に俺はツッコんでしまった。
ツッコまざるを得なかったのだ。
まさか訓練道具だとは思わなかった。
入学祝いとか言ってたから、もっといいものだと思っていたのに……
まあ、実力が上がるのであれば、素直につけるとするが……
俺はとりあえず学長にこのリストバンドのようなものの説明を受け、そのあとに四肢にそれを身に付けた。
初めてつけるそれはずっしりと重く感じた。
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