5-83 死んだ社畜は怪物扱いされる
「何、やってるの?」
「その子たちって、私たちに話しかけてきた男の子たちよね?」
イリアさんとシャルロット王女が周りの光景を見て、そんなことを言っていた。
死屍累々、まさにそう評することができる光景だった。
といっても、怪我人は一人もいないが……
「……やりすぎたか?」
俺は目の前の光景を見て、思わずそう呟いてしまう。
もちろん、きちんと手加減をしてやった。
しかし、この光景を見ると、もしかしたら自分ややりすぎてしまったのかもしれないと思ってしまう。
そんなことを考えていると、リーダー格の少年が吠える。
ほう、もう回復したか……
「お、お前はなんなんだよっ!」
彼の周りにいる少年たちも同じような様子で恐怖の表情を浮かべている。
まあ、それも仕方のない事だろう。
俺がやったことは彼らには想像つかないことなのだから……
だが、俺の方も言いたいことがあった。
「……これぐらいなら魔法の訓練をしていればできるはずだぞ?」
「できるわけないだろっ! 冒険者の魔法使いならまだしも、お前のような子供にできるはずがないっ!」
「……君たちも子供なのだけど?」
少年たちの文句に俺は首を傾げる。
俺のことを子供扱いしてきたが、俺と彼らの間にはおそらくそこまで差がないはずだ。
シャルロット王女やイリアさん、うちの女性陣にナンパな発言をしていたところから察するに、彼女たちより少し年上であると思われる。
しかし、彼らにとって問題はそこではないようだ。
「なんでお前みたいな子供が【中級魔法】なんて使えるんだよっ!」
「そういうのは学園に入ってから習うはずだっ!」
「ああ。普通は貴族の家庭では【初級魔法】しか練習しないのが普通だっ!」
少年たちがそんなことを言ってくる。
どうやら俺の魔法がおかしい事について文句を言って来ているようだった。
まあ、確かにおかしい事は自覚している。
年不相応だと言われても仕方がないだろう。
とりあえず、俺が言えるのは……
「才能?」
「「「ふざけるなっ!」」」
「えぇ……」
即座に反撃され、思わず嫌な顔を浮かべてしまう。
だが、正直それ以外に言いようがなかったのだ。
転生云々の話をしてもこいつらにはまったくわからないだろうし、努力をしていないわけではないがそれは元々俺にある才能を伸ばすためにしているだけなのだ。
だからこそこの答えだったわけだが、どうにもお気に召さないようだ。
まあ、俺も同じ立場だったら同様の反撃をしそうだが……
「グレイン君……流石にその答えはどうかと思うよ?」
「……そうですね。相手を怒らせるだけでしょうし……」
いつの間にか俺の後ろに来ていた二人の少女が微妙な表情でそんなことを言ってくる。
うん、言っていることはもっともなのだが、それよりも前に言うことがあるのではないだろうか?
まあ、別に俺はそれを求めてこんなことをしたわけではないのだが……
「いや、他に言いようがないでしょう? というか、二人も【才能】がある側の人間でしょう?」
「「……」」
俺の言葉に二人は黙ってしまう。
どうやら身に覚えがあるようだ。
というか、二人にそういう【才能】があるからこそ周りに人が集まるのだ。
強い力を持った者の特権といったところだろうか?
俺の周りにも俺の意図とは関係なく人が集まっているのも同じ理由のはずだ。
元々はスローライフを送るためにこんな才能をつけたのに、まさかこんなことになるとは……
もう少ししっかりと考えた方がよかっただろうか?
まあ、今となっては後の祭りか?
「イチャイチャしているんじゃねえよっ!」
「見せつけんなよっ!」
俺が少女二人と話していると少年たちが文句を言ってくる。
元々、戦うことになった原因はこの二人だったりする。
困っている様子だったので俺が間に入ってきたわけだが……
しかし、君たち?
そんな風に腰を抜かした状態でよくそんなことを言えるな?
やった本人がいえることではないが、それでも情けない姿であることにはかわりない。
まあ、彼らのプライドのために言わないでおこう。
「あ、そういえば……」
「なんだよ?」
「さっき【中級魔法】とか言っていたけど、あれは【初級魔法】だぞ?」
「「「「「嘘つけっ!」」」」」
「……」
俺の言葉に今度は少年たちだけではなく、少女たちからも反撃が来た。
いや、なんで?
俺は納得がいかない表情でそのまま黙り込んでしまう。
だが、俺としてはそういう以外ないのだ。
そんなことを考えていたら、不意に誰かの声が聞こえてきた。
「【初級魔法】の複合ですね」
「ん?」
声のした方を振り向くと、そこには一人の男性がいた。
フードを目深にかぶっているので、どんな顔なのかはわからない。
だが、身長はバランタイン伯爵ぐらいあるので、大人であることはすぐに分かった。
声は彼に比べると、格段に若く聞こえるが……
「まさか君のような子供がそんな高等技術を使えるとは……」
「そこまで難しい事か? 魔力の流れを把握できれば、それぐらいの芸当なら誰でもできると思うけど……」
「魔力の流れを感じることができないから、その技術の難易度が高まっているのですよ? そして、それを平然とやってのける君が異常なんですよ?」
「初対面の子供を相手に【異常】は失礼じゃないですか?」
「君自身も認めているでしょう? 自分が異常であることは?」
「……」
男の指摘に俺は返答することはできなかった。
たしかに、俺は自分のことを世間一般と比べてかなりずれていることは認めている。
それは異常であることを認めているということだろう。
しかし……
「だからって、他人に言われたいとは思わねえよ」
「おやおや、すみません」
「ちっ」
男の言葉に俺は思わず舌打ちしてしまう。
一体、何者なんだ、こいつは……
どうやら先ほどから俺たちの戦いを見てたようだが、騎士団の人間か?
いや、だったら止めようとしているはずだ。
なら、一体誰なんだろうか?
そんなことを考えていると、男が微笑みながら答える。
「とりあえず、この子たちは私の生徒です。それをここまでやってしまったので、相手していただきましょう」
「……学院の先生か?」
男の言葉に俺はとある推測を導き出す。
この少年たちは年齢的に王立学院に通っているはずだ。
つまり、彼の言ったことを真正面から受け止めるなら、彼は王立学院の先生ということになるが……
「まあ、そんなものですね」
「……」
男の言葉に俺は首を傾げてしまう。
彼の言葉から導き出される唯一の答えのはずだが、どうにも違うようだ。
ならば、どこかに抜け落ちたピースがあるはずなのだが……
(ブワッ)
「ちいっ!?」
考え事をしていると、不意に足元に風が通り過ぎた。
俺が先ほど使ったような手加減した風ではなく、地面の砂を抉り取るほどの威力だった。
この男、なんて魔法を使いやがる。
だが、男はまったく悪びれた様子もなく、笑顔で言い放った。
「油断大敵ですよ? これが戦場でしたら、君はもう死んでいた筈です」
「てめぇ……」
男の言葉に俺は久々にブチ切れてしまった。
ここまで馬鹿にされたのだ。
だったら、その笑顔を恐怖の表情に変えてやる。
俺はそう決意し、体全体に魔力を循環させた。
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