5-84 死んだ社畜は本気で戦う
「【砂嵐】」
俺は砂に魔力を流し、再び砂嵐を起こす。
「それは先ほど見ましたよ?」
だが、砂嵐をものともせず、男はそんなことを呟いた。
その言葉の通り、一瞬で砂嵐は霧散してしまった。
これは一体、どういうことだ?
砂嵐の中では俺の魔力が循環しているはずだから、そう簡単に壊すことはできないはずだ。
それをこの男は事も無げにやってのけたのだから、この男のレベルの高さが伺える。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
俺は魔力を足に集中させ、【身体強化】を行う。
そして、背後から接近して、殴り掛かった。
「おや、【身体強化】もできるのですか? てっきり、魔法使いだと思いましたが……」
「くっ!?」
だが、殴り掛かった手を取られ、俺は投げ飛ばされてしまった。
俺は空中で体勢を戻し、片手を地面に着きながら着地をする。
これは完全に遊ばれているな……
「【ウィンドカッター】」
俺は風の刃を男に向けて放つ。
俺はこの時点でまったく加減することは頭になかった。
俺が放った風の刃は王都の壁程度なら貫通することができるほどの威力があるはずだ。
しかし……
「この程度ですか?」
(ブワッ)
「なっ!?」
男が手を盾に振った瞬間、風の刃が一瞬で霧散した。
なんだ、こいつは……
いくら【初級魔法】だとしても、俺が魔力を込めて作った風の刃だぞ?
かなりの魔力を凝集させたので、並みの【中級魔法】では太刀打ちできないほどの威力だったはずなのだが……男は事も無げに、しかも片手を振るっただけで霧散させやがった。
これはまずいな……
「もう終わりですか?」
「まだだぁっ! 【炎槍】、【氷槍】」
俺は右手に炎の槍、左手に氷の槍を生み出して放った。
これは俺の技の中でも虎の子でもある。
なんせ、この世界で魔法というのは基本的に一人一つの属性しか持っていない。
もちろん複数の属性を持つ人間もいるが、希少な上に近似する属性しか持っていないが多い。
しかし、俺は全属性の魔法を使うことができるので、相反する属性の魔法を使うことができるのだ。
これを使うことによって、片方の属性に集中をしている間に、相反する属性で攻撃することができるわけだが……
「ほう……二属性を同時に扱いますか……」
「なっ!?」
「しかし、魔力の練りが甘いですね」
俺の虎の子は男によってあっさりとはたき落されていた。
地面に落ちた瞬間、それぞれの槍はあっさりと砕け散った。
ここで俺は決意した。
次の攻撃で最後にしよう、と。
「【土錬成・土槍】」
俺は地面に両手をつき、魔力を流す。
俺の前には100もの砂で出来た槍が生まれる。
「ほう」
これには男も今までにないぐらい驚いたようだ。
だが、この程度で驚かれては困る。
「くらいやがれっ!」
俺の声と共に砂の槍が一気に男へと襲い掛かる。
100近い槍が一気に襲い掛かってきたのに、男はそのにやけた表情は変わっていなかった。
「甘いですね。実力差はわかっているのですから、この程度で私を傷つけられるとは……」
「思ってねえよっ!」
男の言葉に俺ははっきりと答える。
俺は最初の時点で気づいていた。
目の前の男と俺は圧倒的な実力の差があることを……
ならば、その実力の差を埋めるために様々な策を練らなくてはいけないことも……
それがこの100もの砂の槍だ。
「(スパッ)なっ!?」
「ようやく届いたな」
一本だけ遅らせた砂の槍が男の頬に傷をつけた。
一応、本気で顔面を狙っていたのだが、男が直前に気付いて回避したのだ。
といっても、完全に回避できなかったため、頬に傷がついたわけだが……
しかし、これで男の顔を拝むことができる。
先ほどの砂の槍のおかげで男の顔を覆っていたローブがはがされたのだから……
「なっ!?」
現れた顔に俺は驚く。
なんせ、そこにいたのは……
「エルフ、だと?」
金色の髪にきめ細かい白い肌、長い耳が特徴の種族が俺の目の前にいたからだ。
別にエルフが存在していることには驚いてはいなかった。
ダークエルフが王都にいるのだから、王都にエルフがいてもなにもおかしくはない。
だが、どうしてこんなところで俺と戦うことになっているのだろうか?
しかも、王立学院の教師らしい。
エルフで王立学院の教師というのは……
「私からローブを剥がすとは……予想以上の力ですね。聞いていた以上です」
「なに?」
男の言葉に気になったところがあった。
「聞いていた」だと?
一体、誰に聞いていたんだ?
だが、俺はその疑問を質問することはできなかった。
「では、私の本気を少し見せましょう。死なないでくださいね?」
「なっ!?」
男の言葉に俺は咄嗟に両手をクロスさせ、魔力を集中させた。
次の瞬間、俺は荒れ狂う暴風に飲み込まれた。
そして、暴風に巻き込まれた状態で意識を失ってしまった。
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このエルフさんが誰なのかはすぐに明らかになる予定です。
楽しみにしてください。




