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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第五章 小さな転生貴族は王都に行く 【少年編4】
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エピローグ 双子の兄は入学式に臨む


(シリウス視点)


「よし、全員いるな?」

「「「「うん」」」」


 父さんの言葉に僕たちは返事をする。

 現在、僕たちは王立学院の講堂の近くにいた。

 なぜなら、今日は僕たちの王立学院での入学式だからだ。

 入試を受けたのが2週間ほど前、一週間前に合格の通知を貰って、現在に至るわけだ。

 一週間の間に王都で生活する準備を整え、いざ入学を待つばかりだった。

 といっても、大した準備をしていたわけではない。

 なんせ、住む場所をお爺様であるバランタイン伯爵が屋敷に住むように言ってくれたからだ。

 といっても、元々そのつもりだったらしい。


「へぇ……ここが私たちの通う学校か……」

「うぇ~、人がいっぱいだ……」


 ティリスさんとレヴィアさんが周りを見渡しながら、そんなことを呟いていた。

 今回入学するのは、僕とアリス、そしてティリスさんとレヴィアさんの四人だ。

 まさか彼女たちも一緒に入学するとは思わなかったけど、僕は少しでも知り合いが多い方が安心できると思った。

 なんでも、彼女たちはこの学院の学長が直々にリオンさんとルシフェルさんに提案し、入学することになったらしい。

 なんでも、これからのビストとアビス、それぞれと関係を深くしていくために、どんどん王立学院に獣人や魔族の生徒を受け入れていこうという話になったらしい。

 彼女たちはその第一号となるらしい。

 断っておくと、彼女たちは別に裏口入学で入ったわけではない。


「しかし、私たちの晴れの舞台っていうのに、グレインはどこにもいないわね?」

「そうよね。婚約者たちが入学するっていうのに、お祝いの言葉もかけないなんて……」

「……どこにいるんでしょう?」


 突然、彼女たちはここにいないグレインのことを話題に上げた。

 なぜか、この場にはグレインはいなかった。

 それ以外の家族たちは全員揃っているのに……

 シャルロット王女様のパーティーの途中からなぜかグレインの姿が見当たらなくなった。

 彼のことだから危険に巻き込まれているとかそういうことはなかったが、それでも姿が見えないことには疑問に思った。

 全員で父さんたちに聞きに行ったのだが、「詮索はするな」の一点張りだった。

 とりあえず、元気でやっていることだけは聞き出せたが、それ以上のことは何もわからなかったのだ。


「ねぇ、リュコ? 本当に貴方も知らないの?」

「……はい、私も知りません」


 アリスの言葉にリュコは首を振る。

 彼女はグレインの専属のメイドである。

 だからこそ聞いたわけなのだが、彼女にすらグレインは居場所を伝えていないようだ。

 本当にどこに……


「さて、そろそろ入学式の受付が始まるな。そろそろ中に入るぞ」

「「「「うん」」」」


 アレンの指示に従い、僕たちは行動の中に入っていった。



◆ ◇  ◆  ◇  ◆


「え~、新入生の皆さんには我が学院生の自覚をもって……」


 壇上では一人の男性が話していた。

 たしか、教頭と言っていただろうか?

 教頭ということはこの学院の先生の中でもかなり上の位だが、一番上ではなかったはずだ。

 それなのに、話が非常に長い。

 話し始めて、もうかれこれ30分近く経っているだろう。

 周囲にいる生徒たちは僕が確認できる部分だけで言っても、ぐったりしているのが3割、眠っているのは3割、横の人と話しているのが3割だった。

 残りの1割は何をしているのだろうか、よくわからなかった。


「ですから、君たちはこの国の未来を担う若者として、頑張っていただきたい。それでは私の話は以上とします」


 ようやく教頭の話が終わったようだ。

 はぁ……疲れた。

 まさか話を聞くだけでこれほど疲れるとは思わなかった。

 それはこの場にいる全員が同じようで、教頭の話が終わったのに拍手はまばらだった。


「続いて、新入生主席による宣誓です」


 司会の人がそう告げる。

 新入生主席──つまり、この前の入試でトップの成績をとった者が壇上に上がり、学長に宣誓するのだ。

 これは新入生の一番であることを意味し、これを狙うために頑張る受験生もいるぐらいだ。


「シリウスじゃないの?」


 後ろにいたアリスが話しかけてくる。

 だが、僕は首を横に振った。


「残念ながら、僕じゃないよ。僕は勉強と魔法は得意だけど、戦闘の実技の方がからっきしだからね」

「じゃあ、誰かしら? もしかして、キュラソー公爵のところの……」


 僕が否定すると、アリスは次に思いついた人物の名前を出そうとする。

 たしかに、その人だったらありえなくはないと思うけど……


「私でもないわよ?」

「「「「っ!?」」」」


 いきなり話しかけられ、僕たちは驚いてしまった。

 声の方を向くと、そこにはキュラソー公爵家令嬢のイリアさんがいた。

 彼女は微笑みながら、口を開く。


「私も勉強だけしかできないわ。魔法とか戦闘はできないの」

「じゃあ、誰なの?」


 イリアさんの言葉にアリスが思わず質問する。

 彼女は身内か、知っている人から主席が出ると思っていたらしい。

 まあ、うちの異常性を知っている者だったら、そう思っても仕方がないだろう。

 僕だって、戦闘が苦手と言ってはいるが、世間一般では人並み以上にできるレベルのはずだ。

 つまり、今回の主席はそんな僕たちを超えた、すごい人だということだが……


「ふふふっ、知ったら驚くわよ~」

「え? 知っているんですか?」


 イリアさんの言葉に僕は聞いてしまう。

 彼女は公爵家の人間──ならば、知っていてもおかしくはないのかもしれない。

 そんなイリアさんをアリスは睨みつける。

 とっとと言え、といった感情を込めているのだろう。

 だが、そんなアリスの視線など気にした様子もなく、イリアさんは告げる。


「それは見てからのお楽しみよ。あっ、学長が壇上に上がったわ」


 イリアさんの言葉に僕たちは再び壇上に視線を向ける。

 そこには一人のイケメンが立っていた。

 年のころは30代前半、長い金髪ときめ細かい白い肌が特徴で、女の子なら思わず見とれてしまうほどのルックスの男性である。

 いや、男の僕でも見とれてしまっているな。

 といっても、恋愛的な感情からではなく、ああいうルックスを持っていることへの羨ましさからだ。

 そして、彼の特徴はなんといっても、耳である。

 人間の耳より細長く、尖った耳。

 つまり、エルフである。

 この学院の学長はエルフが務めているのだ。

 なんでもリクール王国の初代国王が学院を作らせるうえで、学長というのは素晴らしい人格者であり、誰からも尊敬されるぐらい文武に優れていないといけないという考えから彼に頼んだらしい。

 あくまで、これは噂ではあるが……

 あと、代変わりすることにより学院が廃れていくことを危惧し、長命であるエルフに頼んだという説もある。

 とりあえず、学長はエルフなのだ。


「あれ?」


 僕は思わず首を傾げてしまった。

 なんせ、学長が壇上に登場したのに、新入生主席が現れていないのだ。

 そのことに周りの人間も気付きだした。

 もしかして、体調不良で休んでいるのだろうか?

 いや、だったら事前に連絡がきており、代役を立てているはずだ。

 なら、どうして……


(ミシ……)


「ん?」


 なんか変な音が聞こえてきた。

 僕は思わず上を見る。

 アリスやティリスさん、レヴィアさんも上を見ていた。

 そんな僕たちを見てか、イリアさんも視線を上に向けた。

 そこにあったのはもちろん天井だった。

 高さは30メートルほどか、人間がジャンプをしたって届かないぐらいの高さがあった。

 獣人の優れた身体能力だって無理かもしれない。


(ミシミシ……)


「「「「「ん?」」」」」


 さらに大きな音が鳴り、周囲の生徒たちも異変に気が付いたようだ。

 周囲を見渡していた。 

 僕たちが視線を向けていた天井はというと、小さくひびが入っていた。

 そこからうっすらと光が差し込んでいた。

 あれは直した方が良いのでは……そう思った瞬間。


(ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ)


 天井がいきなり轟音をたてて爆破した。

 いきなりの出来事に生徒たちは唖然とした表情を浮かべていた。

 そして、天井が勢いよく落ちてくる。

 このままではまずい、そう思ったのだが、不意に風がよぎった。


「ふふふっ、やりすぎですね」

「お父様っ!」


 いつの間にかルシフェルさんが僕たちの近くにやってきて、落ちてきた天井を手で受け止めていたのだ。

 いや、正確に言うと、風の魔法で受け止めていた。

 父親の登場にレヴィアさんがものすごく驚いていた。


「がははっ、言ってやるな。被害者なんだから、相当イラついているんだろうよ」

「お父さんっ!」


 今度現れたのはリオンさんだった。

 リオンさんはルシフェルさんが受け止めた天井に衝撃を加え、巨大な天井を粉々の砂状にしてしまった。

 生徒たちにぶわっと砂がかかってしまった。

 まあ、天井の下敷きになるよりはましか……

 しかし、一体二人の言っていることは……


「これはあとで説教だな。やるのはリズだが……」

「父さん?」


 今度現れたのは父さんだった。

 だが、父さんは何もやっていなかった。

 なんせ、ルシフェルさんとリオンさんでやることは終わらせてしまっていたからだ。

 しかし、一体三人は何を……思わず問いかけようとした瞬間、講堂中に大音量の声が鳴り響いだ。


「この糞爺がああああああああああああああああああっ」


 穴の開いた天井から小さな影が飛び降りてきた。

 いや、飛び降りたというよりは勢いよく発射されたという表現の方が正しいかもしれない。

 その小さな影は学長に向かっていった。

 その小さな影を覆うように炎が生まれていた。

 そして、そのまま勢いよく学長に突進し……


「ふむ……まだまだですね。これではまだ私を倒せませんよ」

「ちいっ!?」


 学長はあっさりと襲撃者の攻撃を受け止めていた。

 攻撃を受け止められたことに、小さな影は舌打ちをする。

 小さな影は纏っていた炎を消し、ゆっくりと立ち上がった。

 そこにいたのは……


「彼が今年の新入生主席──グレイン=カルヴァドス君です。みなさん、仲良くしてやってください」

「「「「「えええええええええええええええっ!?」」」」」


 学長の紹介に会場中が驚きの叫びで一杯になった。






ブックマーク・評価・レビュー等は作者のやる気につながるのでぜひお願いします。

勝手にランキングの方もよろしくお願いします。


この話で第5章のメインストーリーは終わりです。

この後、閑話をいくつか、キャラクター紹介を入れてから、第六章に行こうと思います。

第6章からいよいよ学院編です。


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