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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第五章 小さな転生貴族は王都に行く 【少年編4】
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第五章 閑話1 人妻たちの午後 1

若干、題名がエッチな雰囲気はありますが、まったくそういう方面の話ではありません。

悪しからず……


 とある日の午後、王都のメインストリートにあるとあるカフェではとある一組が会話をしていた。

 全員がタイプの違う美人であり、周囲はそんな彼女たちに視線を向けていた。

 いや、違うのはタイプだけではないか?

 そんな彼女たちは紅茶とケーキをたしなみながら、こんな会話をしていた。


「はぁ~、うちの旦那には困ったものよ。毎日毎日訓練ばっかりで、まったく政務に目を向けてくれないのよ? 子供は相手してくれているんだけど、基本的には訓練しかしていないわね」


 サーラが愚痴をこぼす。

 これは彼女の旦那のリオンのことである。

 全員の頭に政務を放って訓練にいそしむリオンの姿がよぎった。

 だが、そんなことをおくびにも出さず、エリザベスはフォローをする。


「まあ、それは獣人族なのだから、仕方がないのでは? 本能的に訓練の方が好きなのでしょう?」

「だからって、政務を投げ出していいわけじゃないわ。だって、国王なのよ?」

「……だったら、国王の決める方法を変えるべきだと思おう。あの方法だと、いつまで経っても脳筋しか獣王になれない」

「それなのよね~」

「ちょ、クリスっ!」


 この会話にクリスが入ってきた。

 獣王国の制度を真っ向から否定している。

 そんなクリスに文句を言おうとするが、この場にいる全員が彼女の言っていることが正しい事を知っている。

 クリスの言葉を聞いたサーラはため息をつく。


「獣人の本質が強い者にしか従わない、だからこれを変えるわけにはいかないのよね。私だって、あの人以外の人が獣王になることなんて想像できないもの……」

「息子さんとかどうなのかしら?」

「う~ん、どうかしらね? あの人よりはきちんと政務をこなしてくれそうだけど、国王になれる器じゃないわね、どの子も」

「あら、そうなの? リオンの子供なのに?」

「あの人の子供だからって、全員があの人並みに強くなるとは限らないわ。というか、そもそもあの人が別格すぎるのよ」

「ああ、たしかに……」


 サーラの言葉に女性一同が納得する。

 たしかに、リオンは獣人の中でも異常に強い。

 獣人というのは、本来一対一で戦うことにしか向いていない。

 獣人の一般的な人を一として考えていた場合、少し腕に覚えがある人でも精々5人程度にしか同時に相手することはできない。

 国の中でも猛者と名乗るものでも、同時に10人を相手取るので精一杯だと言われている。

 しかし、獣王リオンだけは違った。

 彼だけは同時に数百人を相手取ることができるという噂があった。

 これはあくまで噂ではあるが、信憑性は高いらしい。

 なんでも彼が国王になることが決定してから、それに反対する者が集団で集まったことがあるらしい。

 それが500人──それが本当ならば、最低でも国の猛者を50人は集めてこないと勝てない計算になってしまう。

 しかし、国の猛者などそう多くいるわけではない。

 というか、そのほとんどが国王を決める戦いで傷ついていたのだ。

 だが、その戦いが起こることはなかった。

 なぜなら、リオンがその集団に殴り込みをかけ、一夜で解決してしまったからだ。

 その事件のおかげでリオンのことを神格視する者も現れたぐらいだ。

 妻としても誇らしい事件ではある。

 しかし……


「もう少し弱くてもいいから、政務を頑張ってくれないかしら? このままだと、私の負担が重すぎるのよ」

「「「お疲れ様です」」」


 サーラの愚痴に残りの女性陣はどうすることもできないとばかりに労いの言葉をかける。

 現に何もできないのだ、愚痴を聞くことしか……

 まあ、とりあえずは自分の所だけではないことを伝えるべきか……


「私のところも困ったものですよ?」

「え? でも、そっちはきちんと政務とかしているんでしょ?」


 クレアの言葉にサーラが驚く。

 サーラの困る・困らないの判断基準は政務をしているかどうかなのだろうか?

 まあ、その点で言うなら、ルシフェルは困らせていないのかもしれない。

 だが、ルシフェルの場合はそこ以外が問題なのだ。


「ルシフェルは新しい魔法や技術を開発したおかげでアビスに発展をもたらしたことで魔王になったんです。それは素晴らしい事ですわ」

「「「たしかにすごいわね」」」

「責任感は強い方ですので、しっかりと政務もこなします。子供たちの相手もよくしています」

「いいわね~」


 クレアの言葉にサーラが本気で羨ましそうな反応をする。

 このままだと交換してほしいと言いそうである。

 しかし、世の中に完璧な人などほとんどいない。

 これだけいいこと尽くめだと、あとで悪い部分が出てきてしまうのだ。


「ルシフェルは研究者気質すぎるんですよ。今でもたくさんのものを発明しようとしています」

「あら、良い事じゃないの?」

「……それで国内の至る所で地形が変わっても言えますか?」

「「「……」」」


 クレアの説明に女性陣は黙るしかなかった。

 先ほどまで羨ましがっていたサーラですら、返答することができなかった。

 その反応を肯定と受け取ったクレアは説明を続ける。


「毎日毎日送られてくる国中からの苦情の嵐──魔王様をどうにかしてくれ、止めてくれ、と連絡が来ていますが、私に止められるはずがないじゃないですか。研究者としての彼を止めることなんて私には無理なんですよ」

「そこまで酷いの? あんなに人の好さそうな顔をしているのに……」

「だから、悪いんですよ。国民たちもあの笑顔に騙されて頷いて、後で文句を言ってくるんですよ? 酷いですよね?」

「「「あはは……」」」


 クレアの言葉に、女性陣は苦笑することができなかった。

 これはかわいそうだ、と。

 しかし、これでクレアの愚痴は終わらなかった。


「国の財政を圧迫していたりするのならば、私にも文句が言えますよ。「魔王たるもの第一に考えるのはアビスのことでしょう」と。でも、あの人は基本的にはそういう影響を与える場所では研究をしないんですよ。そのせいで、私もなかなか文句を言えないのよ」

「……それは困っているな」

「しかも、きちんと成果を上げてくるの。あの人がそういう研究をしているおかげで、うちの経済状況は基本的に上向きなのよ」

「「「……」」」


 クレアの説明に女性陣は何も言えなくなった。

 たしかにこれではクレアも文句の言いようがないな。

 国民から苦情の連絡が来ているが、それでも国益が上向きになっているのであれば一方的に止めることはやめた方が良い。

 むしろ、ルシフェルのおかげで苦情を出した者たちに利益を与えているかもしれないのだ。


「……仕事をしている上に、国益を上向きにしているんだったらいいじゃない」

「クリスさん?」


 と、ここでクリスが会話を始める。

 ここからはエリザベスも話さなければいけないだろう。

 アレンの話をするんだから……


「うちのアレンは政務作業は全くしようとしないわ、苦手だからという理由で……」

「「うわぁ」」

「でも、カルヴァドス男爵領内の魔獣の駆除とかは率先してやってくれるんです。そういうことが好きですから……」

「「まあ、そうでしょうね」」


 クリスとエリザベスの言葉に二人は納得する。

 二人の旦那との友達ということで、アレンのことはきちんと聞いているのだろう。

 ならば、詳しく説明することはない。


「この前なんて、お腹が痛いなんて子供のような理由で政務から抜け出そうとしたわ。今までほとんど病気なんてしたことがない人が急にお腹が痛くなるなんてありえるわけないじゃない」

「しかも、そのまま屋敷から抜け出して魔獣を倒しに行ったのよ? きちんと書類の中からそういう依頼を見つけて、それだけを解決するように……」

「別に行くな、とは言わない。でも、少しは優先度というものを重要視して……」

「すぐに返事をしないといけない書類とかも放っていくのよね。しかも、男爵直々にサインしないといけないものもあるし……」

「私たちがサインするわけにもいかないわ。だから、待つわけだけど……」

「いつまで経っても帰ってこないのよね……」

「「……」」


 エリザベスとクリスの愚痴に二人は返事することができない。

 この二人も苦労しているんだろうな、という同情しかできなかった。

 あと、奥さんが二人いるということで、自分たちのとこの二倍愚痴が出ているのでアレンに対して同情の気持ちもあった。


「まあ、どこも困っているのは一緒ということよ」

「ええ、そうね」

「隣の芝が青い、ってやつよね」

「自分が一番不幸だと思っていたけど、みんなも苦労しているのね」


 四人はそれぞれの愚痴を吐き出した後、そう結論付けた。

 そして……


「「「「はぁ……」」」」


 大きくため息をついた。

 つかざるを得なかったのだ。






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